お隣さんはセックスフレンド

2-3.湯煙る二人

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「でもさぁ、共演楽しみだよね」
　うきうきした表情のカズと対照的に、遼は表情が曇った。
　このタイミングで、遼と王輝の共演が決まった。王輝が出演する不良マンガの実写化ドラマが解禁されたのはつい数日前で、そのドラマのネット配信限定の番外編に、Bloom Dreamもゲスト出演することも一緒に発表された。内容はまだ何も決まっていなかったが、Bloom Dreamは高校生役を演じることになっていた。
　王輝が2ショットを更新したのは、情報解禁と同じタイミングで、SNS上は大いに盛り上がった。二人のかっこよさだけでなく、王輝の金髪とピアスのイメチェン姿も大反響で、さらに写真に写り込んだ色違いのバングルにファンは食いついた。
「みんなも共演楽しみにしてるみたい」
　「ほら」とカズは遼にスマホを渡した。遼が画面をスクロールすると、様々なアイコンとコメントがずらりと並ぶ。「二人ともかっこいい！」「初共演おめでとう」「共演ドラマ楽しみです！」「バングル色違いですか？お揃い？」「顔面強い」「金髪王輝かっこよすぎ！」などなど、何度スクロールしてもコメントの終わりが見えなかった。
　コメント量に圧倒されつつも、ふと遼の目に飛び込んできたコメントがあった。
「王輝くんのモデルデビュー時以来の共演ですね」
　遼はスクロールする手が止まる。コメントの内容を信じれば、王輝がモデルデビューをした時に共演しているということだ。そもそも遼は王輝が俳優として活躍している時代しかしらないため、モデルをしていたということに驚いた。
「この共演って何？リョウは覚えてる？」
　カズも気になった様子で、遼に尋ねた。記憶をさかのぼった遼だが、王輝と共演した記憶が全然ない。今度王輝に会ったら聞いてみようと思ったが、今の状況を思い出して、それは無理だと悟った。
「そういえば、遼は休みたいって言ってたよな？イベント終わったら取れると思うけど、いつにする？」
　遼の思考を遮るように岸が問いかけた。
　王輝と温泉に行くという約束をしたので、仕事が落ち着いたら休みが欲しいと以前に遼が岸に伝えてあった。
「休みはもういいです」
　現状、王輝と温泉に行くのは不可能だろう。それなら働いている方が気がまぎれると考え、遼は休みを断った。
「せっかくだから休んだら？俺も休みもらって、家族旅行行くよ」
　カズは休みの時は家族と過ごすことがほとんどだった。芸能界での交友関係は広いカズだが、一緒に旅行に行くような深い関係の友人はごく僅かだった。
「タスクも休むぞ」
　岸は寝ているタスクを見やった。タスクは十月にソロシングルの発売が控えていたため、それまでの間に長めの休みを取る予定だった。割りきれない態度の遼に、岸は仕方なく語気を強めた。
「休め。これはマネージャー命令だ。最近凡ミスばかりだぞ」
　一瞬で場の空気が締まる。指摘された遼は返す言葉がなかった。岸の言う凡ミスを遼は自覚していた。
　発売イベントでダンスの振りや歌詞を間違えたり、ＭＣでのトーク内容がぐだぐだになったり、テレビ番組の収録では気が抜けた表情を見せたりと、そういう些細なミスが続いていた。王輝との関係がその原因だということが遼は十分わかっている。セフレ関係を始める前は、どんな風に生活していたか、もう思い出せなかった。
「わかりました。休みます」
　浮かない表情の遼を気にかけながら、岸はタブレットを操作して、スケジュールを確認した。遼に関しては、九月後半から十月前半は仕事に余裕があるため、ゆっくり休ませると決めていた。
　ここ半年を振り返れば、遼はすこぶる調子が良かった。そのため今回のような不調が珍しい。岸は遼が自分を追い込んでいるように感じ取っていた。不調の原因を知っておくのもマネージャーの務めだが、仕事面では思い当たるところがない。岸のあずかり知らぬところで何か起こっていたかもしれないと考え、あとで他のスタッフに確認しようと思った。
　プライベートについては関与できないが、岸は思い当たる節が一つあった。王輝の存在だ。
　数日前にアップされた２ショットのSNS掲載に関しては、須川から岸へ連絡があり、ドラマ共演の情報解禁と共にアップすることを了承したのだった。話題性を狙ったが、岸の思惑通りネットでは盛り上がった。
　もしかすると、また王輝と喧嘩でもしたのだろうか。以前に喧嘩の話をしていたことを岸は思い出した。それだけで不調になるのはプロとして失格だ、というのは心の中にとどめておく。まだまだ未熟さを残す遼に、可愛げを感じながらも、骨が折れる仕事だと小さくため息をついた。