流されノンケサラリーマンが年下大学生にとろとろにされる話

えつこ

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5.ごかいめ

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 麻琴は出来上がった粥を茶碗に入れ、スプーンとスポーツドリンクを持って、ベッドに腰かけた。眠っているキヨの顔をじっと見つめる。イケメンなのは変わらないが、しばらく会っていない間に、少し痩せた気がする。バイトが忙しいとは聞いていたが、倒れるまで大変なのだろうかと麻琴は不安を感じつつ、声をかけた。
「キヨ、お粥できたけど、食べれそう?」
 ゆっくりと瞼を開けたキヨは、パチパチとまばたきした。キヨは上半身を起こし、麻琴から茶碗を受け取る。
「麻琴が作ってくれたんだ?」
「レトルトやから温めただけやで」
「ありがとう」
 キヨは力なく微笑み、湯気の立つ粥をスプーンで掬った。ふぅふぅと冷まして、一口食べる。温かい粥が身体の中に入っていく感覚にホッとする。
「味は?レトルトやから大丈夫や思うけど」
「美味しい。それ、もらってもいい?」
 キヨは麻琴の持つスポーツドリンクを指差した。麻琴はキャップを開けて、ペットボトルを差し出す。キヨはそれで喉の渇きを潤す。
「食べ終わったら着替えよか。あと、汗拭いた方がいいで。着替えある?」
「着替えとタオルは、クローゼットのチェストに入ってる」
「床に落ちてる服は?洗濯する?」
「うん」
「普通に洗ってもいける?ややこしい服はないよな?」
「大丈夫」
 キヨが少しずつ粥を食べている間に、麻琴は床の服を集め、バスルームの洗濯機に入れた。チェストから着替え用のスウェットとタオル二枚取り出す。タオルは二枚とも濡らしてよく絞り、一枚は冷蔵庫へ、もう一枚はレンジで温める。
「食べた?」
「ごめん、これ以上食べれそうにない」
 茶碗には半分ほど粥が残っていた。麻琴はそれを受け取り、スポーツドリンクを渡す。
「これは後で食べたらいいから、水分摂っとき」
 茶碗をキッチンに置き、レンジから温めたタオルを取り出した。バサバサと広げて、適度にタオルの温度を冷まし、キヨに渡す。
「これで汗拭き。脱いだ服は洗濯するから」
 キヨは麻琴の手際の良さに驚きながら、汗で湿ったスウェットを脱ぎ麻琴に渡す。温かいタオルで顔や身体を拭くとさっぱりした。新しいスウェットに着替えたキヨは、再びベッドに横になり、布団に潜り込む。
「冷たいタオル乗せるで」
 麻琴はキヨが持っているタオルを引き取り、代わりに、冷蔵庫で冷やしていたタオルをキヨの額に乗せた。火照った身体に、冷たさが沁みて、キヨは気持ちよさからふぅと息を吐く。キヨは部屋の中をちょこまかと動く麻琴を目で追いかけた。部屋はすっかり綺麗になり、整理整頓されている。麻琴の世話焼き気質を目の当たりにして、キヨは麻琴らしいと小さく笑った。
「うるさくしてごめんな。洗濯終わって、干したら帰るわ」
 麻琴は片付けや洗濯を終え、ベッドの傍に座った。麻琴の目線がキヨと同じになり、二人の視線が交わる。
「いろいろしてもらってごめん」
「えぇよ、大したことちゃうし」
「麻琴は優しいね」
「せやろ」
「否定しないんだ」
 キヨが吹きだすように笑う。麻琴もつられて笑うが、キヨの笑顔に元気がなく心配になる。
「もうちょっと寝とき」
 麻琴は掛け布団の上から、ぽんぽんと優しく叩く。そのゆっくりとしたリズムが心地よく、キヨは目を瞑る。麻琴が傍にいる安心感と風邪のせいで湧く寂寥感に、キヨはふいに甘えたくなった。
「ね、麻琴」
「なに?」
「手繋いでて欲しい」
 キヨはうとうととしながら麻琴に手を差し出す。麻琴は目を丸くして、キヨの顔と手に視線を行き来させる。年下らしさを垣間見て、麻琴は可愛いと頬を緩ませた。
「だめ?」
「だめ、ちゃう。全然、ほら」
 不服そうに眉根を顰めたキヨの手を、麻琴はぎゅっと握る。すると、キヨは表情をやわらげ、そのまま眠りに落ちた。
「なんやねん」
麻琴は一人呟き、はぁとため息をついた。繋いだキヨの手は熱く、麻琴の頬もじわじわと熱くなる。ようやく落ち着いて状況を把握した麻琴は、キヨの匂いが充満する部屋に、鼓動が高鳴る。しばらく会えていないので、セックスしたいという気持ちが膨れ上がるが、相手は病人と自分に言い聞かせた。心地よさそうに眠るキヨの顔を見ながら、麻琴は一人悶々としていた。


 キヨは浅い眠りのなかで揺蕩っていた。
 手から感じる麻琴の温もりに心が安らぐ。突き放さなければいけないのに、こうやって麻琴に縋ってしまっている。金銭のやり取りもなくセックスをして、四六時中頭の片隅を麻琴が占領している状況は、もう戻れないところまで心が奪われていることと同じだ。
 麻琴から「好き」という感情が向けられているのだから、一歩関係を進めればいいだけの話だが、長らく恋愛をしていないキヨにとっては、それは怖さが伴うことだった。人間関係を希薄にしてきた罰だと、今になって後悔する。しかし、麻琴を失うほうが怖いことは明らかだ。
 ふと、麻琴の温もりが消えて、キヨは不安になった。一人にしないで欲しい。そばにいて欲しい。麻琴と過ごした記憶が、一気に溢れだした。キヨはそのどれも失いたくなくて、がむしゃらに手を伸ばした。そのとき、急速に意識が浮上する。


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