家に帰ると推しがいます。

えつこ

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10.後日

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「ソウジくん、お待たせ。ごめんね、仕事が長引いちゃって」
「全然大丈夫ですよ。中入りましょう」

 総司は居酒屋の外で、七海と合流した。七海は「暑いね」とハンカチで汗を拭う。まだ六月だが、湿度も相まって蒸し暑い。総司も七海も仕事終わりのため、スーツスタイルだが、ジャケットは脱いでいた。
 華金のため、居酒屋に入ると一気に騒がしくなる。二人で狭い通路を進む。

「そこの突き当たりの個室です」
「って言うか、誰なの?私に紹介したい人って」
「まぁまぁ、すぐにわかりますから」

 七海が訝しむのを総司は宥める。個室のドアは襖になっていて、七海はそれを躊躇いなく開けた。個室の中には、テーブル一つと椅子四つが置かれている。その手前側、一番襖に近い場所に座っていたのはイオだった。イオは襖が開けられたことで、振り返る。七海とイオの視線が交わった。

「こんばんは、お久しぶりです、七海さん」

 イオは慌てて立ち上がった。身長差で、七海を見下ろすことになる。

「え……?」

 七海は驚きのあまり目を見開き、固まってしまう。突然目の前に現れた推しに、七海の思考はキャパオーバーした。

「イオ、くん……?」
「はい」
「ほんとに……?」
「はい」

 イオはにこりと微笑んだ。七海は総司を振り返り、視線で縋る。

「とりあえず座ってください。説明しますから」

 総司に促され、七海はおっかなびっくりしつつ、イオの対角線上の席に座る。総司はイオの隣、七海の対面に座った。

「何飲みます?」
「いや、ちょっと待って。ソウジくん、普通に話進めないでよ」

 七海は総司に手のひらを突き出した。そしてもう片方の手を額に当て俯く。目の前で起きていることを処理しようとした七海だが、うまくいかなかった。イオに会えた嬉しさを噛みしめつつ、深呼吸を何度かし、心を落ち着けてから、顔を上げた。

「全部説明してもらってもいい?」

 七海の言葉に、総司とイオは顔を見合わせた後、頷いた。
 総司は事の成り行きを説明した。同棲することになった経緯、ミナミの契約違反の内容、今後も総司とイオはルームシェアをする予定であること、イオはアイドルとして復帰はしないこと、などだ。付き合っているという話は、まだしなかった。
 七海は「わかった」と頷いた。そして、パッと表情を明るくすると、テーブルの端に置いてある注文用のタッチパネルを手に取る。

「とりあえず、何か食べない?聞きたいことはあるけど、お腹すいちゃって」
 
 総司もイオもそれに賛成した。三人で顔を突き合わせ、タッチパネルを見つめる。

「私はビール」
「俺も」

 総司が同意すると、イオが「じゃあ俺も」と小さく手を挙げた。

「イオくんは未成年でしょう?」

 七海は笑い飛ばしたが、はたと気付く。

「え、なに?もしかして……」
「えっと、実は、二十一歳なんです……」

 イオが苦笑すると、七海は思わず天を仰ぎ、「あぁ……」と呟いた。
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