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4.同棲
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しおりを挟む(どうしよう……)
総司はデスクで頭を抱えていた。
単純に飲みすぎて頭が痛いのと、家にイオがいるという現実に、頭を抱えずにはいられなかった。
出勤した瞬間から、今日はデスクワークにすることを決めた。今の身体的・精神的状況で、外回りの仕事ができる気がしなかった。先程鎮痛薬とエナジードリンクを飲んだので、もう少しすれば、体調は回復するはずだ。その見込みで、総司は仕事に取り掛かる。
デスクに積まれた書類を処理しながらも、頭の中では、イオのことを考えていた。
(イオくんの寝顔、健やかで、美しくて、さながら天使のようだった……。やっぱりイオくんは地上に降り立った天使なんだ)
寝顔を見ていたことを気づかれていないと思っている総司だが、自ら声に出していたため、バレてしまっている。それを総司が知る由もない。
(それに、イオくんの身体に触れてしまった……。柔らかかった……)
ハプニング的に床に倒れ込んだときに、総司がイオに触れた面積は過去最大だった。
普段は握手やハイタッチなどで触れることはあるが、それとは比べものにならない。身体に乗りかかったイオの体重、布越しの温かな体温、柔らかで弾力のある肢体。思い出すだけで、にやけてしまう総司だった。しかし、ハッと我に返る。
(おい、俺!イオくんのことをそういう目で見ちゃいけないだろ!イオくんはアイドルで、みんなのイオくんで、天使なんだから!)
総司は自らの頬を軽く叩いた。
総司はイオを推している立場であり、今まで下卑た気持ちは一切持っていない。ただ純粋にイオのアイドル活動を応援していた。
そう、今までは。
偶然にもイオと急接近してしまったせいで、触れてしまったせいで、そういう疚しい気持ちが芽生えてしまったのだ。総司は疚しい気持ちを封印して、イオの今後についた考えを巡らせる。
(イオくんはこれからどうするんだろう。アイドルはもうやらないんだろうか……)
総司は私用のスマホを取り出し、TwinMeteor公式の発表をもう一度確認した。イオが芸能活動を辞めるという記載は確かにあるが、本人はどう思っているのかはわからない。
(もしイオくんが部屋にいたなら、聞いてみよう)
出勤前に「落ち着くまでここにいて構わない」と伝えたのは、総司の本心だった。出ていってしまっている可能性はあるが、それはそれでいい。イオの自由だ。
一つため息を吐いたところで、スマホが小さく震える。七海からメッセージが届いたという通知だった。
『ソウジさん、大丈夫ですか?生きてますか?あまり気落ちしないで下さい』
総司の心配をする内容に、総司ははたと気づいた。イオが家にいる衝撃が大きく、頭から抜け落ちていたが、TwinMeteorは解散したのだ。昨晩の自らのツイートを見直すと、この世の終わりのような内容ばかりで、途中からはツイートが止まっている。七海に心配されるのも納得した。
(家にイオくんがいることを相談したい。けど、できるはずない)
TwinMeteor関連で七海は相棒のような存在だが、今回ばかりはさすがに秘密にしておくことにした。
七海のメッセージに『なんとか大丈夫です。心配かけてすいません』と手早く返信し、仕事へと戻る。
しばらく外回りの仕事をしていたため、事務作業が溜まっていた。社内メールに対応し、上司への報告書を提出。今後の方針を策定し、営業スケジュールを立て、他部署へのフィードバック資料を作成する。部署内の報告会の資料をまとめ、得意先へ営業メールを送信した。
仕事に集中していると、あっという間に就業時間が過ぎ去った。朝に比べれば体調はかなり回復していて、明日からは営業先に顔をだせそうだ。総司は明日のスケジュールを部署内の共有フォルダに書きこみ、パソコンの電源を消した。
帰るために、デスクから立ち上がった瞬間、イオのことを思い出す。思わず大きなため息がでた。
(帰りたいけど、帰りたくない)
1LDKの部屋に推しと二人。耐えられないし、気持ちに整理がつかない。
(さすがに出ていってるよな。うん、そうだ、帰ったら部屋に誰もいない)
誰もいない部屋を想像して、少し寂しい気持ちになる。もし出て行っていたのなら、もっとお金を渡せば良かったと後悔すらした。推しは推せる時に推せ。金は渡せる時に渡せ。そんなことを考えながら、総司は帰路に着いた。
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