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6.誤解
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しおりを挟むその後は、TwinMeteorの、特にイオの話で盛り上がった。ライブやイベントの思い出話は何度しても色あせないもので、総司も七海も楽しい時間を過ごした。しかし、総司は頭の片隅で考えていることがあった。
(一目でもいいから、七海さんをイオくんに会わせてあげたい。イオくんにお願いしたら、七海さんに会ってくれたりするのかな?)
七海は総司にとって推し活をする上で大事な相棒的な存在で、戦友でもあった。そんな七海が落胆している様子を見ているのはツラかった。総司が励ましたところで、七海が元気になるわけではない。七海にはイオが必要なのだ。
「ちょっとすいません、電話してきてもいいですか?」
「うん、どうぞ」
七海に断わって、総司はスマホを持って、店の外に出た。飲み屋街の騒がしさが、総司を包む。
(今日は夜のバイトないって言ってたから、家にいるはず……)
総司はイオのバイトのシフトを思い出しながら、イオに電話をかけた。数回呼び出し音が続いた後、『もしもし』とイオの声が聞こえてくる。
「急に電話してごめんね」
『いえ、大丈夫です。何かありました?』
電話越しのイオの声は、少し不安そうだ。「全然、大したことじゃなくて」と慌てて総司は付け加えた。今までメッセージでのやり取りが主で、電話をしたことはほぼない。
「こんなことを頼むのも、申し訳ないんだけど……」
総司は深呼吸してから、言葉を続けた。
「七海さんって覚えてる?イオくんのファンの」
『え、あぁ、はい。七海さん。覚えてます』
「よかった。で、今一緒にいるんだけど……」
『一緒に……』
イオの声が暗くなったことに、総司は気づかず、話を続ける。
「七海さんに会ってもらうことって、できたりする?」
『俺が、ですか?』
「そう。七海さん、イオくんに会えなくて、元気なくしちゃって……」
イオからの反応はなく、無言の時間が流れる。総司はじっと待っていたが、たまりかねて「イオくん?」と呼んだ。
『……なさい』
「え?」
『ごめんなさい、それは無理です。会えないです』
「え、あ、イオくん」
総司が慌てふためいているうちに、電話は切れてしまった。通話画面が終了した画面を、総司はじっと見つめるしかできない。
(なんか、怒ってた……?)
イオの声色の変化を感じ取った総司だが、確信は持てなかった。ただ、イオと七海を合わせるという作戦は失敗に終わったことだけはわかった。
(断られたんだから、仕方ない。七海さんには悪いけど……)
総司はため息を吐きつつ、店内に戻った。何事なかったように席に座り、七海との会話を再開する。
(イオくん、気を悪くしちゃったかな……。もうアイドルやらないって言ってたのに、ファンに会わせようとするなんて、良くなかったかも……)
帰宅したら、先ほどの電話について詫びようと、総司は決めた。
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