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2-3.湯煙る二人
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しおりを挟む八月末、Bloom DreamのCD発売イベントは終盤に差し掛かっていた。怒涛のプロモーションはようやく落ち着き、この発売イベントが終われば、一旦終了予定だ。
Bloom Dreamの三人と岸は新幹線でイベント先へと移動していた。カズが窓側、その隣に遼が座り、通路を挟んで、岸、タスクの並びで座っている。タスクは完全にスイッチオフで、新幹線に乗るなり眠ってしまった。起きている時は大人びているタスクが、あどけない顔をして眠っている。それを見た岸は微笑ましく感じていた。何を言ってもまだ十代なのだ。無茶をさせている分、サポートすべきことは沢山ある。
岸はタブレットで資料に目を通す。新曲の売り上げは好調で、MVやショートムービーも大好評だ。売上と反響のお陰で、次回以降のBloom Dreamの活動はある程度保証されることは目に見えていた。次は何を仕掛けようかと考えると、岸は楽しくて仕方なかった。
静かな二人とは対照的に、カズと遼は賑やかだった。主にカズが一人で話しているだけだが、もうすぐすれば疲れて眠ることを遼は知っていた。移動や遠征のときは、カズは最初はテンションが高いが、後半は尻すぼみに疲れることが多い。
遼はカズの話に相槌を打っているが、内容は全然頭に入っていなかった。頭の中では王輝の「好き」をずっと考えていた。最近はふとした瞬間に「好き」が頭をよぎり、ぐるぐると考え込んでしまう。王輝の「好き」は恋愛の意味だと言うことは遼も察していた。と同時に、セフレ関係の終わりも意味する。だから、王輝は連絡をしてこないのかもしれない。
そして、それは遼も同じだった。王輝への気持ちの名前が「好き」だと自覚してしまったため、連絡するのを躊躇っていた。一度自覚してしまえば、今までの感情に全て説明がつき、可愛いや愛おしいで自分の気持ちを誤魔化していたことが情けなくなる。それは王輝との関係を続けたい一心からだったが、結局言い訳でしかない。
両想いなら恋人になればいいという簡単な話ではない。二人とも芸能界で仕事をしており、所謂人気商売のため、恋人の存在はタブーだ。そして男同士ということに、世間の目はまだまだ厳しい。セフレ関係だっていつバレるかはわからない。そう考えると、このまま二人の関係は解消するのが一番だ。けれど、それは嫌だった。せめて友達として近くにいたい。しかし近くにいると触れたくなる。堪え性のない自分に遼は嫌気がさして、ため息がもれた。
「またため息」
「え、あ…ため息ついてた?」
「うん、疲れてる?」
「大丈夫、ごめん」
全然大丈夫じゃない表情の遼に、カズの心には心配が募る。最近遼はぼーっとしていたり、ため息をついたりと、調子が悪そうだ。何か困ったことがあるなら相談してくれればいいのに、とカズは拗ねるように口を尖らせた。
「そういえばさぁ、この前王輝くんとデートしたでしょ」
話題を変えようと、カズはスマホを操作して、インスタを開いた。王輝のアカウントを表示させ、遼に画面を見せる。
悩みの問題である王輝の名前が出てきて、遼は一瞬眉根を寄せたが、すぐに表情を取り繕う。カズのスマホ画面には、遼と王輝の2ショット写真が映し出されていた。カズが画面をスワイプし、他に王輝の全身が写った写真や、髪型がアップになった写真なども見せてくれる。
映画を観たあの日、王輝がインスタ用に写真を撮ろうと提案してきたのだ。映画に行くくらいなら普通の関係でもあり得ることだと判断して、一緒に写真を撮り、遼は王輝の写真を撮った。遼はSNS全般をやっていないので、写真がどうなったかは知らなかった。
「デートじゃなくて、映画観に行っただけ」
「一緒に映画観て、色違いのバングル買って、完全にデートじゃん!」
遼はカズの言うデートの感覚がよくわからなかったが、よくあるデートコースの様だとは思った。違うのは二人は恋人ではなく、セフレだということだ。
「今度は俺もタスクも誘ってよね」
曖昧に頷いた遼に、カズはさらに会話を続ける。
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