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4.同棲
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しおりを挟む「いただきます」
総司はデスクの上に弁当を広げ、手を合わせた。弁当には、卵焼き、ブロッコリーの炒めもの、プチトマト、白ご飯と綺麗に詰め込まれている。ふりかけが付いていて、総司はご飯の上に満遍なくかけた。箸を持って、ふと手が止まる。
(危ない、写真撮るの忘れてた)
慌てて私用のスマホを取り出して、弁当の写真を撮る。アップやズームしたものなど、数枚スマホに収め、満足した総司だった。
普通の弁当ならば写真は撮らないが、この弁当は特別だ。なんといっても、イオが作ってくれたものなのだ。本当ならば食べずに保存しておきたいが、それはイオに怒られるため、写真として残している。写真が撮れていることを確認して、今度こそと卵焼きを一つ口に入れた。
(うん、美味しい)
総司は思わず頬がにやけてしまう。綺麗に巻かれた卵焼きは、優しい出汁の味がして、柔らかい。美味しさと幸せを噛み締めるように、総司は卵焼きを咀嚼した。弁当を満喫しながら、イオとの生活を振り返っていた。
総司とイオの生活が始まってから、二週間が過ぎていた。
突如として始まった同棲生活だが、総司の想像以上に快適だった。それは、イオが家事全般をやってくれるおかげだ。総司の生活の質はかなり向上した。
今までに総司が家事をしていなかったわけではないが、男の一人暮らしというような、ガサツなものだった。洗濯は溜めがち。掃除は週一回すればいいほうで、下手すれば一ヶ月に一回くらいの頻度だ。食事にしてもそうで、カップ麺やコンビニ弁当、冷凍食品など、自炊するには程遠かった。
それが今では、イオの手によって、洗濯は毎日、掃除は二日に一回、弁当や夕食はほぼ毎日と、至れり尽くせりだ。
イオに全てを任せるわけにはいかず、総司は手伝えるときは手伝っている。しかし、あまり戦力にはなっていないのが現状だ。せめてと、食費等の家事に使用したお金は、総司が全て負担していた。
(今日も美味しかった)
推しの手作り弁当をあっという間に平らげた総司は、お腹も心も満たされる。デスクから立ち上がると、廊下に設置してある休憩スペースに向かった。
休憩スペースには、自販機とソファ、ローテーブルが設置してあり、社員が自由に使える場所になっている。総司は食後の缶コーヒーを買い、ソファに座った。周囲には誰もいないことを確認し、私用のスマホを取り出す。
『すいません、帰りに牛乳買ってきてもらっていいですか?』
『バイトが長引いたので、帰るの遅くなります』
『バイトに行ってきます。夕食は冷蔵庫に入っているので、温めてから食べてください』
メッセージ画面を見ながら、またにやにやとした。イオと連絡先を交換したのは、一緒に住み始めた翌日だった。
「連絡先、教えてください」
それはイオからの申し出だった。総司はイオの連絡先は知りたいと思っていなかったし、知るべきではないと思っていた。そのため、総司は最初は断った。
「一緒に住むなら、連絡先知らないと、何かと不便だと思うので」
二人で暮らすというのは、互いに連絡を取り合う必要がでてくる。そのことはイオのほうがよく知っていた。ただ、ミナミはこまめに連絡するタイプではなかったため、イオの徒労に終わったのだが。
イオの文面を食後のデザートを堪能するように見ながら、総司はソファの背もたれに背を預けた。にやにやと頬が緩んだままの総司の脳内は、イオのことばかりだ。
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