お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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2-4.共演

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 王輝は足のステップを遼に尋ねる。
「あれ?ここ、右足からだっけ?」
「そこは左足から、最後の落ちサビだけ右足」
「うそ、そうだった?」
 確認すればするほど、わからなくなってきて、撮影直前に王輝は焦っていた。台詞なら覚えられるのに、ダンスだとうまくいかない。鼻歌でメロディを奏でながら、王輝は足のステップを繰り返す。
「だんだん自信なくなってきた」
「今ヶ瀬なら大丈夫だって」
「佐季はいいよな、自分の歌だから余裕じゃん」
「そうでもないよ。踊るだけじゃなくて、どうすれば見栄えよくなるかも考えないといけないし、三人のバランスとか画面のバランスもあるし」
 遼のダンスに対する真っ当な意見に、王輝は感心した。王輝にとってダンスは、いかに振り付け通りに踊るかが問題だが、遼はアイドルをしているだけあり、その先を考えている。
「佐季はすごいな」
「俺?全然すごくないよ。ダンスならカズのほうが上手だし、歌だってタスクのほうが上手だし。普通だって」
 謙遜する遼は白々しさなどなく、本当に自分のことを普通だと思っているように王輝の目には写った。自信家の漠に、遼の爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ。
「俺からしたら、今ヶ瀬のほうがすごい。俺の演技と全然違ったし、今ヶ瀬の演技を見てると鳥肌立つし。うまく言えないけど、役者だって思った」
 今度は遼が王輝を褒めた。王輝はすぐさまそれを否定する。
「全然、まだまだ下手くそだよ。自分でもできてないって感じてる。俺は普通以下かも」
 王輝は自嘲気味に言葉を吐いたが、それに反して表情にはエネルギーが満ちていた。まだ成長できるという可能性を楽しむような表情の王輝に、遼は頼もしさを感じる。
 ふいに、遼の心の弱い部分が顔をのぞかせる。リーダーとして日々気を張っている遼は、王輝の頼もしさに甘えたくなってしまった。
「今ヶ瀬、一つだけ弱音吐いていい?」
 突然の遼の申し出に、王輝は驚きつつ頷いた。弱音という言葉に身構える。遼がネガティブな発言をすることを聞いたことがなかったからだ。遼は一呼吸置いて口を開いた。
「実は、この前のショートムービーもこの撮影も、正直自信なかったんだ。そんなこと、カズにもタスクにも言えなくて」
 遼は苦笑いを浮かべ「二人には内緒にしてくれ」と付け加えた。
「全然知らない世界の仕事をすることはすごく怖くて、でも今回は今ヶ瀬が演技教えてくれたからなんとかなった。こうやって一緒に撮影できて嬉しかった」
 王輝に優しく笑いかけた遼は、さらに言葉を続ける。
「今ヶ瀬に救われた、ありがとう」
 遼の真っすぐな言葉に、王輝は不意を突かれた。遅れて、嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くなる。ここが撮影現場であることを忘れてしまいそうだった。「大袈裟だろ」と王輝はわざと軽い口調で返した。そうしなければ、表情が取り繕えなかったからだ。
「それより、弱音とか愚痴とか俺で良ければ聞くよ。佐季は一人で背負いすぎ。俺みたいにしょっちゅう愚痴って発散させなきゃ」
 遼はリーダーだからというわけではなく、もともとの性格のせいで、色々溜め込んでしまうタイプだと王輝は理解した。
 王輝は事あるごとに須川に話を聞いてもらっていた。話の内容は仕事の相談や愚痴、弱音など多岐にわたる。話ができるのは、須川に対して信頼があるからだ。相手を信頼していなければ、弱音は吐けない。つまり、遼は王輝のことを信頼しているということだ。それは王輝にとって喜ばしいことだった。
「わかった。今度愚痴考えとく」
 素っ頓狂な遼の返事に、王輝は「愚痴は考えるもんじゃないって」と笑いを吹きだした。
 遼と王輝が話しているのを見ていたのは須川と岸だけではなかった。漠はマネージャーの話を聞き流しながら、横目で遼と王輝を見ていた。漠を担当している男性マネージャーは仕事はできるが、性格が辛気臭いので、漠は好きではなかった。須川のほうが愛想がいい分マシだった。
 遼も王輝も漠には見せないようなリラックスした表情だ。楽しそうに笑う二人に、漠はイラついていた。
「なんかむかつく」
 小さくつぶやいた言葉は、誰にも聞こえることなく霧散していった。


 ダンスシーンの撮影は、BloomDreamの三人は難なく終了した。
 また、他の出演者についても、概ね問題なく撮影は進んだ。大人数で撮影するシーンでは、何度かリテイクはあったものの、スケジュール通りにダンスシーンは撮影された。
 ダンスを踊り終えた王輝はどっと疲れたが、遼たち三人は爽やかな表情を見せており、さすがだと感心した。ライブであれば歌いながらダンスも踊らなければならない。想像して自分には無理だと王輝は悟り、もう少し身体を鍛えようと思った。
 そして、その日の午後にはBloomDreamの三人の撮影が全て終わった。クランクアップの様子を撮影するために、テレビ局が取材に来ており、カメラが回っている。監督やスタッフ、出演者が集まり盛大な拍手の中、遼たちには大きな花束を贈られた。
「三日間という短い期間でしたが、皆さんと一緒に撮影を作り上げていくことができ、素晴らしい経験となりました。本当にありがとうございました」
 グループを代表して挨拶をする遼は笑顔で溌剌としており、先程王輝に対して弱音を吐いていた人物には見えない。王輝は遠巻きに遼の姿を見て、拍手を送った。
 そのままBloomDreamの囲み取材に入るため、その場は解散となる。ざわざわと関係者がスタジオから出て行き、残ったスタッフは片付け作業に入る。王輝は昨日みたいに遼と一緒に帰れたらと思っていたが、カメラの前に立つ遼たちを見て難しそうだと判断した。スタイリストに身なりを整えられていた遼は、王輝の視線に気づく。遼は近くにいたスタッフに一言申し出て、王輝の元へと走り寄った。
「もう帰る?」
「そのつもりだけど」
 遼は明らかに残念そうな顔をした。一緒に帰りたいのだろうと察し、同じ気持ちだったことに王輝は内心嬉しくなった。
「須川さんと打ち合わせあるから、時間合えば、な?」
 嘘はついていなかった。明日は撮休なので、今日打ち合わせしたいことがあると須川に言われてたのだ。
「わかった」
 顔を綻ばせた遼が、まるで大型犬のように見え、王輝は思わず可愛いという感情を抱いた。こんな顔されて、嬉しくないわけがない。王輝はにやけそうになるのを我慢して「早く戻れよ」と遼に促す。
 遼は「またあとで」と満面の笑みを見せ、カメラの方へ戻って行く。遼が戻るとすぐにコメント撮りが始まり、三人の元気な声がスタジオに響いた。
 それを背中で聞きながら、王輝はスタジオを後にした。須川が待っているため、足早に楽屋へと向かった。

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