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5.変化
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しおりを挟む「お疲れ様です。お先に失礼します」
イオは他のスタッフに挨拶をして、コンビニを出た。スマホを確認すると、総司からメッセージが届いている。内容を確認し、「今から向かいます」と簡潔に返事をすると、駅へと急いだ。今日は総司とイオの二人で、外食をすることになっていた。
普段はイオが料理を作っており、二人で外食をしたことはない。イオにとって自炊は節約を兼ねているため、外食なんて以ての外だ。そのため、総司から外食に誘われた時も最初は断った。
「イオくんのおかげで成績が良かったんだ。だから、お礼だと思って」
総司が言うには、イオのおかげで生活の質が上がり、営業成績が良くなったとのことだ。
「ね、お願い。一回だけでいいから、イオくんの食べたいもの食べに行こう」
総司のお願いは圧が強い。特にイオに関することとなると頑固になる。それを十分わかっていたイオは、断ることを諦め、一回だけならと了承した。
「で、何が食べたい?」
尋ねられて、イオは思わず「お寿司」と答えた。
元々好き嫌いがなく、肉も魚も好きなイオだが、寿司が特に好きだった。小さい頃、特別な時に、家族全員で食べた思い出のせいだ。その家族は、今イオにとっては縁遠いものになっているのだが。
「お寿司かぁ……。お寿司なら……」
イオの返答に、総司はスマホを取り出した。イオは嫌な予感がして、それを制する。
「駅近くのお店がいいです」
「駅近く?えっと、回転すし?」
「そうです」
マンションの最寄りの駅近くに、チェーン店の回転すし店がある。イオは回転すしで十分だった。しかし、総司は首を横に振った。
「せっかくイオくんとお寿司を食べるんだから、回転すしなんて食べさせられないよ」
総司の表情は真剣そのものだ。こうなれば、どうしようもできない。どんな寿司店に連れていかれるのか、イオはすでに戦々恐々としていたし、寿司なんて言わなければよかったと後悔した。
イオは駅に着くと、指定された駅へと向かう電車へ乗りこんだ。結局店の名前は教えてもらえず、ドキドキとしながら向かっていた。
帰宅ラッシュのせいで車内は混み合っている。イオは人波に押されながら、総司との生活を思い返していた。
二人が一緒に暮らし始めて、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
生活は一変し、当初はイオには戸惑いがあった。しかし、生きるためには働かなければならない。イオはコンビニとカラオケのバイトに明け暮れ、バイトと総司のマンションとの往復の日々が続いた。最初は深夜のバイトに身体がついてこず、疲労困憊していたが、今ではすっかり慣れたものだ。
そして、総司との生活は、イオからすれば順調で、快適だと感じていた。そのせいか、イオはここ最近ずっと心が穏やかだ。
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