家に帰ると推しがいます。

4.同棲

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（許してしまっていいのだろうか？）

　総司は悩んでいた。
　推しであるイオに全て捧げたいし尽くしたいのは本当だが、良心的もしくは常識的に考えるといかがなものかと感じてしまう。アイドルと推しが一緒に住むなんておかしい。しかし、イオはもうアイドルではない。ただの一般人とサラリーマンのルームシェアと考えれば、問題はない。

（そうそう、ただのルームシェア。イオくんはもうアイドルじゃないから大丈夫。人助けだと思えばいい）

　半ば無理矢理に、総司は自らを納得させる。

「もちろん。今朝も言ったけど、イオくんが落ち着くまで居てくれて、大丈夫だから」
「総司さん、本当にありがとうございます」

　イオは頭を下げて感謝を示した。顔を上げたイオは安心したような表情を見せる。これでよかったのだと総司は感じた。イオが悲しんだり辛そうにしている顔は見たくない。

「イオくんも早く食べなよ」

　総司に促され、イオはようやく箸を持つ。そして、サラダを一口食べた。イオのほっそりとした顎が動いて、咀嚼して、こくりと喉仏が動いて、サラダを飲みこんだ。唐揚げも同様だ。総司はその一連の動きを思わず観察してしまう。

（小さな口でもぐもぐ食べてるの可愛い。子猫みたいだ）

　にやにやと頬が緩んでいる総司に、イオはまたかと呆れ気味だったが、念のため尋ねる。

「ごめんなさい、何かありますか？」
「え、いや、ごめん。イオくんも、食事するんだと思って」
「しますよ」
「綿あめとかクレープとかが主食じゃなくて？」
「それ、どういうイメージ……。昨日カップラーメン食べてたの、見てなかったですか？」
「カップラーメン？そうだっけ？」

　泥酔していたため、昨日の総司の記憶は曖昧だ。ずっと見ていたい気持ちを抑え、総司は食事を再開する。しかし、しっかり盗み見てしまう。総司の視線を感じていたイオだが、いちいち気にしてられず、食事を続けた。

「ごちそうさまでした」

　先に食べ終わった総司は、イオの料理が乗っていた皿に向けて手を合わせた。対面のイオはまだ食事中だったため、空になった器をキッチンへと持っていく。
　シンクに皿を置いた総司の目に入ったのは、いくつかのタッパーに入れられたおかずだった。先ほどの料理から見るに、イオが作ったものであることはわかる。しかし、今日明日で食べるには量が多い。総司は首を傾げた。

「あ、それは……」

　そこに、遅れてイオが来た。手には空になった皿を持っている。

「作り置きのおかずです。冷蔵庫に入れておけば、一週間くらいはもちます」
「え？これもイオくんが？」
「そうです。一気に作るほうが、食費が抑えられるので……」

　イオはせめてものお礼として、夕食だけでなく、作り置きのおかずを作っていた。普段自炊をしない総司のキッチンには、食材や調味料はほぼなかったため、買い物はなかなかに大変だったが、出来上がりには満足していた。

（これ、全部イオくんが……？すごい……）

　総司はただただ感心していた。
　タッパーは大小さまざまで、炒め物や煮物、和え物が詰めこまれている。料理に疎い総司だが、野菜の色は目に鮮やかで、肉巻きや卵は美味しそうに見えた。