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2.にかいめ
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「めっちゃ美味しかった」
麻琴はビールを一口飲み、ふぅと息を吐きながら、椅子に背中を預けた。対面に座っているキヨはハイボールを飲んでいる。テーブルの鍋や料理の皿は空で、二人はすっかり満足していた。
「この店、安いのに美味しいよね。友達に教えてもらったんだ」
「ほんまに。今度会社の飲み会で使おうかな」
持ち回りで回ってくる会社の飲み会の幹事としては、店選びに気を遣う。今度幹事をやるときは、この店にしようと麻琴は決めた。もつ鍋や他の料理も美味しく、コスパが良い。
「あ、忘れんうちに……」
麻琴はカバンからお金が入った茶封筒を取り出した。キヨとの会話が案外弾んでしまい、今日ここに来た目的を忘れるところだった。
「これ、この前の」
麻琴に封筒を差し出されたキヨは首を傾げた。検討が付かないというような顔をするキヨに、麻琴が業を煮やす。
「四万、今日はこれのために来たんやから」
「あ、そうだった」
「いや、忘れんといてや」
「ごめんごめん」
キヨは謝りながら封筒に手を伸ばす。そして、封筒ではなく、差し出された麻琴の手首を握った。急な接触に驚いた麻琴は肩を揺らす。
「何して……」
キヨの指が麻琴の手首や手のひら、手の甲を撫でる。優しい動きだが、どこかいやらしく、麻琴は息を詰めた。単純な刺激がもどかしく、麻琴はキヨを見つめた。キヨは目を細めて楽しそうに微笑む。
これ以上やられると我慢できなくなってしまう。麻琴は背筋のぞくぞくとする感覚に抗うように言葉を発した。
「早く、っ……、封筒取って」
麻琴の言葉に従い、キヨは麻琴の手を解放し、封筒を取る。麻琴がホッとしたのも束の間で、封筒をテーブルの上に置いたキヨは、もう一度麻琴の手を掴む。キヨは指を絡めるようにしながら、麻琴の手を愛撫し、優しくキスを落とす。ちゅ、ちゅっと音を立てれば、麻琴の表情は徐々に蕩けていく。
「っ、……キヨ、あかんって……」
ここが居酒屋であるということが、麻琴の理性を押しとどめていたが、我慢の限界は近かった。
「ね、麻琴、この後どうする……?」
欲情の浮かぶキヨの瞳に、麻琴は打ち抜かれた。逡巡したのは一瞬で、麻琴の理性や決意はあっという間に崩れ去った。身体は欲望に正直だった。戻れなくてもいい、あの快感を忘れられるわけがない、もう一度、と麻琴の下腹部が疼いた。
「……したい、っ、……あかん……?」
「かっ……」
キヨの抱いた可愛いという感情は、うまく言葉にならなかった。麻琴の伏し目がちな視線、潤んだ瞳、赤らめた頬に、左目の目尻のほくろが色気を添え、キヨの感情が一気に膨れ上がる。許されるなら、今すぐ押し倒したかった。
馬鹿正直に金を払いに来ただけでなく、まんまと二回目までヤらせるなんて、とキヨは目の前の麻琴を哀れんだ。しかし、獲物を逃すわけにはいかない。今日キヨがここに来たのは、一緒に飲むためでも、お金をもらうためでもなかった。もう一度麻琴をセックスするためだ。キヨもまた、麻琴とのセックスの虜になっていた。二週間の間に、小遣い稼ぎのために何人か抱いたが、麻琴の身体が忘れられず、悶々とした日々を過ごしていた。
「もちろん」
キヨの返答に、麻琴の表情に嬉しさがにじみ出る。麻琴はキヨの手から逃れると、テーブルに置いてあったジョッキグラスを持った。半分ほど残ったビールを一気に飲み干し、ダンッとテーブルに置く。
「酒のせいにせな、やってられへん」
麻琴の照れ隠しのための行動に、キヨは思わず笑いを吹きだした。
居酒屋を出た二人は、そのままラブホテルへと直行した。
