23 / 71
4.同棲
6
しおりを挟む「いただきます」
総司はデスクの上に弁当を広げ、手を合わせた。弁当には、卵焼き、ブロッコリーの炒めもの、プチトマト、白ご飯と綺麗に詰め込まれている。ふりかけが付いていて、総司はご飯の上に満遍なくかけた。箸を持って、ふと手が止まる。
(危ない、写真撮るの忘れてた)
慌てて私用のスマホを取り出して、弁当の写真を撮る。アップやズームしたものなど、数枚スマホに収め、満足した総司だった。
普通の弁当ならば写真は撮らないが、この弁当は特別だ。なんといっても、イオが作ってくれたものなのだ。本当ならば食べずに保存しておきたいが、それはイオに怒られるため、写真として残している。写真が撮れていることを確認して、今度こそと卵焼きを一つ口に入れた。
(うん、美味しい)
総司は思わず頬がにやけてしまう。綺麗に巻かれた卵焼きは、優しい出汁の味がして、柔らかい。美味しさと幸せを噛み締めるように、総司は卵焼きを咀嚼した。弁当を満喫しながら、イオとの生活を振り返っていた。
総司とイオの生活が始まってから、二週間が過ぎていた。
突如として始まった同棲生活だが、総司の想像以上に快適だった。それは、イオが家事全般をやってくれるおかげだ。総司の生活の質はかなり向上した。
今までに総司が家事をしていなかったわけではないが、男の一人暮らしというような、ガサツなものだった。洗濯は溜めがち。掃除は週一回すればいいほうで、下手すれば一ヶ月に一回くらいの頻度だ。食事にしてもそうで、カップ麺やコンビニ弁当、冷凍食品など、自炊するには程遠かった。
それが今では、イオの手によって、洗濯は毎日、掃除は二日に一回、弁当や夕食はほぼ毎日と、至れり尽くせりだ。
イオに全てを任せるわけにはいかず、総司は手伝えるときは手伝っている。しかし、あまり戦力にはなっていないのが現状だ。せめてと、食費等の家事に使用したお金は、総司が全て負担していた。
(今日も美味しかった)
推しの手作り弁当をあっという間に平らげた総司は、お腹も心も満たされる。デスクから立ち上がると、廊下に設置してある休憩スペースに向かった。
休憩スペースには、自販機とソファ、ローテーブルが設置してあり、社員が自由に使える場所になっている。総司は食後の缶コーヒーを買い、ソファに座った。周囲には誰もいないことを確認し、私用のスマホを取り出す。
『すいません、帰りに牛乳買ってきてもらっていいですか?』
『バイトが長引いたので、帰るの遅くなります』
『バイトに行ってきます。夕食は冷蔵庫に入っているので、温めてから食べてください』
メッセージ画面を見ながら、またにやにやとした。イオと連絡先を交換したのは、一緒に住み始めた翌日だった。
「連絡先、教えてください」
それはイオからの申し出だった。総司はイオの連絡先は知りたいと思っていなかったし、知るべきではないと思っていた。そのため、総司は最初は断った。
「一緒に住むなら、連絡先知らないと、何かと不便だと思うので」
二人で暮らすというのは、互いに連絡を取り合う必要がでてくる。そのことはイオのほうがよく知っていた。ただ、ミナミはこまめに連絡するタイプではなかったため、イオの徒労に終わったのだが。
イオの文面を食後のデザートを堪能するように見ながら、総司はソファの背もたれに背を預けた。にやにやと頬が緩んだままの総司の脳内は、イオのことばかりだ。
1
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
BL団地妻on vacation
夕凪
BL
BL団地妻第二弾。
団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。
頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。
なんでも許せる人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる