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1-4.我慢できない
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「佐季、んんっ、ぁ、もっと…」
「声抑えろ、今ヶ瀬」
テレビ局の楽屋の一室、楽屋隅に備えつけられたカーテンで四角く仕切られた着替えスペースの内側に二人はいた。遼は後ろから王輝に挿入して、中を突き上げる。王輝は倒れないように壁に設置された姿見鏡に手をついていた。
カーテンの向こう、楽屋の扉の向こうでは、働いている人達がいるのにセックスしているこの状況に、二人は少なからず興奮していた。なぜ二人がこんな場所でセックスをしているのか。時間は少しさかのぼる。
「王輝さん、疲れてます?顔が死んでますよ」
遠慮のない須川の言葉に、王輝は反論できなかった。
テレビ局の廊下を二人は並んで歩いていた。さきほどテレビ局の玄関で合流したところで、須川は王輝の顔を見て、開口一番言い放ったのだ。
「すいません、昨日寝不足で…」
「子供じゃないんですから、体調管理くらいしてください」
「はい」
「確かに昨夜も暑かったですからね。クーラー使ってます?」
「使ってるよ」
六月に入り、梅雨入りした東京は連日ムシムシした暑さが続いていた。王輝もそれに体力を奪われる日々だった。しかし寝不足の原因はそれだけではなかった。
遼と映画を見た日から一週間経ったが、セックスできていないのだ。あのとき意地を張らずにセックスしておけばよかったと王輝は最近ずっと悔やんでいた。
そして昨夜久しぶりにバイブを使って一人でしたのだが、それが不完全燃焼だった。半年間遼とのセックスを味わっていたせいで、バイブだと物足りない身体になってしまっていたのだ。変に長い時間自慰をしていたせいで、睡眠時間が短くなり、寝不足と言う結果になった。朝起きて鏡で自分の顔を見た遠きから、須川に文句を言われる覚悟はできていた。
須川の言う通り、体調管理できていなければ、プロとは言えない。王輝はすっかり堕落してしまった自分の身体を恨めしく思った。けれど、今遼に会えば、どんな状況であってもセックスしたいと本能的に身体は動くだろう。王輝はため息をついた。このあとの収録に影響がでないようにしなければと王輝は自分に言い聞かせた。
「あれ?向こうから歩いてくるの、佐季さんじゃないですか?」
須川の言葉に耳を疑った。長い廊下の向こう側から歩いてくるのは、確かに遼だった。今までもテレビ局で会うことはあったが、このタイミングはまずい。王輝は逃げようとしたが、廊下に隠れる場所はなく、慌てている間に、遼が王輝に気づいた。軽い足取りで王輝に近づいてきた。
「佐季さん、お疲れ様です」
先に挨拶したのは須川だった。にこにこと営業スマイルを見せる須川に、いつもながら感心する王輝だった。
「お疲れ様です」
対する遼もにっこりとアイドルスマイルを見せた。
「今ヶ瀬もお疲れ」
「お、お疲れ」
極力遼を視界に入れたくないあまり、王輝の視線が変に泳ぐ。王輝の様子に、遼と須川は不思議そうに顔を見合わせた。
「佐季さんはこれからどちらへ?」
「今から帰るところです。今日の収録は終わったので」
「それじゃあ気をつけて帰れよ。お疲れ」
王輝は早々に話を切り上げて、その場を立ち去ろうとするが、今度は顔馴染みのプロデューサーが現れ、にやにやとした顔で声をかけてきた。
「今ヶ瀬くん元気にしてる?最近どうよ?」
力加減をしらないプロデューサーは、王輝の肩をばしっと強めに叩いた。見た目は肥満体型の冴えないおじさんだが、高視聴率番組をいくつも担当しているので、無下には扱えないのだ。「おかげ様で元気にしてます。ありがとうございます」と心のこもっていない言葉を王輝は早口で言った。
「最近俺の番組出てくれないから、心配でさぁ。またおもしろい企画用意しとくからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。ぜひお待ちしています」
須川は再び営業スマイルを見せた。プロデューサーの話はこれで終わらず、矛先は遼へ向いた。
「佐季ちゃんも久しぶり。売れたねぇ!」
「ありがとうございます」
「Bloom Dreamのスケジュール抑えられないって、どこの番組も悲鳴あげてるよ」