道中、麻琴は恥ずかしさのあまり消えてしまいたくなった。初めての時は流されるままだったが、今回は麻琴自らの意志だ。前後不覚になるほど、酒を飲んでおけばよかったさえ思った。キヨは飄々とした様子なのが、麻琴の羞恥を押し上げた。
しかし、キヨも内心恥ずかしさを覚えていた。今までは、来る者拒まず去る者追わずのスタイルで、一人に執着したことがなかった。それに、今からのセックスは小遣い稼ぎではない。麻琴にハマっている感覚を楽しみながら、どこか怖さもあった。
お互いソワソワしたままだったが、ホテルの部屋に入るやいなや、欲望は爆発した。ドアが閉まったのを合図に、キヨが麻琴に噛みつくようにキスをした。その勢いに、麻琴は部屋の壁に追いやられる。
「んっ、キヨ……んぅ……」
麻琴の制止の声はキヨに飲みこまれた。キヨは麻琴の口内に舌を滑りこませ、上顎や歯列を撫でる。舌を吸い上げ、甘噛みされた麻琴は、ふるりと身体を震わせた。早急なキヨの行為に、麻琴の身体の熱は一気に上がる。
「ちょ、待っ……て……」
麻琴はキスの合間に声を上げた。キヨが名残惜しく麻琴を解放すると、つつっと唾液の糸が二人の唇を繋ぎ、すぐに切れた。唾液塗れの口周りを拭いながら、麻琴は荒い息を整える。
「キヨ、待ってって」
「何で?」
情事を中断され、キヨはムッとした表情を見せた。
「だって、俺口の中もつ鍋の味するから、恥ずかしい」
反抗の理由の可愛らしさに、キヨは肩透かしを食らった。じわじわこみあげてくる笑いを押し殺し、麻琴にちゅっと軽くキスをする。
「だから、あかんって」
「俺だってもつ鍋の味するし、一緒じゃん」
「キヨはいいけど、俺はあかん」
「意味わかんない」
麻琴の謎の理論に従う所以はないが、キヨは諦めた。
「じゃあ二人でお風呂入って、綺麗にしてから、ね?」
もう一度キスをしようと顔を近づけたキヨだが、麻琴の手に阻まれた。「綺麗にしてからやったらええ」と顔を赤くした麻琴に、キヨは早くセックスして、ぐずぐずに蕩けさせてしまいたいと思った。
麻琴はビールを一口飲み、ふぅと息を吐きながら、椅子に背中を預けた。対面に座っているキヨはハイボールを飲んでいる。テーブルの鍋や料理の皿は空で、二人はすっかり満足していた。
「この店、安いのに美味しいよね。友達に教えてもらったんだ」
「ほんまに。今度会社の飲み会で使おうかな」
持ち回りで回ってくる会社の飲み会の幹事としては、店選びに気を遣う。今度幹事をやるときは、この店にしようと麻琴は決めた。もつ鍋や他の料理も美味しく、コスパが良い。
「あ、忘れんうちに……」
麻琴はカバンからお金が入った茶封筒を取り出した。キヨとの会話が案外弾んでしまい、今日ここに来た目的を忘れるところだった。
「これ、この前の」
麻琴に封筒を差し出されたキヨは首を傾げた。検討が付かないというような顔をするキヨに、麻琴が業を煮やす。
「四万、今日はこれのために来たんやから」
「あ、そうだった」
「いや、忘れんといてや」
「ごめんごめん」
キヨは謝りながら封筒に手を伸ばす。そして、封筒ではなく、差し出された麻琴の手首を握った。急な接触に驚いた麻琴は肩を揺らす。
「何して……」
キヨの指が麻琴の手首や手のひら、手の甲を撫でる。優しい動きだが、どこかいやらしく、麻琴は息を詰めた。単純な刺激がもどかしく、麻琴はキヨを見つめた。キヨは目を細めて楽しそうに微笑む。
これ以上やられると我慢できなくなってしまう。麻琴は背筋のぞくぞくとする感覚に抗うように言葉を発した。
「早く、っ……、封筒取って」
麻琴の言葉に従い、キヨは麻琴の手を解放し、封筒を取る。麻琴がホッとしたのも束の間で、封筒をテーブルの上に置いたキヨは、もう一度麻琴の手を掴む。キヨは指を絡めるようにしながら、麻琴の手を愛撫し、優しくキスを落とす。ちゅ、ちゅっと音を立てれば、麻琴の表情は徐々に蕩けていく。
