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4.よんかいめ
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しおりを挟む「は?ナンパされた男にホテル連れ込まれて、セックスして、今も会ってセックスしてる??」
「声でかいわ」
麻琴は人差し指を唇の前に移動させ、静かにとジェスチャーをした。麻琴の目の前、カウンターの中には白シャツに黒のベストを着た榛がいる。
十二月三十日、麻琴は榛が働くバーに一人で飲みにきていた。結局、麻琴は実家には帰らず、東京でのんびりと過ごすことを決めた。帰省ラッシュに巻き込まれるのが嫌であり、また実家で両親にあれこれ言われるのが面倒だった。というのは体裁で、本当はキヨから連絡から来たらすぐ会えるようにと帰らなかったのだ。確率はゼロに近いが、期待していることに、麻琴は自嘲した。
一人で過ごすのは手持ち無沙汰であった麻琴は、こうやって榛のバーを訪れたというわけだ。年越しを前に街を騒がしいが、店内はいつもと変わらない。ジャズが流れ、静かな時間が流れている。
「いや、ないわ、それは」
榛は顔を顰めながら、麻琴にグラスを差し出す。磨かれたグラスには琥珀色のビールが注がれ、しゅわしゅわと泡が弾けていた。麻琴はそれを受け取ると一口飲む。ビールを味わっている麻琴は、嫌悪感が滲む榛の視線に言い訳をした。
「だって、仕方ないやん。振られたあとで寂しかったし」
「仕方なくはない。普通に危ないやろ」
「でも、めっちゃいい人やで」
「いい人やからって、信用できるとは限らんやろ。前科あるくせに、いい加減わかれって。もうすぐ高い壺買わされんで」
榛は麻琴に取り合わず、終始否定に徹した。もともと麻琴がお人好しであることは、大学時代の付き合いでわかっていた。目を離すと、宗教の勧誘やマルチ商法に引っかかりそうになる。麻琴曰く「いい人そうで、騙されると思わなかった」と言う。人の見る目が全くなく、危機感が足りないと、榛は常日頃から思っていた。
「スマホ貸せ」
「は?」
「メッセージやりとりしてんやろ。俺がもう会わんって送るから」
榛はずいっと手を差し出す。麻琴はカウンターに伏せていたスマホを慌てて掴んで避難させた。
「わかった、わかったから、落ち着きや」
「落ち着いてるわ」
ふんっと腹立たしさを表すように榛は息を吐いた。諦めて手を引っ込め、榛はグラスを磨き始める。
麻琴はほっと安心したが、スマホは手に持ったまま、もう片方の手でグラスを持ち上げビールをぐいっと飲む。今は三杯目で、麻琴の身体はだいぶアルコールが回っていた。
「ってか、それってどんな関係なん?」
「何が?」
「最初は金払って、その後は金払わんと、その……」
榛は周囲を気にして、麻琴に顔を近づけて「セックスしたんやろ?」と続けた。間違いないので、麻琴は頷く。しかしキヨとの関係性については、麻琴もよくわからなかったので、そのあと首を傾げた。
「友達でもなくて、付き合ってもないけど、身体の関係はあるんやったら、それって…」
榛は磨いたグラスを静かに置いて、声を小さくして、言葉を続けた。
「セフレやん」
「……ほんまやな」
榛に言われて、麻琴は大きく頷いた。名付けると安心するもので、麻琴はキヨとの関係を肯定されたような感覚になった。
「ほんまやな、ちゃうわ」
榛はため息混じりでツッコミを入れる。ますます麻琴のことが不安になった榛は、新しい彼女でもできれば、と思いつく。今度誰か紹介してやろうと算段をつけながら、麻琴にくぎを刺す。
「とにかく、ほんまに気ぃつけや。なんかあったらすぐ言えよ」
「わかってるって」
へらへらと笑う麻琴に、榛は「絶対わかってないやん」とぼそりとつぶやいた。
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