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2-4.共演

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「佐季、ごめん。いろいろお願いしちゃって」
「全然いいよ。今ヶ瀬も写真撮る?」
「え、俺?」
 思わぬ誘いに、王輝は驚く。遼は写真を撮ることに興味がないと思っていたからだ。 撮りたいと言えば撮りたいが、仕事中だと言うことに気が引けてしまう。若手俳優と大人気アイドルグループという芸能界での差を感じ、さすがに遠慮して「俺はいいよ」と王輝は断った。
「俺が撮りたいから」
 珍しく意志の強い遼に、王輝は圧倒され、自然と首を縦に振っていた。
 遼はカズを呼び寄せ、自分のスマホを渡す。「珍しいね」と驚きながら、カズはスマホを構えた。
 王輝は遼の隣に並ぶ。どうしていいかわからず、ちらりと遼を見ると、目があったので慌てて逸らせた。
「もうちょっと近づいて、あと笑顔!」
 カズに指摘され、遼は王輝の肩を寄せる。二人の肩が触れ合う。王輝は笑顔を作るのに精一杯だった。周囲に人がいるなかで、こんなに近くに遼がいるなんて、と妙に意識してしまい、鼓動が速くなる。
 シャッター音が立て続けに鳴り、カズは「撮れたよ」と遼にスマホを返した。解放された王輝はこっそりと安堵の息を吐いた。遼は何食わぬ顔でスマホの写真を確認している。意識していたのは王輝だけだったので、王輝は一人恥ずかしくなった。
「じゃあそろそろ戻るから。ありがとう」
 王輝は三人にお礼を伝えて、そそくさと楽屋をでる。漠は「失礼しました」と挨拶をして王輝の後をついて、楽屋を後にした。
 楽屋にはBloomDreamの三人だけが残った。タスクは部屋の隅に移動して、再び台本に集中する。
「俺も王輝くんと写真撮りたかったのに。リョウだけずるい」
 カズは拗ねた表情で遼に詰め寄ったが、すぐに「あとで撮ってもらおうっと」と切り替える。
 遼は写真の中の見慣れない自分の制服姿に、違和感を覚え、王輝の言う通りだと思った。写真には少し緊張が滲む王輝の笑顔が収められている。
 写真を撮ることについて、遼は特段興味があるわけではない。しかし、漠とサインのやり取りをしているときに王輝が寂しそうな顔をしていたことと、自分のスマホの中に王輝との写真が一枚もないことから、写真を撮りたくなったのだ。変に思われたかもしれないと反省しつつ、写真の中の王輝を微笑ましく見つめた。



 王輝と漠は、自分たちの楽屋に戻ってきた。二人は同じ楽屋で、BloomDreamの楽屋よりひとまわり狭いが、二人が過ごすには十分な広さがあった。
 漠は「疲れた」とぼやきながら、入口近くの椅子にどかっと座り、CDケースを机に置いた。スマホを取り出し、画面に指を走らせる。
 まだ撮影前なのに疲れてどうすると言ってやりたくなったが、王輝は言葉を飲みこんだ。部屋の奥の椅子に座り、机の上のカバンから台本を取り出した。王輝がセリフを確認しようとすると、唐突に漠が尋ねてきた。
「王輝さんって、リョウさんと友達なんですよね?」
「一応」
「一応?インスタに仲良いアピールの写真載せてたのに?」
「アピールって…」
 漠の突っかかってくるような言い方に、王輝は相手をするのが嫌になってくる。こういうところが漠を苦手とする理由だった。
「でもさっきしゃべってるの見たら、全然友達って感じじゃないですね。他人行儀っていうか、苗字で呼び合ってるし」
 漠の視線は王輝ではなく、スマホに向いている。漠にとっては暇つぶしの会話でしかないのが伺えた。
「BloomDreamの実物、すげぇかっこよかったですね。どこにでもいるアイドルって思ってましたけど、オーラが違いました。ほんとに好きになっちゃいそう」
 嫌味混じりの漠の言葉に、王輝はひっかかりを覚えた。
「昔から好きなんだろ?」
「そう思ってもらえたなら、大成功ですね」
 漠はスマホから顔を上げて、にやりと笑った。先ほど大事そうに持っていたCDケースを手に取り、ひらひらと揺らす。
「ネットで買ったんですよ。プレミアついてて痛い出費でしたけど、あの三人に気に入られるなら安いもんです」
「矢内、お前…」
 王輝は怒りが湧いたが、がっかりする気持ちのほうが大きかった。漠の小細工に呆れ、それに騙された自分が情けなかった。
「あ、怒ってます?別に王輝さんに怒られることじゃないし、これは俺なりのやり方なんで。あ、チクるとかやめてくださいね」
 生意気に言うと、漠はCDケースを机に乱暴に置き、再びスマホに視線を戻した。
 王輝が告げ口したところで、傷つくのはBloomDreamの三人だ。あんなに嬉しそうにしていたのに、本当は嘘でしたなんて言えるわけがない。漠の嘘は王輝だけが知り、一人で罪悪感を抱き続けることになった。これも計算済みだろう。そうでなければ、王輝に嘘をばらすはずがない。
 王輝は大きなため息をついた。この件については、聞かなかったことにする。思考を切り替えて、台本に意識を集中させた。
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