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1-2.先生と生徒ごっこ

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 セフレ関係になったときに、お互い好きにならないと決めてから、二人はセックス中に「好き」という言葉を言わないようにしていた。たかが二文字で何も変わらないはずだが、言ってしまえば変わる何かはある。それが怖くて、二人はその言葉を禁句のように扱っていた。
 「好き」という言葉を発した後、王輝は全身が震えるような感覚に襲われた。好きな人に抱かれる幸せ、好きな人とセックスできる幸せ。演技のはずなのに幸福感でいっぱいになる。一度口から出てしまえば、たかが外れたように「好き」がこぼれていく。
「すき、っあ、先生、…んんっ、好き」
 遼はその「好き」に動揺していた。演技だとはわかっているのに、嬉しく思ってしまう。ファンの人たちから何度も言われた「好き」、王輝が零した「好き」。優劣はつけてはいけないが、心が跳ねたのはどちらかとは言うまでもない。王輝の甘えたような「好き」に、遼は演技だからとい言い訳をして言葉を返した。
「先生も、今ヶ瀬のこと好きだ」
 遼の「好き」に、王輝は満たされない隙間が埋まるのを感じた。
「せんせっ、あぁっ、んっ、好き…んんあっ」
 王輝の全身に快感が広がり、床に白濁が飛び散った。ようやく射精できたことで、身体が一気に弛緩する。自分がイったきっかけが、遼の「好き」だったことに気づき、顔が熱くなった。初心なわけでもないのに、恥ずかしい。
 ぎゅうっと狭くなる王輝の中で、遼は搾り取られるように射精した。うつぶせで表情が見えない王輝の顎をつかみ、後ろに振り向かせる。王輝は羞恥と快楽で蕩けるような表情をしていた。頬は熱でもあるように上気している。蠱惑的な表情に遼はごくりと唾を飲みこむ。足りないと欲してしまう自分と王輝に無理をさせるなと警告する自分が、頭の中で騒いでいた。
 二人の視線が交わり、どちらからともなくキスをした。快感に浸っている王輝は、抗うことなく遼の舌を口内に受け入れる。噛みつくような遼のキスに、息をする暇がなく、苦しくなってくる。中に入ったままの遼自身が再び熱を持ち始めたことを王輝は感じ取っていた。さきほど射精した王輝自身も勃ちあがり始めていた。
唇が離れると、王輝はテーブルに身体を預け、大きく呼吸をした。遼が自身をゆっくりと抜く動作に、また感じてしまい、熱い息が漏れた。
 遼が抜いた後の王輝の後孔は寂しがるように口を開いていた。スカートはすっかり精液で汚れて、セーラー服も皺が目立つ。いつものセックスとは違う光景に、遼の熱が高まる。
 王輝はずっと設定を守っていて、それが役者魂なのかわからないが、遼としてはなんだかおもしろくなかった。遼自身はセックスする際、王輝の魅力に抗えなくて、いつも余裕がなくなってしまう。自身としては余裕を持っていたいのは常々思っていた。演技をしている王輝の余裕を奪い取ってしまいたい。そのとき王輝はどんな顔を見せるのだろう。どんな声をだすのだろう。
 一度想像してしまったら、遼は止まらなかった。遼はゴムを付けかえて、王輝の身体を仰向けにした。
「ちょっと、先生待って」
「待たない」
 さっきとは立場が逆転し、王輝が慌てるが、遼は挿入した。すっかりほぐれた中は、遼のものを奥へと誘うように動く。内壁の柔らかさと熱さに遼自身は包まれて、遼の思考は蕩けてしまう。挿れられて喜んでしまう身体に王輝は自身で呆れていたが、本能的に拒めなかった。
 そのまま正常位ですると思っていた王輝は、急に膝裏に入れられた遼の手に驚く。遼の身体にぐっと引き寄せられたかと思えば、王輝はあっという間に遼に抱えあげられていた。遼のもう片方の手が王輝の尻を下から支えるが、不安定な体勢に王輝は遼の首に腕を回した。いわゆる駅弁スタイルになる。
 重力で王輝の身体は自然と落ちるため、遼のものがずぶずぶと中に埋まっていく。深く入っていく感覚から逃げだそうとした王輝だが、体勢的に動けずもがいただけだった。このまま突かれたらと王輝はゾッとする。それは期待と不安が半分ずつだったが、身体は正直なもので王輝自身はすでに勃ちあがっていた。
