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4-1.チョコレートケーキ(番外編)

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「王輝さん、リョウに誕生日プレゼントあげたりするんですか?」
 一番の悩みの種について、漠につきつけられ、王輝は表情を曇らせた。
 CM撮影の待ち時間、王輝と漠はタープテントの下で、簡易椅子に座っていた。撮影場所は野外であるため、日差しは殺人的に暑い。いくら日陰だからとは言え、体感温度は引きあがる。さらに秋に放映されるCMのため、長袖であることが暑さに拍車をかけた。二人は傍らに置いてある野外用の冷房機だけ頼りだ。
 例の事件の後、しばらく謹慎していた漠は年明け以降に、活動を開始した。事件のことは世間には知られることなく、闇に葬られたことになる。当初は納得いってない王輝だったが、漠の仕事が全て回ってきたおかげで、仕事の量が増え、今の人気につながっている。また、漠は仕事に真摯に向き合うようになった。一緒に仕事をすることが多い王輝だが、それは目に見えてわかる。ぐっと良くなった漠の演技に、時に嫉妬するくらいだ。今となれば、これでよかったのだと王輝は感じていた。
「まぁ、考えてはいるけど」
「ちなみに何ですか?」
「それは……」
 未だに決まらないプレゼントに、王輝は口ごもる。漠はそれを見て、けらけらと笑った。
「決まってないんでしょ」
「別に、お前には関係ないだろ」
「だって、王輝さんとかぶりたくないんですもん」
「は?」
「今度BloomDreamと仕事するんで、その時に渡そうと思って」
 そう言えば漠は遼のファンだった、王輝はカウントダウンライブでの漠の姿を思い出した。あれ以降、BloomDreamのライブで一緒になることはなかったが、漠はこまめにライブに足を運んでいる。それを王輝はSNS経由で知っていた。
「むしろ王輝さんに聞きたいんですけど、リョウって何が好きなんですか?」
「……さぁ?」
「いや、さぁって。部屋も隣なんだし、俺より仲いいじゃないですか。なんで知らないんです?好きな食べ物とか、そういうのも知らないんですか?」
 漠に痛いところをつかれ、王輝は言い返せなかった。遼が自炊することは知っているが、好きな食べ物は知らない。思い返せば、セフレになってからも、恋人になってからも、ほとんどセックスしかしていない。両想いであることは確実だが、実質セフレと変わらない。その事実に、王輝はショックを受けた。
「え、あの、ちょっと、一人で落ち込まないでくださいよ」
「落ち込んで、ない」
「いや、落ち込んでますって。逆にすいません」
 揶揄い半分だった漠は、王輝の反応の思わず謝った。王輝については演技以外は疎いと思っていたが、まさにそうだったことに、漠は一種の愛おしさすら感じた。
「それなら、一緒にプレゼント考えましょうよ」
 漠は罪滅ぼしのつもりで提案する。王輝は怪訝な顔で「断る」と一刀両断した。
「なんでですか?!今、力を合わせる場面だったでしょ!」
「矢内と協力するのはちょっと……」
「うわ、辛辣!」
 騒がしい漠に、王輝は思わず笑いが漏れる。事件以降、漠から歩み寄ってくるようになったが、漠とこういうやり取りができるようになるのは、不本意ながらも嬉しかった。
「いいですよ、俺は俺で、プレゼント考えますから。王輝さんには負けません!」
 漠は奮起するように立ち上がった。ちょうどそのタイミングで、須川がタープテントに入ってくる。さすがに暑さに、スーツのジャケットは脱ぎ、腕にかけていた。七分丈のパンツと半袖の白色のブラウスが涼し気だ。
「何の勝負ですか?」
 王輝と漠の顔を見比べ、須川は尋ねた。
「リョウへの誕生日プレゼント勝負です」
「リョウって、BloomDreamのリョウさんですか?」
「そうです!」
「矢内、余計なこと言うなよ」
「いいじゃないですか。むしろ見届け人になってもらうとか?」
「は?」
「おもしろそうですね、それ。でも、それなら私も勝負に参加しましょうか?」
「いいっすね、それ」
「全然よくない」
 王輝を無視し、漠と須川は楽しそうに盛り上がる。真剣に悩んでいる王輝にとっては恨めしく、じっと二人を睨む。王輝の視線に気づいたのは須川で、すっと人差し指で王輝の眉間を指さす。
「眉間に皺寄ってますよ」
 須川の指を振り払うように、王輝は頭をふるふると振った。須川は手を引き、言葉を付け加える。
「勝負は冗談ですから」
「わかってます」
 須川が聡いことは、王輝は十分知っていた。漠が絡んでくるときは、暇つぶしであることも、わかっている。本気で対応するほうが間違いだ。王輝は気持ちを落ち着けるために、ふぅと息を吐いた。
「また温泉旅行企画しましょうか?」
 須川の気遣いは嬉しいが、王輝は首を横に振った。
「ちゃんと俺が考えたいから」
「わかりました」
「……なんでにやけてるんですか?」
「別に、そんなことないですよ」
 須川は「それにしても、暑いですね」と言葉を続けて誤魔化した。人付き合いが苦手な王輝が、遼との友人関係を続けていることが、須川は純粋に嬉しかった。それだけでなく、誕生日プレゼントに頭を悩ませるなんて、以前の王輝では考えられなかったことだ。王輝にとって、遼は文字通り命の恩人であるし、それ以上の存在なのだろう。須川は嬉しさを噛みしめながら、撮影の行く末を見守ることにした。



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