「恐縮です。あと佐季ちゃんはやめてください」
淡々と対応する遼を見て、意外な一面を見たと王輝は思った。普段の時とは違う冷めた笑顔に、怖さすら感じた。須川やプロデューサーは、何も思わないんだろうか。
「いいじゃない。佐季ちゃん、またね」
ひとしきり話し満足したプロデューサーは、大きな体をゆすって、廊下の先へと歩いて行った。嵐が去ったような空気が後に残る。
遼の横顔が、王輝へと向く。表情を見つめていたせいで、ばっちりと目があってしまい、王輝はすぐに顔をそらした。平常心平常心と心の中で唱える。
「今ヶ瀬、疲れてるのか?」
王輝の心を知らず、遼は心配そうに王輝の顔を覗きこんだ。近づいてきた遼に、ドキッと心臓が跳ねた。遼の匂いが鼻腔をかすめて、背筋がぞくりとした。
「大丈夫大丈夫」
王輝は両手を前に突きだし、遼と距離を取る。
遼と王輝の攻防を不思議に思いながら見ていた須川は、仕事用のスマホが鳴っていることに気づいた。慌てて電話にでると、今から収録する番組のスタッフからの連絡だった。
「すいません、収録一時間押しで十二時からに変更です。前の番組の収録が押してて…」
「わかりました。ご連絡ありがとうございます」
電話を切り、遼から逃げ回っている王輝に声をかける。
「収録十二時からに変更になりました」
動きを止めた王輝は、腕時計で時間を確認すると、何かを考え込むような表情になった。今は十時二十分だ。もともと早めに集合していたため、収録までには時間はある。須川はせっかくだから見知ったプロデューサーやスタッフに挨拶をしようと考えていた。少しでも王輝に仕事を取ってきてやりたい。
「私、挨拶してきますけど、王輝さんはどうします?」
「俺は楽屋で休んどく」
「そうですね、十一時三十分に楽屋に行きます」
今日の王輝のコンディションだと休むのが一番だと須川も思った。
遼に一礼し、須川は先ほどのプロデューサーに改めて挨拶するために、プロデューサーが歩いて行った方向へ駆けだす。廊下を曲がる瞬間に、王輝が遼の腕を引っ張って歩いていくのが見え、一瞬不思議に思ったが、気にしないことにした。元気なのか元気じゃないのか、今日の王輝は何か変だと須川は感じながら、廊下の先へと急いだ。
「声抑えろ、今ヶ瀬」
テレビ局の楽屋の一室、楽屋隅に備えつけられたカーテンで四角く仕切られた着替えスペースの内側に二人はいた。遼は後ろから王輝に挿入して、中を突き上げる。王輝は倒れないように壁に設置された姿見鏡に手をついていた。
カーテンの向こう、楽屋の扉の向こうでは、働いている人達がいるのにセックスしているこの状況に、二人は少なからず興奮していた。なぜ二人がこんな場所でセックスをしているのか。時間は少しさかのぼる。
「王輝さん、疲れてます?顔が死んでますよ」
遠慮のない須川の言葉に、王輝は反論できなかった。
テレビ局の廊下を二人は並んで歩いていた。さきほどテレビ局の玄関で合流したところで、須川は王輝の顔を見て、開口一番言い放ったのだ。
「すいません、昨日寝不足で…」
「子供じゃないんですから、体調管理くらいしてください」
「はい」
「確かに昨夜も暑かったですからね。クーラー使ってます?」
「使ってるよ」
六月に入り、梅雨入りした東京は連日ムシムシした暑さが続いていた。王輝もそれに体力を奪われる日々だった。しかし寝不足の原因はそれだけではなかった。
遼と映画を見た日から一週間経ったが、セックスできていないのだ。あのとき意地を張らずにセックスしておけばよかったと王輝は最近ずっと悔やんでいた。
そして昨夜久しぶりにバイブを使って一人でしたのだが、それが不完全燃焼だった。半年間遼とのセックスを味わっていたせいで、バイブだと物足りない身体になってしまっていたのだ。変に長い時間自慰をしていたせいで、睡眠時間が短くなり、寝不足と言う結果になった。朝起きて鏡で自分の顔を見た遠きから、須川に文句を言われる覚悟はできていた。
須川の言う通り、体調管理できていなければ、プロとは言えない。王輝はすっかり堕落してしまった自分の身体を恨めしく思った。けれど、今遼に会えば、どんな状況であってもセックスしたいと本能的に身体は動くだろう。王輝はため息をついた。このあとの収録に影響がでないようにしなければと王輝は自分に言い聞かせた。
