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4-1.チョコレートケーキ(番外編)

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「それわかる。リョウってそういうところあるんだよね」
 カズは大きく頷くと、生クリームがたっぷり乗ったパンケーキを頬張った。一口にしては大きなパンケーキのサイズだったが、頬いっぱいにして、嬉しそうな表情をする。カズの隣に座ったタスクは、静かに頷いて、フルーツサンドを上品に口に運ぶ。
 カズとタスクと一緒にいるのは王輝だ。三人はパンケーキ店の、隅っこのボックス席に座っていた。カズは夏限定のトロピカルフルーツのパンケーキ、タスクは季節のフルーツサンド、王輝は定番のイチゴのパンケーキを食べていた。偶然テレビ局で会った三人は、時間が空いていたため、こっそりとスイーツタイムを楽しんでいた。当たり前だが三人とも変装はしている。カズはキャップと黒ぶちの伊達メガネ、タスクは細いフレームの伊達メガネをかけ、王輝は薄い色付きのサングラスをしていた。しかし、それでもあふれ出るオーラは隠せず、店内の女性たちは三人に熱い視線を飛ばす。
 先ほど王輝が相談したのは、遼への誕生日プレゼントのことだった。周囲には内緒にしている恋人関係のため、友人というスタンスでの相談だ。
「俺たちも岸さんもリョウに聞いたんだけど、欲しいものはないみたい」」
 カズは瞳を無邪気にくるりと回す。メンバーやマネージャーにも言ってないことに、王輝は安心した。恋人だからと遠慮しているわけではないらしい。もともと遼が他人を優先しがちであること、自らのことに無頓着であることは、王輝も実感していた。
「リョウって普段から、そんな感じ?」
「うん。タスク、そうだよね?」
「確かに、昔からそういうこと言わないね」
「俺なんか欲しいものいっぱいあるのに。スニーカーとか、ゲームとか、服とか」
「カズが欲しがり過ぎなんだよ」
「えー、そんなことないって」
 カズはふくれっ面をしながら、フォークでフルーツを転がす。昨年二十歳になったカズは、デビューした頃に比べ顔つきが引き締まってきた。しかし、言動や行動にはまだあどけなさが残る。金色に染めた髪は明るく、キャップの端から飛び跳ねていた。
「温泉旅行に行くのはどうですか?あの旅行から帰ってきた後、リョウはずっと嬉しそうでしたよ」
 タスクは冷静に教えてくれる。カズより一つ下だが、二十三歳の王輝ですら年上に感じるほどだ。ニュアンスパーマがかかった髪は、明るいアッシュグレーで、中性的な印象をより強く感じさせる。端正な顔つきは洗練され、どこか違う世界に生きる雰囲気をまとっていた。
「そっか、旅行……」
 温泉旅行は仕組まれたものだったが、楽しかった思い出を王輝は反芻した。自然と緩む頬を隠すように、王輝はパンケーキを一切れ口にいれた。生クリームの甘さと、イチゴの酸味が、口内に広がる。
「俺も王輝くんと旅行行きたい。それと、またみんなで焼肉したいな」
 カズの提案に、王輝は曖昧に頷く。友人関係が少ない王輝にとって、カズのような存在はありがたいが、未だに一線を引いてしまう。ここに来ることを提案したのも、カズの方からで、王輝は勢いに押され付いてきただけだった。これでも以前よりは打ち解けたほうで、カズとタスクと一緒にいることは純粋に楽しかった。
「今ヶ瀬さんは忙しいんだから、無理言わないで」
「だって、リョウだけ王輝くんと仲良くなるのズルいよ」
「ズルい、ズルくないの話じゃないから」
「えー」
 再びカズはふくれっ面をする。タスクとカズの兄弟のようなやり取りに、王輝は微笑ましく見守った。
「あ、そうだ。王輝くん、写真撮ってもいい?」
 ふいにカズがスマホを取り出す。王輝は断る理由もないため了承する。カズがSNSに頻繁に写真を上げることは、王輝は知っていた。
「王輝くんは座ってて、あ、腕はそのまま動かさないで」
 カズは王輝にスマホを向け、何度もシャッターを切るが、スマホの画面の角度は下向きだ。王輝にはテーブルの上のパンケーキを撮っただけのように見えた。てっきり三人で撮るものだと思っていた王輝は拍子抜けだった。
「ありがと。後でアップしてもいい?」
「いいけど、ちゃんと撮れた?」
「大丈夫、匂わせだから」
 ふふんと楽し気なカズに、王輝はもう一度首を傾げた。タスクが「リョウのこと揶揄うのやめなよ」とカズを軽く叱り、王輝はさらに意味がわからなくなった。
 その後、三人は雑談をしながら、時間を過ごした。王輝はプレゼントについてはさらに頭を悩ませることになり、若干飽きてきたパンケーキを無理矢理腹に収めた。




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