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8.Happy Birthday
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しおりを挟む時刻は十五時、外の光が差しこむリビングは明るい。備え付けられたローテーブルには、サンドイッチやチーズや生ハム、ビールや酎ハイの缶が並ぶ。ソファは大きく、二人が座ってもまだ余裕がある。柔らかいソファに二人は並んで座り、対面に設置されている大きなテレビ画面には、ハリウッド映画が映っていた。
「幸世、誕生日おめでとう」
「ありがとう。麻琴も仕事お疲れさま」
冷えたビールで乾杯し、二人は喉を潤す。
「明るいうちから飲むビールは最高やわ」
「仕事は落ち着きそう?」
「まぁな」
缶ビールをぐいっとあおった麻琴は、一口サイズのサンドイッチを頬張る。幸世はキューブ型のチーズを口に入 れた。大画面では、宇宙滅亡を阻止するため、地球人や宇宙人がチームを結成する様が映し出されている。二人は画面を見つつ、食べ飲みしながら、雑談をする。
「幸世は?バイトどう?最近は何のバイトやってん?」
「今は塾講とカフェとコンビニ」
「そんなやってるん?前みたいに倒れんで」
「大丈夫だって」
「若いからって無理したらあかん」
「倒れたら、その時は麻琴が看病してくれるでしょ?」
「看病はするけど、ほんまに無茶したらあかんで」
「はーい」
幸世の気のない返事に、麻琴は身体の力が抜ける。二つ年下の幸世は普段はかっこいいが、たまに子供っぽくなる時があって可愛らしい。麻琴は思わず幸世の頭を撫でた。幸世のセットされた髪が、ぐしゃりと乱れる。
「もう、なに?」
「いや、かわいいし、かっこいいなって」
「酔ってる?」
「酔ってへんよ」
麻琴はふふっと笑って、持っていた缶ビールを飲み干した。まだビール一本なので、麻琴は酔ってはいないが、テンションはいつもよりは高い。にこにことしている麻琴に、幸世は反撃する。
「可愛いのは、麻琴のほうだから」
幸世は頭を撫でている麻琴の手を掴まえ、指を絡ませて繋ぐ。そして、手を引き、麻琴の手の甲にキスを落とす。急な幸世の行動に、麻琴はびくりと身体を揺らした。続きを期待して、麻琴の瞳は潤む。しかし、幸世はそれ以上の何もしなかった。
「映画、見ないの?」
「え、あ……、そやな……」
幸世は画面へと向き直ったため、麻琴もそれに従った。大画面では迫力ある映像が流れている。二人の手は繋がれたままで、麻琴の身体にじわじわと熱が灯る。口づけされた手の甲は熱い。
『思う存分セックスしようね』
麻琴は今朝言われた言葉を反芻していた。どうしても期待してしまい、身体が疼く。キスだって、セックスだって、二週間していないのだ。夜まで待つしかないと思うと、気が遠くなる。麻琴は気を紛らわせようと、空いている右手で、テーブル上の缶酎ハイを掴んだ。慣れた手つきでプルタブを開け、ごくごくと飲み、アルコールが身体に染み渡る感覚に浸った。
それから三十分程度経ち、麻琴は我慢の限界を迎える。映画は見てはいるが、内容は頭に入ってこない。食欲よりも何よりも、性欲が勝っていた。身体は熱くなり、夜まで待てるわけがない。
「幸世」
麻琴が繋いだ手を引き寄せ、絡ませた指に力を入れる。
「なに?」
幸世は麻琴を見て、わざとらしく言った。先ほどから、麻琴がそわそわとしているのはわかっていたが、あえて気づかない振りをしていた。幸世も正直限界で、そろそろ事に及びたかった。
「……なぁ、せぇへんの?」
「何を?」
幸世はにやにやと笑っている。揶揄われていることを麻琴は察した。と同時に、同じ気持ちであることが嬉しくもある。それならと、麻琴は立ち上がり、幸世の大腿部に跨るようにして座った。
「もう我慢できへんねん」
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