家に帰ると推しがいます。

えつこ

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10.後日

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「仲良いって、そういう、恋愛的な感じじゃないから」
「それはわかってますけど……」

 イオは不貞腐れていた。腹いせに、総司の背中にぐりぐりと額を押しつける。普段のイオならやらないことだが、酒が入っているため、幾分か自由奔放なイオだ。
 やきもちをやいているイオが可愛くて、総司は頬がにやけっぱなしになる。

(でも、もし俺がイオくんの立場だったら、嫉妬しちゃうだろうな……)

 イオが誰かと仲良さそうに話している姿を想像して、総司は胸がもやっとした。この感覚を、今イオが味わっているかと思うと、居ても立っても居られなかった。総司は後ろ手にイオの手を握り、振り返りつつ、イオを抱きしめた。

「嫌な気持ちにさせてしまってごめん。俺が好きなのは、イオくんだから」

 ぎゅうと抱きしめる力を強くする。イオは総司に身体を寄せ、肩に顔を埋めた。

「総司さんが、俺のことを好きなのは、わかってます」
「うん。それならいいんだけど」
「俺も総司さんのことが好きです」
「ありがとう」
「じゃあ証明してください」
「うん?」

 総司が首を傾げていると、イオが顔を上げた。酒のせいで、潤んだ瞳と赤みを帯びた頬が、イオの色気を引き出す。

(この顔は、誘ってる顔だ……)

 総司はごくりと唾を飲んだ。
 総司とイオが付き合い始めてから、一ヶ月程度は経っている。そういうことをする時は、どちらからと言うと、総司からの方が多かった。また、互いに同意を得るのが常だ。しかし、酒の入ったイオはたちが悪いことは、総司は実感していた。イオは酔うと、奔放で我儘で、誘ったりけしかけたりしてくる。

「証明、してください」

 イオは再び同じ言葉を発した。総司は考えた結果、考えるのを止めた。総司もいくらか酔っている。イオを誘われているのだから、何も考えずに、据え膳をいただくのみだ。

「わかった」

 総司はそう答えてから、イオの唇にキスを落とす。一瞬触れ合った唇同士は、すぐに離れた。これで満足だろうと、総司はふぅと息を吐いたが、イオは不満げな表情をしている。

「それだけですか?」
「イオくん、酔ってるね」
「酔ってないですから」

 イオは拗ねた言い方をし、今度はイオから総司にキスをした。先ほどより長いキスを終えると、イオは再び総司の肩に顔を埋めた。

「総司さん、ありがとうございます」

 唐突なお礼に、総司は再び首を傾げつつ、イオのつむじを見つめる。

「俺、総司さんに推してもらえて、好きになってもらえて、よかったです。幸せです」

 続くイオの言葉に、総司は目頭が熱くなる。

「そんなの、俺のほうこそ、イオくんと出会えて、イオくんを推すことができて、イオくんのこと好きになって、好きになってもらえて、嬉しいし、幸せだよ。ありがとう」

 総司はゆっくりと言葉を紡ぐ。そして、イオのつむじにキスを落とし、イオを大事に抱きしめた。
 イオはしばらく総司の言葉を噛みしめた後、顔を上げる。先ほどより濡れた瞳で総司を見つめた。
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