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3.理由
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しおりを挟む「話があるから、すぐに事務所に来て欲しい」
イオがマネージャーからのメッセージを受け取ったのは、ランニングしている時だった。体力の無さを自覚しているため、日々トレーニングに励んではいるが、ミナミのように筋肉隆々にはならない。
ランニングの途中だが仕方ない。イオは方向転換して、マンションへと引き返した。
事務所が手配したマンションで、ミナミとイオはルームシェアをしている。グループを結成し、一緒に住むことになった当初は、家事は分担していたが、今ではほとんどをイオが担っていた。ミナミに任せていても、何もしないからだ。
常々それを不満に思っていたイオだが、ミナミは聞く耳を持たないため、とっくの昔に諦めている。
「ただいま」
部屋の玄関を開けると、返事はなく、静かだった。ミナミがいてもいなくても、返事はないので、イオは気にしない。
しかし、イオが驚いたのは、部屋の荒れ様だった。
「え……、なに……?」
玄関の靴箱は開け放たれままで、数足の靴が玄関に散らばっている。廊下に続く各部屋のドアも開いたままで、服や物が散乱していた。
つい一時間前、イオがランニングに出かける前はいつも通りだった。多少は散らかっていたが、これほどではない。
目の前の惨状に立ち尽くすイオだったが、ふいにジャージのポケットが震えて、びくりと身体を跳ねさせた。ポケットからスマホを取り出すと、画面にはマネージャーの名前が表示されている。事務所に行かなければならないのだ、とイオは思い出す。慌てて通話ボタンを押した。
「お疲れさまです」
『お疲れ。メッセージ読んだ?』
「はい。」
『事務所には来れそうか?』
聞き慣れたマネージャーの声に、イオは少し安心する。四十代の男性マネージャーは活動初期からずっと一緒で、イオは頼りにしていた。
「はい、大丈夫です。今から行きます」
『今どこ?』
「えっと……、部屋なんですが……」
イオは現状を把握するため、靴を脱ぎ、ゆっくりと部屋の中へと足を進める。リビングや自分の部屋、そしてミナミの部屋を確認するが、ひっくり返されたように荒れていた。物が散乱し、足の踏み場がない。
『どうかした?』
「なんか、たぶん、泥棒?みたいな……?」
『は?泥棒?』
「部屋が荒らされたみたいになってて、すごい散らかってます」
『え?それって、部屋には誰もいないよな?』
「え?」
『まだ泥棒が隠れてるとか』
「それは、ないと思いますけど……」
マネージャーの発言で、イオは不安は一気に大きくなる。
『おい、ミナミ。……、あれ?ミナミは?』
電話の向こうで、マネージャーがミナミに声をかけている。イオは耳を澄ませて、事務所の様子を探ろうとするが、よくわからなかった。
「ミナミ、事務所にいるんですか?」
『……は?いない?逃げた?』
「もしもし?ミナミは?」
電話の向こうの会話とざわつきだけが聞こえる。イオは耳に集中しながら、荒れた部屋のあちこちを観察して、人の気配を探る。誰もいないように見えるが、どこかに人が隠れている気もして、鼓動は早くなるばかりだ。
『イオ、とりあえず事務所に来てくれ。話はそれからだ』
「っ、わかりました」
イオは電話を切ると、部屋から慌てて脱出し、都内にある事務所へと急いだ。
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