家に帰ると推しがいます。

えつこ

文字の大きさ
上 下
18 / 71
4.同棲

1

しおりを挟む




(どうしよう……)

 総司はデスクで頭を抱えていた。
 単純に飲みすぎて頭が痛いのと、家にイオがいるという現実に、頭を抱えずにはいられなかった。
 出勤した瞬間から、今日はデスクワークにすることを決めた。今の身体的・精神的状況で、外回りの仕事ができる気がしなかった。先程鎮痛薬とエナジードリンクを飲んだので、もう少しすれば、体調は回復するはずだ。その見込みで、総司は仕事に取り掛かる。
 デスクに積まれた書類を処理しながらも、頭の中では、イオのことを考えていた。

(イオくんの寝顔、健やかで、美しくて、さながら天使のようだった……。やっぱりイオくんは地上に降り立った天使なんだ)

 寝顔を見ていたことを気づかれていないと思っている総司だが、自ら声に出していたため、バレてしまっている。それを総司が知る由もない。

(それに、イオくんの身体に触れてしまった……。柔らかかった……)

 ハプニング的に床に倒れ込んだときに、総司がイオに触れた面積は過去最大だった。
 普段は握手やハイタッチなどで触れることはあるが、それとは比べものにならない。身体に乗りかかったイオの体重、布越しの温かな体温、柔らかで弾力のある肢体。思い出すだけで、にやけてしまう総司だった。しかし、ハッと我に返る。

(おい、俺!イオくんのことをそういう目で見ちゃいけないだろ!イオくんはアイドルで、みんなのイオくんで、天使なんだから!)

 総司は自らの頬を軽く叩いた。
 総司はイオを推している立場であり、今まで下卑た気持ちは一切持っていない。ただ純粋にイオのアイドル活動を応援していた。
 そう、今までは。
 偶然にもイオと急接近してしまったせいで、触れてしまったせいで、そういう疚しい気持ちが芽生えてしまったのだ。総司は疚しい気持ちを封印して、イオの今後についた考えを巡らせる。

(イオくんはこれからどうするんだろう。アイドルはもうやらないんだろうか……)

 総司は私用のスマホを取り出し、TwinMeteor公式の発表をもう一度確認した。イオが芸能活動を辞めるという記載は確かにあるが、本人はどう思っているのかはわからない。

(もしイオくんが部屋にいたなら、聞いてみよう)

 出勤前に「落ち着くまでここにいて構わない」と伝えたのは、総司の本心だった。出ていってしまっている可能性はあるが、それはそれでいい。イオの自由だ。
 一つため息を吐いたところで、スマホが小さく震える。七海からメッセージが届いたという通知だった。

『ソウジさん、大丈夫ですか?生きてますか?あまり気落ちしないで下さい』

 総司の心配をする内容に、総司ははたと気づいた。イオが家にいる衝撃が大きく、頭から抜け落ちていたが、TwinMeteorは解散したのだ。昨晩の自らのツイートを見直すと、この世の終わりのような内容ばかりで、途中からはツイートが止まっている。七海に心配されるのも納得した。

(家にイオくんがいることを相談したい。けど、できるはずない)

 TwinMeteor関連で七海は相棒のような存在だが、今回ばかりはさすがに秘密にしておくことにした。
 七海のメッセージに『なんとか大丈夫です。心配かけてすいません』と手早く返信し、仕事へと戻る。

 しばらく外回りの仕事をしていたため、事務作業が溜まっていた。社内メールに対応し、上司への報告書を提出。今後の方針を策定し、営業スケジュールを立て、他部署へのフィードバック資料を作成する。部署内の報告会の資料をまとめ、得意先へ営業メールを送信した。
 仕事に集中していると、あっという間に就業時間が過ぎ去った。朝に比べれば体調はかなり回復していて、明日からは営業先に顔をだせそうだ。総司は明日のスケジュールを部署内の共有フォルダに書きこみ、パソコンの電源を消した。
 帰るために、デスクから立ち上がった瞬間、イオのことを思い出す。思わず大きなため息がでた。

(帰りたいけど、帰りたくない)

 1LDKの部屋に推しと二人。耐えられないし、気持ちに整理がつかない。

(さすがに出ていってるよな。うん、そうだ、帰ったら部屋に誰もいない)

 誰もいない部屋を想像して、少し寂しい気持ちになる。もし出て行っていたのなら、もっとお金を渡せば良かったと後悔すらした。推しは推せる時に推せ。金は渡せる時に渡せ。そんなことを考えながら、総司は帰路に着いた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

処理中です...