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しおりを挟む「羨ましいって?」
朔からの質問に、俺は正直うんざりしていた。酩酊と嫉妬が混ざったドス黒いものが、胸の中で渦巻いている。早めに会話を切り上げた方が、俺にとっても朔にとっても良さそうだ。
「俺も幸せになりたい、みたいな。結婚式に参加すると、そういう気持ちになるだろ?」
「ふぅん」
俺の答えに、朔は興味なさそうに相槌を打つ。
その態度に、俺は昔を思い出す。朔は泣き虫で可愛らしかったが、やんちゃ坊主でもあった。よく俺にイタズラしたり、ちょっかいを出したりしてきたのだ。構ってくれとねだったくせに、俺が構ってやると、急につまらなさそうにしたこともあった。俺と陸は、なんだかんだ朔に手を焼いていたのだ。
目の前のイケメンが、途端に小さな餓鬼に見えてきた。見た目は育ったが、中身は変わらない。それがわかると、思わず笑いをこぼしてしまう。
「なに?」
怪訝そうな顔をする朔に、俺は笑いを抑えながら答える。
「いや、変わらないなって」
「変わらない?」
「うん。朔が昔と変わらない」
「そう?結構変わったと思うよ」
朔はスッと目を細めて、俺の腕を掴んだ。突然の行動に、俺は朔の顔と自分の腕を見比べる。
「直都さんは、何が幸せなの?」
「え?」
「さっき幸せになりたいって」
「言ったけど……」
俺の幸せは、陸とずっと一緒にいることなのだ。そんな願いは言えるはずはなく、叶わないことはわかっている。
「急に聞かれても、思いつかないから」
半分本音で、半分誤魔化しの答えを返す。しかし、朔は諦めていないようで、「簡単なものでもいいから」と食い下がる。俺の腕も掴まれたままだ。
朔に見つめられる緊張感と酒による酩酊感で、思考はうまく回るはずがない。それに、自分の幸せについて真剣に考えた経験があるわけでもない。俺はうんうんと唸りながら、俺自身の幸せについて考えてみる。
「普通に、デート、とか?」
俺の辿り着いた答えはシンプルなものだった。陸と過ごした日々は確かに幸せで楽しく、それを世間一般的に、曲解すると、『デート』という扱いになる。曲解にもほどがあるが。
俺の答えを聞いた朔は、驚いたように、少し目を見開いた。そもそも俺の幸せを知って、どうしようと言うのだろう。俺は朔の意図をつかみ損ねている。
「じゃあ、それね」
「え?」
「俺とデートしよう」
「は?」
朔の言葉の意味がわからず、俺の口からは素っ頓狂な声が漏れた。俺の幸せのために、なぜ朔が俺とデートをするのだろう。訳がわからない。
はてなマークを飛ばす俺を放置して、朔は俺の腕から手を離し、スマホを取り出す。
「連絡先教えて」
「だから、どうして……」
「直都さん」
俺の言葉は、朔によって制された。綺麗な顔で、鋭い視線を向けられると、圧倒されてしまう。
「直都さん、幸せになってよ」
朔はにこりと笑った。その口調は、あまりにも迷いなく、真っ直ぐで、俺は思わず「はい」と頷いていた。
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