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4-2.ある寒い日の夜(番外編)
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しおりを挟む風呂から出た王輝は、裏起毛のスウェットにフリースを羽織った。ここ最近遼の部屋に入り浸っているおかげで、王輝の服が置いてある状態になっている。着た後のスウェットはいつのまにか遼が洗ってくれていて、至れり尽くせりだ。王輝の衣服は、いつでも柔軟剤のいい匂いがする。王輝はその匂いを堪能しながら、身体が冷えないように、急いで寝室へと向かった。
「あれ?起きてる」
王輝が寝室に入ると、ベッド横の間接照明が光っていた。遼はベッドで上半身を起こし、タブレットを見ていた。時刻は二十三時近い。
「先に寝ててよかったのに」
「本読んでたから」
遼はタブレットを指差した。ベッドには王輝が眠れるようにスペースが開いている。勝手知ったるとばかりに、王輝はそこに身体を滑り込ませた。柔らかい布団の中は遼の体温ですっかり暖かく、王輝は満足気に微笑んだ。王輝は遼の身体に寄りかかる。鍛えられた身体はがっしりとしていて、そばにいるだけで安堵感があった。
「何読んでんの?」
王輝がタブレットを覗き込むと、画面には規則的に並んだ字が表示されていた。
「今度タイアップが決まったドラマの原作小説」
「へぇ、なんてタイトル?」
「まだ発表になってないから秘密」
遼の言葉に、王輝はそれなら仕方ないと、タブレットから視線を外した。芸能界では情報解禁のタイミングが大切であることは、二人とも理解している。
王輝はそのままの体勢で、スマホを取り出す。帰る途中に須川からメッセージが来ていて、それに返信をしなければならない。内容は明日の撮影の入り時間が、十時から十三時に変更になったというものだった。王輝は心の中でガッツポーズをした。ここ最近仕事が立て込んでいて、ゆっくり休みたいと思っていた。それに遼としばらくセックスできていない。
王輝は須川に了解の旨のメッセージを返す。漠からもメッセージがきていたが、後でいいと王輝は無視をした。その後は、当てもなくSNSを眺めたりネットサーフィンをしたりしながら、遼の様子を伺う。先程風呂で準備をしてきており、セックスになだれ込めたらと企んでいた。
そんな王輝の企みを知らず、遼はタブレットに視線を落としていた。遼の片手は王輝の頭を撫でる。まだ少し湿気を纏った髪は、今は黒に近く、ショートヘアだ。撮影のために、つい先日まで、金色に近い色だった。遼の手は頭から、頬へ、首筋へと移動する。しっとりとした肌は暖かく、少し汗ばんでいる。遼は完全に無意識だが、手つきはひどく優しい。遼が触れるたび、王輝はぞくぞくとし、小さく息を吐いた。
「っふふ……、遼、くすぐったい」
「ごめん」
王輝の笑い混じりの言葉に、遼は慌てて手を離す。離れていく遼の体温が寂しく、王輝は縋るように言った。
「もっと触っていいのに」
二人の視線が交わる。一瞬の沈黙の後、互いに惹かれ合うように唇を重ねた。ちゅ、ちゅ、と音を立て、角度を変え、何度もキスをする。徐々に、遼が王輝を押し倒すような体勢になっていく。
「っ、りょう……」
王輝がキスの合間に遼を呼ぶと、遼はキスを一度止めた。遼の視線は熱っぽく、この先の行為を期待している。
「王輝、いい?」
少し掠れた遼の声が、王輝に落ちる。王輝は返事の代わりに、遼の身体に抱きついた。
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