家に帰ると推しがいます。

えつこ

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2.邂逅

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 インターホンの画面に、小さく映る推しの姿に、総司はまばたきをした。しかし、まばたきをしてもイオは消えず、次は目を瞑った。

(酔っぱらってるせいだ。きっと見間違いに決まってる。だって、こんなところにイオくんがいるわけない)
 
 総司の脳内は混乱する。しばらく目を瞑った後、パッと目を開く。インターホンの画面には、変わらずイオが映っていたため、総司は頭を抱えた。

「えぇ……?そんなこと……ある……?」

(なんでイオくんがこんなところに……?幻覚?夢?)

 じっと画面に目をこらず。画像は荒いが、確かにイオがいる。

「夢だ、そうだ、夢に決まってる」
 
 総司は考えることを放棄して、玄関へと向かう。途中転びそうになりながらも、玄関にたどり着くと、ドアを開けた。ドアを開ければ、誰もいないに決まってる。そんな総司の思惑はすぐに打ち砕かれた。
 ドアの外、見慣れた廊下には、イオが立っていた。スキニージーンズにパーカーとラフな格好で、大きな荷物を持っている。困ったような笑顔で、軽くお辞儀をした。

「イオ、くん……?」
「総司さん、こんばんは」

 総司は思わず手を合わせて拝んだ。驚いたのはイオで、総司の行動に目を丸くする。

「なんで、拝んで……?」
「天使様がいるからにきまってるじゃないか」
「天使様……?」

 イオの声が、総司の鼓膜を震わせる。総司はそれだけで涙が溢れそうになった。というか、泣いた。先程から泣いていため、いつもより涙腺が格段に弱くなっている。
 総司の行動に、困ったのはイオのほうだった。号泣しながら拝まれてしまい、為す術がない。しかし、イオは心身共に疲れ果てていた。イオにも事情があり、とにかく総司しか頼る宛がないのだ。

「えっと、大丈夫ですか……?」

 そっと気遣うように、総司の肩に手を触れた。その瞬間、総司は身体を跳ねさせて、一歩下がる。イオの手は宙に浮いたままになった。

「ちょっと、触らないで……!」
「え?」

 思わぬ総司の反応に、イオは驚きで目を見開いた。
 握手会などの接触イベントの時に、嬉しそうにしていた総司はイオの記憶に良く残っている。その反応とは真逆の拒絶するような態度に、イオはきゅっと胸が痛くなり、宙に浮いていた手を寂し気に引いた。
 イオの様子に気づいた総司は慌てる。総司は汚い自分に触って欲しくないだけだった。天使が悲しみに暮れている表情は、憂いもあって綺麗だが、そんな表情は見たくない。天使を悲しませた自分を殴るのは後にすると決めた総司は、とりあえず謝る。

「あ、違う、違うから。ごめんね、イオくん」
「こちらこそ、ごめんなさい」
「あー、待って、待って。ちょっと、待って」

 総司はイオに手のひらを突きだして、制止をかけた。イオと会話することに、強烈に罪悪感を感じる。その原因に、総司は瞬時に思い当たる。

「特典券!」
「え?」
「特典券は?今特典券ないし、もう十秒以上話してるよね……?え、今日ははがしなしなの?お金払ってないのに、接触させてもらえるの?え、イオくんの私服……?うそ、今日はそういう特典会だっけ?あー、もう!十秒以上経ってる!」

 総司は混乱と酩酊のあまり、心の声がそのまま口から飛び出す。その様子に、イオは戸惑う。普段取り繕っている総司しか見ていないためだ。


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