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しおりを挟む負の感情を持て余し、廊下を行ったり来たりしていると、「直都さん」と声をかけられる。顔を上げると、男性が立っていた。グレーのスーツを着た男性の手足は細長く、全体的に細身で、スタイルがいい。
「久しぶり、直都さん」
優しく微笑んでいる男性は、少し長めのブラウンの髪を自然と流し、爽やかな雰囲気だ。二重瞼、はっきりした鼻筋、バランスがいい顔立ち、きめ細やかな肌に、イケメンだと言う感想を抱いた。
「えっと……」
俺は酒でふわふわとした頭で、友人・知人・仕事関係者の顔を思い出す。しかし、思い当たる人がおらず、首を傾げた。
「俺のこと、覚えてない?」
「……すいません」
「仕方ないよ、だって、十五年とか二十年とか、それくらいぶりだし」
可笑しそうに頬を緩めた顔に、俺は「あっ」と声を漏らした。その笑い方が陸に似ている。それに気づくと、目の前のイケメンの正体が判明した。
「もしかして、朔(さく)……?」
「思い出した?」
「え、ほんとに?朔?こんな大きくなって……!」
俺は朔に近づき、思わずばしばしと肩を叩いた。
朔は陸の三つ下の弟だ。小学生の時は、俺と陸と朔の三人で一緒に遊んだものだ。学年が上がるにつれ、朔とは遊ばなくなった。俺が覚えている朔の姿は、ランドセルを背負っている姿だ。
朔は泣き虫で、陸と喧嘩をする度に俺に泣きついてきた。小さかった朔が、急に王子様のようなイケメンになって目の前に現れて、俺は驚いていた。
陸の結婚式なのだから、その弟である朔がいるのは至極当然のことだ。記憶から抜け落ちていた朔に悪いと思いつつ、俺は会話を続ける。
「いくつになった?」
「二十四歳」
「えぇ、そんなに?」
「直都さんだって、もう二十七だろ?」
「まぁ、そうだけど」
俺はもう一度朔の姿を確認する。記憶の朔とは違い、すっかり大人になっている。それに俺よりも身長が高い。顔がかっこよく、スタイルのいい朔は、さぞかしモテるのだろう。
「ここで何してたの?」
朔が尋ねてくる。俺は「ちょっと酔い覚まし」と嘘をついた。嫉妬まみれの本音は言えるわけがない。
「なんか楽しくなさそうだけど」
「え?」
「泣きそうな顔してたし」
「そんなことないって」
俺は慌てて頬をふにふにと揉み、笑顔を作った。探るような朔の視線が痛い。
俺は言い訳を探して、また絨毯の模様を目でなぞった。朔は俺の言葉を待つように何も言わないため、俺は急拵えの言い訳を伝える。
「幸せそうな二人を見て、羨ましいなって思ってただけ」
曲解すれば嫉妬にたどり着きそうな理由に、我ながら捻りがないと思った。
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