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1-1.二人の日常
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「リョウが関係者チケットなんて珍しい」
マネージャーの岸が驚いた顔をした。
遼は新曲収録のために都内の音楽スタジオにいた。Bloom Dreamのメンバーであるカズ、タスクの二人も一緒だった。
「やっと友達ができたか?」
岸は嬉しそうに笑った。デビュー当時から遼たちのマネージャーをしている岸は、メンバーのことを我が子のように可愛がっている。四十歳半ばだが、すらりとした体形で細身のスーツが似合う。彫りの深い顔つきで、メディアでイケメンマネージャーと取り上げられることが多くなってきた。Bloom Dreamを担当する前から俳優やアイドルグループのマネージャーをしており、いわゆるベテラン敏腕マネージャーだ。可愛がるだけでなく、特には厳しく指導もする。芸能界での経験が多い分、メンバーにとっては頼りになる存在だった。
岸が言った友達と言う言葉が頭の中を巡る。友達と言えば友達だが、厳密には友達ではない。曖昧に頷くと、カズが横から「どうせ王輝くんでしょ」と明るい声で言った。
「あぁ、今ヶ瀬さんか」
まだ王輝と決まったわけではないのに、納得した様子で岸は手帳に名前をメモしていた。岸は歯切れが悪い遼を珍しく思った。遼の芸能界での交友関係は広くなく、今まで岸に関係者チケットを頼んできたことはなかった。カズとタスクは反対で、カズは持ち前の明るさと人懐っこさで顔が広く、タスクは友達と言うよりスタッフやプロデューサーの知人が多い。
遼の隣の部屋にあの今ヶ瀬王輝が引っ越してきたのは、岸は知っていた。どうやら顔見知り程度にはなり、食事を一緒にしたこともあるようだ。同じ年だから、友達になれたらいいと密かに思っていた。遼はBloom Dreamのリーダーとしてしっかり務めを果たしており、岸からすれば頼もしいが、反面全てを抱え込むタイプなので常に気にかけていた。メンバーとは仲はいいが、どこか一線を引いている感じも見受けられる。それが遼の性格なのは知っていたし、活動には何ら影響はないので、岸はただ見守り続けていた。
その遼が変わったと岸が感じとったのはここ数ヶ月のことだ。リラックスして仕事ができており、いい意味で力が抜けている。真面目な遼は仕事では力が入りやすく、時に空回りすることもあったが、それがなくなった。空気感が変わったような、憑き物がとれたような、そんな感覚を岸は抱いてた。ファンからの評価も好調で、ファンレターの数が目に見えて増えており、以前は少なかった遼個人の仕事は、いくつも話がきている状態だ。
「今度俺も一緒にご飯食べたいなー」
ソファに半分寝転びながら座っているカズは遼に訴えかけた。
カズはBloom Dreamのメンバーの一人で、今年の夏で二十歳を迎える。アッシュゴールドの髪色とサイドのツーブロックがカズの活発さを表わすようだ。シースルーバングの前髪からは大きめの瞳がのぞいていた。遼に比べると可愛らしく愛嬌のある顔つきで、右目の泣き黒子がセクシーさも感じさせる。感情がすぐに顔にも言葉にも出てしまうのが難点だが、グループのムードメーカーでもある。
「今ヶ瀬さんも僕らも忙しいんだから、そんな時間ないよ」
冷静に指摘するタスクは、最年少の十八歳。ミディアムショートにニュアンスパーマをかけており、アッシュブラウンの髪色が、形のいい輪郭に影を落とす。すっと通った鼻筋、二重の瞳の眼光は切れがよく、端正な顔つきだ。中性的な美しさを備えており、アイドル雑誌のイケメンランキングでは必ず上位にランクインしている。物静かな性格だが、競争心が強く、現状で甘んじることなく、自分にも他人にも厳しい。
「わかった、今ヶ瀬に聞いとくよ」
「やったー!」
カズは喜びを表わすように、ソファから飛びあがった。カズの大げさな動きに、隣に座っていたタスクが呆れた表情をする。
「スケジュール変更があったから、各自確認しておいてくれ」
岸はタブレットを操作した。日々更新されるスケジュールはクラウド上で共有されている。
「ツアーも新曲もあって大変だと思うが、頑張り時だぞ。ここで弾みをつけておかないと、来年以降に響くからな」
「はい」
