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5.ごかいめ
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しおりを挟むキヨは物心がついたときから、モテることを自覚していた。
かっこいい、イケメンと騒がれ、いつも注目の的だった。告白された回数は覚えていない。初体験は中学三年のときだった。
最初のころは嬉しくて、きちんと一人一人と向き合い、恋愛をしていたが、徐々に面倒になってきた。与えられすぎる好意は、キヨの首を絞めた。「好き」という感情を向けられることが苦しくなったのだ。
高校に入る頃には、特定の誰かと付き合うということはせず、のらりくらりと人間関係を構築していた。友人関係も恋愛関係も、キヨを苦しめる一因にしか過ぎなかった。
大学生になっても、それは変わらない。ただ、セックスをするのは嫌いではないため、身体を使って小遣い稼ぎを始めた。セックスで気持ちよくなれ、発生するのはお金のやり取りだけ。キヨにとっては願ってもないことだった。客の中には付き合ってと言い出す客もいたが、決して取り合わず、すぐに関係を切った。
麻琴から向けられる「好き」には気づいていた。いつもなら潮時だと関係を切るキヨだが、なぜだがそれができなかった。偶然始まった麻琴との関係は、いつの間にかキヨにとってなくてはならないものに変わっていた。それがキヨには怖かった。早々に麻琴を遠ざけなければ、キヨはそう考えていた。なのに、だ。
「キヨ、お粥できたけど、食べられそう?」
目を開ければそこには麻琴がいて、心配そうな表情でキヨを見つめていた。
どうしてキヨの部屋に麻琴がいるのか。
そもそもの根源は、キヨが風邪を引いたことだった。
試験が終わり、結果は良好、再試験もなく、キヨの長い春休みが始まった。今までは気ままにセックスをして小遣い稼ぎをしていたが、そんな気にもなれず、日中はカフェ、夜はバーで、キヨはバイトに勤しんだ。
麻琴に会うことをなんとなく避けていたこともあり、時間があればバイトを詰めこむ日々。バイトをしていれば、麻琴のことを考えなくても済むと思っていたキヨだが、頭の片隅では常に麻琴のことを考えていたし、セックスがしたくてイライラしていた。暇があるから考えてしまうとバイトのシフトを増やした結果、体調を崩し、見事に風邪を引いたキヨだった。
キヨはマンションの部屋で一人、発熱と倦怠感で苦しんでいた。大人になってから引く風邪は想像以上につらく、意識朦朧としながら、縋ったのが麻琴だった。
『助けて、風邪ひいた』
キヨからの悲痛なメッセージを受け取った麻琴は、定時ダッシュで会社を飛び出した。野中は「今日は早いな、お疲れ」と声をかけたが、麻琴の耳には届いていなかった。
麻琴はコンビニで、スポーツドリンクやゼリー、レトルトの粥を買い、キヨのマンションへと向かった。もちろん住所は知らなかったため、キヨに教えてもらった。初めてキヨのマンションを訪ねるのだから、普通なら緊張するものだが、キヨの体調のほうが心配だった。
麻琴がキヨの部屋のチャイムを鳴らすと、室内でキヨの動く気配がする。しばらくしてから鍵が開き、顔色が悪いキヨが出迎えてくれた。
「ごめん、麻琴。仕事なのに」
「そんなんえぇから。ちょっと上がらせてもらうで」
麻琴はドアを閉め施錠する。カバンとコンビニの袋を廊下に置き、ふらふらしているキヨに肩を貸した。スウェット越しに感じるキヨの体温はいつもより熱く、じんわり汗をかいている。
「薬は?飲んだ?」
「病院行って風邪薬もらった。インフルエンザじゃなかった」
季節的にはインフルエンザが流行る時期だ。キヨは念のため受診して検査を受けていた。
キヨの部屋はワンルームで、玄関からリビングまでの間に、小さなキッチンとバスルームがあり、一番奥にベッドが置いてあった。ベッドの向こう側にはベランダに続く窓がある。床は教科書や衣服で散らかっており、それらを避けながら、麻琴はベッドへとたどり着く。ゆっくりとキヨをベッドに腰かけさせると、麻琴はふぅと息を吐いた。
「ごめん、散らかってて。最近バイト忙しくて」
「謝らんでいいって。とりあえず寝ときや」
麻琴はコートとスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた。それらを床の端に畳んで置き、シャツを腕まくりしながら尋ねる。
「何か食べられそう?」
「たぶん」
「ちょっと待っとき。キッチン借りるで」
「うん」
麻琴はキヨがベッドに横になるのを確認して、小さなキッチンで調理に取り掛かる。と言っても、レトルトのお粥なので、温めれば終わりだ。麻琴はある程度料理ができるが、キヨの家に食材や調理器具があるかわからなかったため、レトルトを選んだ。冷蔵庫にゼリーを入れたとき、中身がほとんど入っていない庫内に、レトルトの選択肢は間違っていなかったと麻琴は思った。
コンロでお湯を沸かし、レトルトのパウチを沈める。その間に、シンクに置いたままの汚れた食器やゴミを片付け、床を綺麗にして足の踏み場を作る。がさごそと音を立てるが、キヨはすーすーと寝息を立てて気づかない。
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