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2-3.湯煙る二人

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 翌朝、目が覚めた王輝は、ぼんやりと天井を眺めていた。浴衣も下着も身に着けず、全裸のままシーツに包まれる。身体のあちこちの痛さが、昨晩のセックスの余韻を感じさせた。
 あのあと、露天風呂でセックスするわけにはいかず、二人は再びベッドに戻り、お互いを求めあった。コンドームがなくなったため、強制的にセックスは終わったが、その後はベッドでキスしたり抱き合ったりと、いわゆるイチャイチャした後、眠りについた。久しぶりだったせいか、酒のせいか、貪欲に求めあい過ぎて、王輝は恥ずかしさに悶えた。思い出すだけで身体の熱があがる。あれほど射精したというのに、じんわりと自身に熱が集まってくる感覚に、王輝は下半身に手を伸ばす。
「今ヶ瀬、起きてる?」
 襖が勢いよく開けられ、遼が寝室に入ってきた。王輝は慌てて起き上がり、シーツを手繰り寄せ、身体を隠す。何もなかったように振る舞った。
「おはよう、今起きたとこ。佐季は?もしかして温泉入ってきた?」
 遼の髪は少し濡れている。浴衣は着ておらず、ジーンズにTシャツと爽やかな服装に変わっていた。
「うん。ちょっとランニングして、温泉入ってきた」
「ランニング?」
「身体が鈍ると困るから」
 遼の話では、日課のランニングを休むと調子が悪くなるため、わざわざジャージとランニングシューズまで持参してきたという。昨日あれほどセックスして体力を使ったというのに元気だ。一日くらいランニングしなくても鈍りはしないだろうに、と王輝は感心した。
「俺も温泉入ってこようかな。朝ご飯何時からだっけ?」
「八時からだから、あと一時間はある」
「じゃあ行ってくる」
 部屋の露天風呂もいいが、せっかくなので大浴場の広い風呂でのんびりしたかった。
「のぼせないように気をつけろよ」
 遼はベッド脇にたたんで置いてあった王輝の下着と浴衣を手渡した。受け取った王輝は、遼に背を向けて下着を履く。続いて浴衣を着ようとしていると、遼の視線が気になって手を止めた。
「どうかした?」
「昨日無理させたから、身体が心配で…」
「いつもあんな感じじゃん。全然大丈夫」
 けらけらと笑いながら、王輝は浴衣を着た。寝室の端に置いてるカバンから着替えを取り出す。
「三十分くらいで戻るから。佐季は?部屋にいる?」
「うん、荷物片づけたいから」
「わかった。いってくる」
 王輝は飛びだすように部屋から出ていった。
 残された遼は寝室で立ち尽くしていたが、大きなため息をついて、その場にしゃがみこんだ。元気そうな王輝を見て安心したのと同時に、昨日のことを思い出してにやけてしまった。セックスはもちろん、その後もずっと触れ合っていて、幸せな時間だったと反芻する。心も身体も満たされたのに、先ほどは思わず王輝の肢体を見つめてしまい、身体の熱が再燃しそうになった。どれほど求めるつもりだろうと自分を叱咤して、遼は立ちあがる。昨晩の残り香が漂うため、寝室と和室の窓を開けた。すっと秋風が通り抜けた。



 朝ご飯は、昨晩と同様に部屋で食べた。座卓に焼き魚や小鉢に入ったおかず、白ご飯、温かい味噌汁が並ぶ。二人とも普段はパンが多いため、和食の朝ご飯を新鮮に感じながらも、箸が進んだ。
 特急列車の予約時間は十二時台だったため、それまで二人はハイキングコースを歩くことにした。最初王輝は渋ったが、ハイキングコース途中に、渓流釣りスポットと秘湯があると仲居から聞き、意気揚々とハイキングにくり出した。
 昨日に引き続き晴天で、青空が広がるなか、二人は他愛もないことを話しながら舗道された山道を軽快に歩く。
 渓流釣りができる施設では、竿をレンタルし、釣りに挑戦した。王輝は数匹釣ったが、遼は全く釣れず、不服そうにする遼を王輝が宥めた。
 その後は再びハイキングに戻る。登坂が続く道をひたすら歩き、じんわりと汗ばんできたときに山間にある小さな大衆浴場に到着した。室内風呂と露天風呂が一つずつのこじんまりとした作りで、旅館の温泉とは泉質が違った。平日の午前中のせいか、他に客はおらず、二人はゆっくりと汗を流し、身体の疲れを癒した。
 温泉に入ってさっぱりとした二人だが、旅館に戻ってきたころには再び汗をかいていた。電車の時間もあったため温泉に入るのは諦め、昼ご飯の駅弁を買って電車に乗りこんだ。駅弁を食べ終えた後、話していたのは束の間で、二人は眠気に誘われるまま、肩を寄せ合って寝入った。二人の腕には色違いのバングルが光っていた。

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