「っ、……キヨ、あかんって……」
ここが居酒屋であるということが、麻琴の理性を押しとどめていたが、我慢の限界は近かった。
「ね、麻琴、この後どうする……?」
欲情の浮かぶキヨの瞳に、麻琴は打ち抜かれた。逡巡したのは一瞬で、麻琴の理性や決意はあっという間に崩れ去った。身体は欲望に正直だった。戻れなくてもいい、あの快感を忘れられるわけがない、もう一度、と麻琴の下腹部が疼いた。
「……したい、っ、……あかん……?」
「かっ……」
キヨの抱いた可愛いという感情は、うまく言葉にならなかった。麻琴の伏し目がちな視線、潤んだ瞳、赤らめた頬に、左目の目尻のほくろが色気を添え、キヨの感情が一気に膨れ上がる。許されるなら、今すぐ押し倒したかった。
馬鹿正直に金を払いに来ただけでなく、まんまと二回目までヤらせるなんて、とキヨは目の前の麻琴を哀れんだ。しかし、獲物を逃すわけにはいかない。今日キヨがここに来たのは、一緒に飲むためでも、お金をもらうためでもなかった。もう一度麻琴をセックスするためだ。キヨもまた、麻琴とのセックスの虜になっていた。二週間の間に、小遣い稼ぎのために何人か抱いたが、麻琴の身体が忘れられず、悶々とした日々を過ごしていた。
「もちろん」
キヨの返答に、麻琴の表情に嬉しさがにじみ出る。麻琴はキヨの手から逃れると、テーブルに置いてあったジョッキグラスを持った。半分ほど残ったビールを一気に飲み干し、ダンッとテーブルに置く。
「酒のせいにせな、やってられへん」
麻琴の照れ隠しのための行動に、キヨは思わず笑いを吹きだした。
居酒屋を出た二人は、そのままラブホテルへと直行した。
道中、麻琴は恥ずかしさのあまり消えてしまいたくなった。初めての時は流されるままだったが、今回は麻琴自らの意志だ。前後不覚になるほど、酒を飲んでおけばよかったさえ思った。キヨは飄々とした様子なのが、麻琴の羞恥を押し上げた。
しかし、キヨも内心恥ずかしさを覚えていた。今までは、来る者拒まず去る者追わずのスタイルで、一人に執着したことがなかった。それに、今からのセックスは小遣い稼ぎではない。麻琴にハマっている感覚を楽しみながら、どこか怖さもあった。
お互いソワソワしたままだったが、ホテルの部屋に入るやいなや、欲望は爆発した。ドアが閉まったのを合図に、キヨが麻琴に噛みつくようにキスをした。その勢いに、麻琴は部屋の壁に追いやられる。
「んっ、キヨ……んぅ……」
麻琴の制止の声はキヨに飲みこまれた。キヨは麻琴の口内に舌を滑りこませ、上顎や歯列を撫でる。舌を吸い上げ、甘噛みされた麻琴は、ふるりと身体を震わせた。早急なキヨの行為に、麻琴の身体の熱は一気に上がる。
「ちょ、待っ……て……」
麻琴はキスの合間に声を上げた。キヨが名残惜しく麻琴を解放すると、つつっと唾液の糸が二人の唇を繋ぎ、すぐに切れた。唾液塗れの口周りを拭いながら、麻琴は荒い息を整える。
「キヨ、待ってって」
「何で?」
情事を中断され、キヨはムッとした表情を見せた。
「だって、俺口の中もつ鍋の味するから、恥ずかしい」
反抗の理由の可愛らしさに、キヨは肩透かしを食らった。じわじわこみあげてくる笑いを押し殺し、麻琴にちゅっと軽くキスをする。
「だから、あかんって」
「俺だってもつ鍋の味するし、一緒じゃん」
「キヨはいいけど、俺はあかん」
「意味わかんない」
麻琴の謎の理論に従う所以はないが、キヨは諦めた。
「じゃあ二人でお風呂入って、綺麗にしてから、ね?」
もう一度キスをしようと顔を近づけたキヨだが、麻琴の手に阻まれた。「綺麗にしてからやったらええ」と顔を赤くした麻琴に、キヨは早くセックスして、ぐずぐずに蕩けさせてしまいたいと思った。
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