 遼は王輝の全体重を支えながら、一気に自身を打ちこむ。勢いよく最奥を抉られた王輝は、その衝撃に息を詰まらせた。
「っ…はぁっ……」
 感電したように、快感が頭の先から足の先まで走り去る。王輝のものは何も吐き出さずに震えているだけだったが、確かに達した。遼はうねるような王輝の中から逃げるように腰を引き、もう一度穿つ。
「…っあ、ああっ…」
 再び王輝の身体はびくびくと震える。与えられる快感が大きすぎて、王輝は遼に抱きつくしかなかった。リズミカルな律動に、お互いの肌が当たり合うぱんぱんという音と結合部の水音が響く。遼は体力を使うこの体勢に、額から汗を落とした。
「これっ、あ、あっ、やば…」
 遼の耳元で、王輝の喘ぎ声と荒い息が吐きだす。それにすら興奮して、遼は穿つスピードを上げた。
「だめっ、イッて、あっ、イッてる、からぁ…」
 さきほどから王輝自身は射精することなく、何度も中イキし、内壁が遼のものを逃すまいと熱く蠢めいていた。
「んんっ、あっ、あぁっ、佐季っ…佐季…!」
 王輝は演技を忘れて、ただ遼を呼んだ。イッてるはずなのにイケない苦しさに頭がおかしくなる。目的を果たした遼は内心喜んだが、余裕がないのは遼も同じだった。
 遼は王輝の身体をテーブルへと戻し、荒い呼吸を整えた。王輝は何度も後ろでイかされ、だらしなく口を開き、肩で呼吸をしていた。その呼吸を奪うように、遼は王輝に口づける。
 先ほどの激しいピストンとは違い、王輝のいいところを狙うように、遼は腰を動かす。限界まで張りつめた自身を可愛がるように扱かれ、王輝はくぐもった嬌声をあげた。
「んんっ…、んぅ…」
 甘やかされるようなセックスに、気持ちよさそうに頬を上気させ、瞳は潤み、王輝は蕩けていく。遼は王輝が感じていることを確認し安心した。しかし遼のいたずら心に火がついた。まだ設定の中だから許されるだろう言葉を紡ぐ。
「今ヶ瀬、好きだ」
 王輝はかっと顔が熱くなった。先に演技から抜け出ていたため、まっすぐに遼の言葉を受け取ってしまう。
「待って、それ…」
 王輝は自分でも何に対しての待ってなのかわからずに、言葉を発していたが、駄目だと思った瞬間には射精していた。遼も王輝の中で搾り取られるように締めつけられ、白濁をゴムの中に吐き出した。すべてを吐き出すように、ゆるゆると腰を往復させ、大きく息を吐いた。王輝の中から自身を取り出し、ゴムを外す。
 王輝はじんわりと射精後の疲労感に浸りながら、また「好き」でイってしまったと羞恥が一挙に押し寄せる。パブロフの犬のように、「好き」と言われたらイってしまう身体になってしまったかもしれないと思った。
 遼に仕返しをしてやろうと、王輝は遼の首に腕を回し、ぐっと抱き寄せる。
「俺も好き」
 耳へ直接吹き込むと、遼はびくんっと身体を揺らした。遼が照れたように顔を赤らめるのを見て、王輝は満足した。
 冷静になった二人は周囲を見まわす。
「シャワーを浴びたら片付けるか…」
 遼の言葉に王輝は頷いた。テーブルは移動しているし、椅子も倒れている。テーブルと床は汗と精液で汚れていた。セックス後の疲労感が二人に重くのしかかる。
「佐季ってだんだん変態的にセックスするようになったよな」
 王輝は笑いながら言った。セフレ関係になった当初はごく普通のセックスをしていたが、月日が経つうちに、駅弁までたどり着いてしまった。言い返せない遼は、がっくりと項垂れる。それを見て王輝はからりと笑った。
「またこういうのしようぜ。次は何がいい?」
 王輝はスカートの裾を掴み、ひらひらとさせた。懲りない王輝に、遼は釘を刺す。
「設定って必要だった?」
「でも気持ちよかっただろ?」
「まぁ、うん…」
「否定しないのかよ」
 思わず王輝はツッコミを入れてしまう。顔を見合わせた二人は笑いながら浴室へと向かった。
 あえて「好き」の話はしなかった。お互い性欲に貪欲で、だからこそのセフレ関係だ。それ以上は求めるべきじゃない。遼も王輝もそれは承知していたからこそ、「好き」は今日限りにしようと思っていた。


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