64 / 116
2-3.湯煙る二人
13
しおりを挟む両手に荷物と土産を持ち、二人はマンションに帰ってきた。空はまだ明るいが、夜の気配がせまってきていた。
「明日から仕事かぁ…」
マンションの廊下を歩きながら、王輝はため息を吐いた。身体は軽いが、気分は重い。
「ドラマ撮影?」
「そう。不良マンガの実写化のやつ。同年代多いし、いつも以上に疲れるんだよ」
「大変だな」
「仕事だから泣き言言ってられない。佐季は?」
「俺はしばらくゆっくり。あ、でも今ヶ瀬との共演もあるし、カウントダウンライブの打ち合わせがそろそろ始まるかも」
BloomDreamは二年前から大晦日にカウントダウンライブを開催しており、今年も例年通り開催が決まっていた。
「え!行きたい!」
共演のことはもちろんだが、王輝の興味はライブのほうにあった。この前行けなかったので、次のライブこそは絶対行きたいと思っていた。
「席取っておこうか?」
「お願いしていい?絶対休みにしてもらうから!」
よほどのことがない限り、毎年大晦日は休みの王輝だが、あとで須川に念押ししておこうと思った。王輝の勢いに押されながら、遼は「わかった」と答えた。話しているうちに、二人は部屋の前に着く。
「二日間ありがとう。楽しかった。ハンカチもありがとう」
遼はお礼を伝えた。ハンカチは一度洗ってから使おうと、大事に持って帰ってきた。
「俺も楽しかった、ありがとう。誕生日は今度ちゃんと祝わせろよ」
最初はどうなることかと思ったが、振り返ってみれば形的には丸く収まったことに、王輝は一安心していた。
二日間一緒にいたせいで、なんとなく離れがたい空気が流れる。しかしずっと廊下にいるわけにはいかない。口火を切ったのは遼だった。
「じゃあ、また今度」
「うん、じゃあ」
二人の視線は一瞬交わり、すぐに離れた。
遼は鍵を開け、部屋の中に入る。昨日と変わらない玄関と暗い部屋が出迎えてくれ、帰ってきたと感じる。荷物を床に置き、ふっと一息ついた瞬間に、身体が反射的に動いていた。閉まりそうになっていたドアを押し開け、廊下に戻る。
「今ヶ瀬っ」
王輝の部屋のドアが閉まる寸前だった。荷物を持ったままの王輝がドアから顔を覗かせる。遼は大股で歩き、押し入るように王輝の部屋に飛びこんだ。ドアが閉まるのと同時に、遼はそのまま王輝をぎゅっと抱きしめた。王輝は遼の急な行動に戸惑いつつも顔をあげると、遼の熱い視線に捕まる。
「キスしていい?」
切羽詰まった遼の声が、王輝の耳朶を打つ。王輝の身体の熱が一気にあがる。断る理由がない王輝は、小さく頷いた。遼は嬉しそうに頬をゆるませ、王輝の唇にキスをする。最初はついばむように、徐々に深く口づけ、王輝の口内に舌を侵入させた。味わうように口内を撫で、舌を吸い上げると、王輝は小さく鳴いた。王輝は身体の力が抜け、持っていた土産の紙袋を落とす。がさっと音がして、遼は我に返った。王輝から身体を離し、慌てて紙袋を拾う。
「中身、大丈夫?割れ物とか入ってなかった?」
遼は心配そうに紙袋を外側から見つめた。王輝は高まっていた熱がお預け状態だったため、遼から紙袋を奪い取り床に置く。そして続きを催促した。
「大丈夫、それより早く続き…」
「あ、鍵!すぐ戻るから待ってて!」
ばたばたと遼が部屋を出ていく。王輝がぽかんとしてると、すぐにドアが開き、遼が戻ってきた。
「ごめん、部屋の鍵閉めてないの思い出して…」
申し訳なさそうな表情の遼に、王輝はむすっとした顔で尋ねる。遼から誘ってきたのに、放置されたことで機嫌を損ねていた。
「他は大丈夫?」
「他は……、あ、今ヶ瀬の誕生日、いつ?聞こうと思って忘れてた」
「十一月二十日」
「ちょっと待って、メモするから」
遼はジーンズのポケットからスマホを取り出し、カレンダーに王輝の誕生日を登録した。
王輝はその間に玄関の鍵を閉め、靴を脱いで部屋にあがる。誘うように遼に手を伸ばした。遼はスマホをポケットに戻し、靴を脱いでから王輝の手を取る。
王輝は遼を引き寄せ、身体を密着させた。遼の首に手を回し、誘うように遼の唇をぺろりと舐める。遼は王輝の身体に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。お互い昂った性器を押しつけながらキスをする。
じりじりともつれ合うように廊下を進み、寝室にたどり着いた。遼は焦る気持ちを抑えながら、王輝をベッドに押し倒す。二人は視線を絡み合わせ、再び快楽の底へ落ちていった。
20
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる