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8.Happy Birthday
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しおりを挟む「誕生日、何欲しい?」
麻琴が幸世に尋ねたのは、セックスを終え、二人とも身支度を整えた時だった。麻琴はスーツ、幸世はグレーのニットとジーンズというラフな格好だ。場所はラブホテルで、時刻は終電前。今日は平日のため、泊りではなく二人とも帰宅することを決めていた。
「そういうのって、サプライズとかするんじゃないの?」
真正面から尋ねられた幸世は面喰ってしまう。と同時に、もうすぐ自分の誕生日が近いことを認識した。自分の誕生日も他人の誕生日も覚えるのが苦手な幸世である。
「でも、幸世、サプライズ嫌いやろ?」
「うん」
幸世は力強く頷く。誕生日や記念日のサプライズほど、想像ができて、相手の満足のために付き合わされるだけだ。驚く演技をする労力は無駄だと幸世は思っていた。
「ほら、あれも……。何て言ったっけ?街の中で、他人がばーって出てきて、うわーって盛り上げて、実は仕込みでした、みたいな」
関西人らしい言い方に、幸世はふはっと笑ってしまう。
「フラッシュモブ、ね」
「あーそうそう、それ。嫌いやろ?」
「うん。大っ嫌い」
サプライズもフラッシュモブも、幸世は嫌いだった。それを麻琴に言ったことはなかったので、嫌いということが理解されていることが、幸世は嬉しかった。
「で、何が欲しいん?」
最初の質問に戻ってくる。幸世の誕生日は二月十四日で、二週間後に迫っていた。
「何でもいいよ」
「何でもいいって、そういう言い方が一番あかんし困る。言い方気をつけな、女の子に嫌われんで」
「別に、女に嫌われてもいいよ。俺には麻琴がいるから」
幸世はさらりと言い、麻琴を抱きしめる。セックスはしたものの、時間がないため、十分にイチャイチャできず、幸世は物足りなさを感じていた。スーツの上から、麻琴の尻や腰を撫でる。
「こら、っ……、もうあかんて、はよ帰らな、明日も仕事やねんて」
幸世に求められることは嬉しいが、社会人である麻琴には仕事も大事である。仕事は好きではないが、働かなければ稼げず、ラブホテルの料金も払えないし、幸世のプレゼントも買ってあげられないのだ。
「わかった」
幸世は麻琴を解放し、名残惜し気に、ちゅっとキスをした。従順な幸世に、麻琴も名残惜しく感じてしまうが、心を鬼にして、幸世から距離を取る。
「プレゼント、今じゃなくていいから、決まったら教えてな」
「麻琴からのプレゼントなら、どんなものでも嬉しいよ」
「そう言われても困るわ。学生やったら欲しいもん、いっぱいあるやろ?服とか靴とか?」
「別に、自分で買うから」
自分で欲しいものは自分で買う。幸世はバイトをいくつか掛け持ちしているので、お金について困窮することは少なかった。
「せっかくの誕生日なんやから、何でも買ったるし、何でもしてあげるし」
麻琴は何げなく言葉を発する。しかし、幸世の耳は、敏感に言葉を捉えていた。瞬間的に幸世は考えを巡らせる。麻琴の言う通り、せっかくの誕生日なのだから、欲しいものはもらわなければならない。
「ね、麻琴」
幸世はにこにこと微笑んでいる。その微笑みに、麻琴は嫌な予感がし、その予感は見事的中する。
いちゃいちゃするだけの短編です。
かなり過ぎてしまいましたが、二月十四日は幸世の誕生日でした。
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