「あれ?向こうから歩いてくるの、佐季さんじゃないですか?」
須川の言葉に耳を疑った。長い廊下の向こう側から歩いてくるのは、確かに遼だった。今までもテレビ局で会うことはあったが、このタイミングはまずい。王輝は逃げようとしたが、廊下に隠れる場所はなく、慌てている間に、遼が王輝に気づいた。軽い足取りで王輝に近づいてきた。
「佐季さん、お疲れ様です」
先に挨拶したのは須川だった。にこにこと営業スマイルを見せる須川に、いつもながら感心する王輝だった。
「お疲れ様です」
対する遼もにっこりとアイドルスマイルを見せた。
「今ヶ瀬もお疲れ」
「お、お疲れ」
極力遼を視界に入れたくないあまり、王輝の視線が変に泳ぐ。王輝の様子に、遼と須川は不思議そうに顔を見合わせた。
「佐季さんはこれからどちらへ?」
「今から帰るところです。今日の収録は終わったので」
「それじゃあ気をつけて帰れよ。お疲れ」
王輝は早々に話を切り上げて、その場を立ち去ろうとするが、今度は顔馴染みのプロデューサーが現れ、にやにやとした顔で声をかけてきた。
「今ヶ瀬くん元気にしてる?最近どうよ?」
力加減をしらないプロデューサーは、王輝の肩をばしっと強めに叩いた。見た目は肥満体型の冴えないおじさんだが、高視聴率番組をいくつも担当しているので、無下には扱えないのだ。「おかげ様で元気にしてます。ありがとうございます」と心のこもっていない言葉を王輝は早口で言った。
「最近俺の番組出てくれないから、心配でさぁ。またおもしろい企画用意しとくからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。ぜひお待ちしています」
須川は再び営業スマイルを見せた。プロデューサーの話はこれで終わらず、矛先は遼へ向いた。
「佐季ちゃんも久しぶり。売れたねぇ!」
「ありがとうございます」
「Bloom Dreamのスケジュール抑えられないって、どこの番組も悲鳴あげてるよ」
「恐縮です。あと佐季ちゃんはやめてください」
淡々と対応する遼を見て、意外な一面を見たと王輝は思った。普段の時とは違う冷めた笑顔に、怖さすら感じた。須川やプロデューサーは、何も思わないんだろうか。
「いいじゃない。佐季ちゃん、またね」
ひとしきり話し満足したプロデューサーは、大きな体をゆすって、廊下の先へと歩いて行った。嵐が去ったような空気が後に残る。
遼の横顔が、王輝へと向く。表情を見つめていたせいで、ばっちりと目があってしまい、王輝はすぐに顔をそらした。平常心平常心と心の中で唱える。
「今ヶ瀬、疲れてるのか?」
王輝の心を知らず、遼は心配そうに王輝の顔を覗きこんだ。近づいてきた遼に、ドキッと心臓が跳ねた。遼の匂いが鼻腔をかすめて、背筋がぞくりとした。
「大丈夫大丈夫」
王輝は両手を前に突きだし、遼と距離を取る。
遼と王輝の攻防を不思議に思いながら見ていた須川は、仕事用のスマホが鳴っていることに気づいた。慌てて電話にでると、今から収録する番組のスタッフからの連絡だった。
「すいません、収録一時間押しで十二時からに変更です。前の番組の収録が押してて…」
「わかりました。ご連絡ありがとうございます」
電話を切り、遼から逃げ回っている王輝に声をかける。
「収録十二時からに変更になりました」
動きを止めた王輝は、腕時計で時間を確認すると、何かを考え込むような表情になった。今は十時二十分だ。もともと早めに集合していたため、収録までには時間はある。須川はせっかくだから見知ったプロデューサーやスタッフに挨拶をしようと考えていた。少しでも王輝に仕事を取ってきてやりたい。
「私、挨拶してきますけど、王輝さんはどうします?」
「俺は楽屋で休んどく」
「そうですね、十一時三十分に楽屋に行きます」
今日の王輝のコンディションだと休むのが一番だと須川も思った。
遼に一礼し、須川は先ほどのプロデューサーに改めて挨拶するために、プロデューサーが歩いて行った方向へ駆けだす。廊下を曲がる瞬間に、王輝が遼の腕を引っ張って歩いていくのが見え、一瞬不思議に思ったが、気にしないことにした。元気なのか元気じゃないのか、今日の王輝は何か変だと須川は感じながら、廊下の先へと急いだ。
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