三人の表情は真剣だ。デビューから約三年経ち、メンバーの表情はすっかり逞しくなっていた。デビュー当時は岸が何もかもを手伝っていたが、今では三人に任せている仕事もある。
マネージャーの岸が驚いた顔をした。
遼は新曲収録のために都内の音楽スタジオにいた。Bloom Dreamのメンバーであるカズ、タスクの二人も一緒だった。
「やっと友達ができたか?」
岸は嬉しそうに笑った。デビュー当時から遼たちのマネージャーをしている岸は、メンバーのことを我が子のように可愛がっている。四十歳半ばだが、すらりとした体形で細身のスーツが似合う。彫りの深い顔つきで、メディアでイケメンマネージャーと取り上げられることが多くなってきた。Bloom Dreamを担当する前から俳優やアイドルグループのマネージャーをしており、いわゆるベテラン敏腕マネージャーだ。可愛がるだけでなく、特には厳しく指導もする。芸能界での経験が多い分、メンバーにとっては頼りになる存在だった。
岸が言った友達と言う言葉が頭の中を巡る。友達と言えば友達だが、厳密には友達ではない。曖昧に頷くと、カズが横から「どうせ王輝くんでしょ」と明るい声で言った。
「あぁ、今ヶ瀬さんか」
まだ王輝と決まったわけではないのに、納得した様子で岸は手帳に名前をメモしていた。岸は歯切れが悪い遼を珍しく思った。遼の芸能界での交友関係は広くなく、今まで岸に関係者チケットを頼んできたことはなかった。カズとタスクは反対で、カズは持ち前の明るさと人懐っこさで顔が広く、タスクは友達と言うよりスタッフやプロデューサーの知人が多い。
遼の隣の部屋にあの今ヶ瀬王輝が引っ越してきたのは、岸は知っていた。どうやら顔見知り程度にはなり、食事を一緒にしたこともあるようだ。同じ年だから、友達になれたらいいと密かに思っていた。遼はBloom Dreamのリーダーとしてしっかり務めを果たしており、岸からすれば頼もしいが、反面全てを抱え込むタイプなので常に気にかけていた。メンバーとは仲はいいが、どこか一線を引いている感じも見受けられる。それが遼の性格なのは知っていたし、活動には何ら影響はないので、岸はただ見守り続けていた。
その遼が変わったと岸が感じとったのはここ数ヶ月のことだ。リラックスして仕事ができており、いい意味で力が抜けている。真面目な遼は仕事では力が入りやすく、時に空回りすることもあったが、それがなくなった。空気感が変わったような、憑き物がとれたような、そんな感覚を岸は抱いてた。ファンからの評価も好調で、ファンレターの数が目に見えて増えており、以前は少なかった遼個人の仕事は、いくつも話がきている状態だ。
「今度俺も一緒にご飯食べたいなー」
ソファに半分寝転びながら座っているカズは遼に訴えかけた。
カズはBloom Dreamのメンバーの一人で、今年の夏で二十歳を迎える。アッシュゴールドの髪色とサイドのツーブロックがカズの活発さを表わすようだ。シースルーバングの前髪からは大きめの瞳がのぞいていた。遼に比べると可愛らしく愛嬌のある顔つきで、右目の泣き黒子がセクシーさも感じさせる。感情がすぐに顔にも言葉にも出てしまうのが難点だが、グループのムードメーカーでもある。
「今ヶ瀬さんも僕らも忙しいんだから、そんな時間ないよ」
冷静に指摘するタスクは、最年少の十八歳。ミディアムショートにニュアンスパーマをかけており、アッシュブラウンの髪色が、形のいい輪郭に影を落とす。すっと通った鼻筋、二重の瞳の眼光は切れがよく、端正な顔つきだ。中性的な美しさを備えており、アイドル雑誌のイケメンランキングでは必ず上位にランクインしている。物静かな性格だが、競争心が強く、現状で甘んじることなく、自分にも他人にも厳しい。
「わかった、今ヶ瀬に聞いとくよ」
「やったー!」
カズは喜びを表わすように、ソファから飛びあがった。カズの大げさな動きに、隣に座っていたタスクが呆れた表情をする。
「スケジュール変更があったから、各自確認しておいてくれ」
岸はタブレットを操作した。日々更新されるスケジュールはクラウド上で共有されている。
「ツアーも新曲もあって大変だと思うが、頑張り時だぞ。ここで弾みをつけておかないと、来年以降に響くからな」
「はい」
三人の表情は真剣だ。デビューから約三年経ち、メンバーの表情はすっかり逞しくなっていた。デビュー当時は岸が何もかもを手伝っていたが、今では三人に任せている仕事もある。
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