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2.にかいめ
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しおりを挟む「高坂、今日早いじゃん」
定時の18時になるやいなや、パソコンの電源を落とした麻琴に、隣のデスクに座っている野中(のなか)が声をかけた。野中は麻琴の2年上の先輩だ。新人時代から麻琴の教育係をしている。つり目がちな瞳やシャープな顔立ちで怖い印象を与えるが、優しい性格で、仕事もできる。入社当時から仕事だけでなくプライベートの相談にのってもらい、それは今も変わらない。そんな野中のことが、麻琴は先輩としても人としても尊敬していた。
「ちょっと予定があって」
席から立ち上がりながら、麻琴は答えた。
これからキヨに会う。もちろん四万を返すためだが、メッセージでやりとりするうち、せっかくだから飲みに行こうという話になった。
「デート?」
「ち、がいますよ」
思わぬ野中の言葉に、麻琴の声が裏返った。野中はその反応を見て、にやにやと笑う。
「この前振られたって言ってなかった?」
「それは、そうなんですけど……」
「新しい子?」
「そういうわけじゃなくて……」
「どっちだよ」
野中はけらけらと笑った後「次は長く続くといいな」と優しく付け加えた。
キヨとの関係性を考えると、長く続かないほうがいいかもしれない。麻琴は考えながら、曖昧に頷いた。
「どうなったか教えろよ」
「だから、そういうんじゃ……」
「はいはい、早く行けって」
麻琴を追い払うように、手を動かした野中は、パソコンに向かい直り、滑らかにキーボードを叩いた。年末に向けて忙しくなるなか、野中は麻琴よりも多くの仕事を捌いていた。早く野中のように仕事ができるようになりたいと、麻琴は思いながら「お疲れさまです」と挨拶をして、職場を後にした。
待ち合わせの居酒屋には、麻琴が先に着いた。四人用の半個室に通され、キヨが来るのを待つ。金曜の夜のため、店内は賑やかだ。個室の扉の向こうでは、他の客の話し声や笑い声が響いていた。
麻琴はスマホを取り出し、ぼんやりとSNSやニュースサイトを眺めていた。内容はほとんど頭に入ってきていない。
キヨと会うのは二週間ぶりだった。あの衝撃的な夜が忘れられず、もともと自慰するときは性器しか触らない麻琴だが、最終的に後ろも使うようになっていた。元カノが置いていったアダルトグッズをずぼらにも捨てなかったことが、こんなところで役立つとは想像もしていなかった。麻琴はディルドやバイブで後ろを刺激しつつ、性器を弄り、あの夜の快感を再現しようとした。しかし、どうしても物足りず、腹の奥がきゅんと疼いて仕方ない。麻琴はすっかりキヨとのセックスの虜になっていた。
今日はお金を払って、飲んで、それで終わり。あわよくばセックスなんて期待はしない。麻琴は自分に言い聞かせていた。もう一度キヨとセックスしてしまうと、戻れなくなりそうで怖かった。麻琴が決意を固めていると、個室のドアがスッと開き、キヨが現われた。
「ごめん、待った?」
モッズコートを着たキヨは外の空気を纏っていて、麻琴の頬を冷たい空気が撫でる。二週間ぶりのキヨは相変わらずかっこよく、麻琴は一瞬見惚れてしまった。
「麻琴?」
キヨはコートを脱いでハンガーにかけながら、麻琴の様子を伺う。我に返った麻琴は「久しぶり、です」と言葉を捻りだす。
「なんで敬語?」
ふふっと楽しそうにキヨは笑いながら、麻琴の対面に座った。白のニットというシンプルな服装だったが、イケメンは何を着ても似合うと麻琴は内心思っていた。まともにキヨの顔を見ることができず、麻琴は視線を泳がせる。
そんな麻琴を気にせず、キヨはテーブルの端に置いてあるメニューを手に取った。
「麻琴、飲み物は?ビール?」
「うん」
「この店、もつ鍋美味しいんだって、もつ鍋大丈夫?」
「大丈夫」
「他は何頼む?」
キヨがテーブルの真ん中にメニューを広げたので、麻琴は前のめりになりメニューを覗き込む。同時にキヨも覗き込んだため、二人の顔が近くなる。麻琴がちらりと盗み見ると、端正なキヨの横顔が目前に迫る。セックスのときにはこの顔が獰猛になることを思い出し、麻琴はどきりと鼓動が跳ねた。慌てて身体を引いた麻琴は、動揺をごまかすように目についたメニューを口に出す。
「俺はアボカドサラダと軟骨の唐揚げ」
「いいね、ひとくち餃子は?」
「えぇんちゃう?」
キヨはパッと顔をあげ「やっぱり麻琴の関西弁可愛いね」と満足そうな表情をした。
「なんやねん、それ」
麻琴は口では否定したが、まんざらでもなく、顔が赤くなった。
そんな麻琴を見て、キヨは再び可愛いという感情を抱く。頬が緩むのを自覚しながら、キヨは呼び出しボタンで店員を呼んだ。
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