直都さん、幸せになってよ

えつこ

文字の大きさ
上 下
2 / 4
#1

2

しおりを挟む
 



 負の感情を持て余し、廊下を行ったり来たりしていると、「直都さん」と声をかけられる。顔を上げると、男性が立っていた。グレーのスーツを着た男性の手足は細長く、全体的に細身で、スタイルがいい。
 
「久しぶり、直都さん」

 優しく微笑んでいる男性は、少し長めのブラウンの髪を自然と流し、爽やかな雰囲気だ。二重瞼、はっきりした鼻筋、バランスがいい顔立ち、きめ細やかな肌に、イケメンだと言う感想を抱いた。

「えっと……」

 俺は酒でふわふわとした頭で、友人・知人・仕事関係者の顔を思い出す。しかし、思い当たる人がおらず、首を傾げた。

「俺のこと、覚えてない?」
「……すいません」
「仕方ないよ、だって、十五年とか二十年とか、それくらいぶりだし」

 可笑しそうに頬を緩めた顔に、俺は「あっ」と声を漏らした。その笑い方が陸に似ている。それに気づくと、目の前のイケメンの正体が判明した。

「もしかして、朔(さく)……?」
「思い出した?」
「え、ほんとに?朔?こんな大きくなって……!」

 俺は朔に近づき、思わずばしばしと肩を叩いた。

 朔は陸の三つ下の弟だ。小学生の時は、俺と陸と朔の三人で一緒に遊んだものだ。学年が上がるにつれ、朔とは遊ばなくなった。俺が覚えている朔の姿は、ランドセルを背負っている姿だ。
 朔は泣き虫で、陸と喧嘩をする度に俺に泣きついてきた。小さかった朔が、急に王子様のようなイケメンになって目の前に現れて、俺は驚いていた。
 
 陸の結婚式なのだから、その弟である朔がいるのは至極当然のことだ。記憶から抜け落ちていた朔に悪いと思いつつ、俺は会話を続ける。

「いくつになった?」
「二十四歳」
「えぇ、そんなに?」
「直都さんだって、もう二十七だろ?」
「まぁ、そうだけど」

 俺はもう一度朔の姿を確認する。記憶の朔とは違い、すっかり大人になっている。それに俺よりも身長が高い。顔がかっこよく、スタイルのいい朔は、さぞかしモテるのだろう。

「ここで何してたの?」

 朔が尋ねてくる。俺は「ちょっと酔い覚まし」と嘘をついた。嫉妬まみれの本音は言えるわけがない。

「なんか楽しくなさそうだけど」
「え?」
「泣きそうな顔してたし」
「そんなことないって」

 俺は慌てて頬をふにふにと揉み、笑顔を作った。探るような朔の視線が痛い。
 俺は言い訳を探して、また絨毯の模様を目でなぞった。朔は俺の言葉を待つように何も言わないため、俺は急拵えの言い訳を伝える。

「幸せそうな二人を見て、羨ましいなって思ってただけ」

 曲解すれば嫉妬にたどり着きそうな理由に、我ながら捻りがないと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる

ひよこ麺
BL
30歳の誕生日を深夜のオフィスで迎えた生粋の社畜サラリーマン、立花志鶴(たちばな しづる)。家庭の都合で誰かに助けを求めることが苦手な志鶴がひとり涙を流していた時、誰かの呼び声と共にパソコンが光り輝き、奇妙な世界に召喚されてしまう。 その世界は人類よりも高度な種族である竜人とそれに従うもの達が支配する世界でその世界で一番偉い竜帝陛下のラムセス様に『可愛い子ちゃん』と呼ばれて溺愛されることになった志鶴。 いままでの人生では想像もできないほどに甘やかされて溺愛される志鶴。 しかし、『異世界からきた人間が元の世界に戻れない』という事実ならくる責任感で可愛がられてるだけと思い竜帝陛下に心を開かないと誓うが……。 「余の大切な可愛い子ちゃん、ずっと大切にしたい」 「……その感情は恋愛ではなく、ペットに対してのものですよね」 溺愛系スパダリ竜帝陛下×傷だらけ猫系社畜リーマンのふたりの愛の行方は……?? ついでに志鶴の居ない世界でもいままでにない変化が?? 第11回BL小説大賞に応募させて頂きます。今回も何卒宜しくお願いいたします。 ※いつも通り竜帝陛下には変態みがありますのでご注意ください。また「※」付きの回は性的な要素を含みます

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...