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4.よんかいめ
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しおりを挟む翌日の大晦日、麻琴は大掃除と称して、いつもより丁寧に掃除をした。雑然としたワンルームが綺麗になったことに満足すると、寝正月をするために食料と酒とつまみを買いに出かけた。帰宅して早めに風呂に入り、酒を飲みながら、ぼーっとテレビを見ている間に年が明けた。
テレビでは新年を祝う番組が流れ、寒空の中初詣をする人々が映し出される。歌番組ではアイドルが元気に笑顔を振りまいていた。BGMとなり果てたテレビをつけたまま、麻琴は酩酊と眠気に揺蕩いながら、スマホのメッセージ画面を開いた。律儀にあけおめメッセージを送ってくる友人たちに、適当に返事を返していく。野中には明日の朝一番でメッセージを送ると決めた。
何もないとわかっているが、キヨとのメッセージ画面を開いてしまう。もちろんキヨから新着メッセージはなく、過去のやりとりが静かに残っているだけだった。
「ちょっとくらい、えぇよな」
誰に言い訳しているかわからないが、麻琴は呟きながら指先でメッセージを打つ。面倒くさいと思われないように、邪魔にならないように、と考えていると、我ながら女々しくて泣けると、麻琴は缶ビールを煽った。
『あけましておめでとう。勉強頑張りや』
推敲するほどでもない短い文章を何度も読み、麻琴は送信ボタンを押した。
「あーーー」
恥ずかしさを紛らわせるために声をだした麻琴は、床に倒れこむ。酒と暖房で火照った身体に冷たいフローリングが気持ちよく、麻琴はそのままごろごろとしていた。
スマホの軽快な音で、麻琴は目が覚めた。いつのまにか眠っていて、三十分ほど経っていた。どうせ友人たちだろうと、スマホを確認すると、キヨからのメッセージだった。一気に眠気が吹っ飛び、麻琴は飛び起きる。その際にローテーブルに足をぶつけて激痛が走ったが気にしていられなかった。
『あけましておめでとう。ありがとう、頑張る』
キヨからのシンプルなメッセージに、麻琴はしばらく画面を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
一方、キヨはマンションのベランダで空を見上げていた。冬の空は暗く、空気は冷たく肌に刺さる。
勉強の気分転換に、先程まで映画を見ていたので、年越しの感覚はキヨにはなかった。ただ十二時を周り、眠気を感じたため、そろそろ寝ようと思っていたときに、麻琴からメッセージが届いた。キヨは驚き、一気に目が覚めた。
深呼吸して、メッセージ画面を開くと、そこには麻琴からのメッセージが表示された。シンプルな内容に、自然とキヨの頬が緩む。麻琴なりに気を遣って連絡は控えていたのだろうに、律儀に新年の挨拶をしてくれたなんて、とキヨは想像した。麻琴からの連絡が想像以上に嬉しくて、キヨはじわじわと頬が熱くなるのを感じた。
キヨは返信の内容を考えながら、ベランダにでた。外気の冷たさが、熱い頬には心地いい。画面に指を走らせ、キヨは返信を書き上げる。内容には迷わなかったが、送信ボタンを押す際に、一瞬指が止まる。それは、初心なやり取りが生み出す一種の予感だったが、キヨはまだ気づかない。そのままメッセージを送信し、キヨは火照る頬を冷やすために、しばらくベランダで夜空を見上げていた。
*
一月末、麻琴は変わりない日常を過ごしていた。仕事をして、家に帰って、また仕事。たまに週末にはショッピングに行って、榛のバーに飲みに行って、仕事をして、の繰り返し。キヨのことを考えないように、仕事ばかりしていた。
「俺帰るけど、高坂は?」
隣のデスクの野中は立ち上がり、伸びをした。定時を一時間ほど過ぎており、フロアには野中と麻琴しかいない。
「野中さんが帰るなら、俺も帰ります」
麻琴はきりのいいところで作業を止め、パソコンの電源を落とした。帰る準備を整え、二人は揃って会社を出る。会社から最寄り駅までは徒歩五分ほどだ。サラリーマンが行き交うビジネス街を二人は歩く。
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