家に帰ると推しがいます。

えつこ

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「ここは駄目です、他の店にしましょう」

 総司と合流したイオは、総司の案内で寿司屋にたどり着いた。しかし、その店構えに、イオは抵抗して声を上げたのだ。

(絶対高い。回らない寿司屋さんだ)

 料亭のような落ち着いた外観に、入口にはのれん。店名は入口横の表札に、小さく書かれている。あまりの達筆具合に、イオには判読不能だった。

「どうして?ここのお寿司はすごく美味しいから、イオくんにもぜひ食べて欲しい」

 総司は店に入ろうとするが、イオは断固としてその場を動かなかった。

「俺、回る寿司でいいです。というか、スーパーの寿司とか、そういうので全然満足なので……」
「俺が良くない」
「でも、これ以上迷惑はかけられないです」
「迷惑?何が?」
「何がって……」

 不思議そうに首を傾げる総司に、イオは内心安心していた。

(よかった。迷惑って思われてないんだ……。じゃなくて!とにかく、この店は絶対高いから、違う店にしてもらわないと。お寿司が食べたいなんて言わなきゃよかった……)

 イオは後悔したが、寿司以外、例えばハンバーガーやラーメンを希望しても、イオが行ったことのない価格帯の店に連れていかれることとなるのだ。

「ほら、イオくん、行こう」

 総司がイオの手を握った。その温かさに、イオは懐かしささえ感じる。特典会で何度も握手をしたのは一ヶ月前だが、やけに昔に感じた。

「総司さん、ちょっと、待って」

 イオが慌てたのは束の間だ。店に入ると、静かな雰囲気に、イオはおとなしく口をつぐんだ。二人の手は自然と離れる。
 店にはカウンターが拵えてあり、その中には白の調理衣を着た男性店員が二人いた。女性の店員は和装で、笑顔で総司とイオを出迎える。

「永田様、こちらへどうぞ」

 女性店員の案内で、二人はカウンター席に座る。総司は平然としているが、イオは緊張していた。辺りを見回したいのを抑え、視線だけを動かす。カウンター席やテーブル席には、他に何人か客がいたが、皆スーツやカジュアルドレスのスタイルだ。

(スキニージーンズにロンTなんて、もっとマシな服装をしてこればよかった……。総司さんに恥かかせてしまったかも……)

 イオは自らの服装を恥ずかしく感じ、縮こまるように椅子に座っていた。総司はそんなことは全く気にせずに、隣に座るイオに尋ねる。

「イオくん、何か食べれないものとか、苦手なものある?」
「大丈夫です」
「食べたいネタはある?」
「特に……」
「じゃあ、お任せで」

 総司はカウンター内の男性店員へ注文した。この寿司屋は総司が会社の接待でよく使う店で、味は確かで、評判は上々だ。

「イオくん、飲み物は?俺はビールにするけど」
「えっと……」

 カウンターにメニューは置いていない。イオの目の前には、湯呑に入った緑茶が置いてあり、イオはこのお茶で十分だと思っていた。しかし、バイト終わりの今、ビールを飲みたい気持ちはある。

(一杯だけ、ビールもらおう)

 イオは元々酒が好きで、酒があれば飲みたくはなる。
 
「じゃあ、俺もビールで」

 イオの答えに、総司は満足そうに頷いて、店員にビールを注文した。すぐにビールと小鉢が二つずつ運ばれてくる。
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