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2-3.湯煙る二人

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 両手に荷物と土産を持ち、二人はマンションに帰ってきた。空はまだ明るいが、夜の気配がせまってきていた。
「明日から仕事かぁ…」
 マンションの廊下を歩きながら、王輝はため息を吐いた。身体は軽いが、気分は重い。
「ドラマ撮影?」
「そう。不良マンガの実写化のやつ。同年代多いし、いつも以上に疲れるんだよ」
「大変だな」
「仕事だから泣き言言ってられない。佐季は?」
「俺はしばらくゆっくり。あ、でも今ヶ瀬との共演もあるし、カウントダウンライブの打ち合わせがそろそろ始まるかも」
 BloomDreamは二年前から大晦日にカウントダウンライブを開催しており、今年も例年通り開催が決まっていた。
「え!行きたい!」
 共演のことはもちろんだが、王輝の興味はライブのほうにあった。この前行けなかったので、次のライブこそは絶対行きたいと思っていた。
「席取っておこうか?」
「お願いしていい?絶対休みにしてもらうから!」
 よほどのことがない限り、毎年大晦日は休みの王輝だが、あとで須川に念押ししておこうと思った。王輝の勢いに押されながら、遼は「わかった」と答えた。話しているうちに、二人は部屋の前に着く。
「二日間ありがとう。楽しかった。ハンカチもありがとう」
 遼はお礼を伝えた。ハンカチは一度洗ってから使おうと、大事に持って帰ってきた。
「俺も楽しかった、ありがとう。誕生日は今度ちゃんと祝わせろよ」
 最初はどうなることかと思ったが、振り返ってみれば形的には丸く収まったことに、王輝は一安心していた。
 二日間一緒にいたせいで、なんとなく離れがたい空気が流れる。しかしずっと廊下にいるわけにはいかない。口火を切ったのは遼だった。
「じゃあ、また今度」
「うん、じゃあ」
 二人の視線は一瞬交わり、すぐに離れた。
 遼は鍵を開け、部屋の中に入る。昨日と変わらない玄関と暗い部屋が出迎えてくれ、帰ってきたと感じる。荷物を床に置き、ふっと一息ついた瞬間に、身体が反射的に動いていた。閉まりそうになっていたドアを押し開け、廊下に戻る。
「今ヶ瀬っ」
 王輝の部屋のドアが閉まる寸前だった。荷物を持ったままの王輝がドアから顔を覗かせる。遼は大股で歩き、押し入るように王輝の部屋に飛びこんだ。ドアが閉まるのと同時に、遼はそのまま王輝をぎゅっと抱きしめた。王輝は遼の急な行動に戸惑いつつも顔をあげると、遼の熱い視線に捕まる。
「キスしていい?」
 切羽詰まった遼の声が、王輝の耳朶を打つ。王輝の身体の熱が一気にあがる。断る理由がない王輝は、小さく頷いた。遼は嬉しそうに頬をゆるませ、王輝の唇にキスをする。最初はついばむように、徐々に深く口づけ、王輝の口内に舌を侵入させた。味わうように口内を撫で、舌を吸い上げると、王輝は小さく鳴いた。王輝は身体の力が抜け、持っていた土産の紙袋を落とす。がさっと音がして、遼は我に返った。王輝から身体を離し、慌てて紙袋を拾う。
「中身、大丈夫?割れ物とか入ってなかった?」
 遼は心配そうに紙袋を外側から見つめた。王輝は高まっていた熱がお預け状態だったため、遼から紙袋を奪い取り床に置く。そして続きを催促した。
「大丈夫、それより早く続き…」
「あ、鍵!すぐ戻るから待ってて!」
 ばたばたと遼が部屋を出ていく。王輝がぽかんとしてると、すぐにドアが開き、遼が戻ってきた。
「ごめん、部屋の鍵閉めてないの思い出して…」
 申し訳なさそうな表情の遼に、王輝はむすっとした顔で尋ねる。遼から誘ってきたのに、放置されたことで機嫌を損ねていた。
「他は大丈夫?」
「他は……、あ、今ヶ瀬の誕生日、いつ?聞こうと思って忘れてた」
「十一月二十日」
「ちょっと待って、メモするから」
 遼はジーンズのポケットからスマホを取り出し、カレンダーに王輝の誕生日を登録した。
王輝はその間に玄関の鍵を閉め、靴を脱いで部屋にあがる。誘うように遼に手を伸ばした。遼はスマホをポケットに戻し、靴を脱いでから王輝の手を取る。
 王輝は遼を引き寄せ、身体を密着させた。遼の首に手を回し、誘うように遼の唇をぺろりと舐める。遼は王輝の身体に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。お互い昂った性器を押しつけながらキスをする。
 じりじりともつれ合うように廊下を進み、寝室にたどり着いた。遼は焦る気持ちを抑えながら、王輝をベッドに押し倒す。二人は視線を絡み合わせ、再び快楽の底へ落ちていった。

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