はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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3.これから先の話をしよう

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「ハルタ、大丈夫?」
 音さんが俺の頬を拭ってくれる。その手つきは優しい。俺は深呼吸を繰り返して、涙をどうにか止めようとするが、止まるものではない。鼻を啜りながら、「大丈夫です」と何度も言った。これほど泣いたのは、音さんと別れたあの夜以来だ。
「泣きたいだけ泣いていいよ」
 そう言ってくれた音さんは、俺の頭をよしよしと撫でた。そのせいで、また涙が溢れる。俺は音さんの胸の中で、泣き続けた。
 どれほど泣いていただろう。ようやく涙が止まって、俺は顔を上げた。
「音さん、すいませんでした」
 音さんは優しく微笑んでいた。相変わらず整った顔つきで、かっこいい、と考えられるくらいまで、俺の頭の中は冷静になっていた。今までの人生で大泣きすることは少なかったが、俺はどうやら泣けば頭がすっきりするタイプらしい。俺は一つ深呼吸をして、言葉を紡ぐ。
「音さん、俺をOTOに誘ってくれてありがとうございます」
「俺はハルタと音楽がやりたいから」
「でも……、ごめんなさい。今の俺はOTOにふさわしくないです」
 俺の返事に音さんは顔を顰めた。嫌われてしまうかもしれない、また離れ離れになってしまうかもしれない。その不安はあったが、俺の意思は固い。
「どうしてそう思うんだ?」
 音さんの声は低い。俺は自分を奮い立たせて、気持ちを伝える。
「俺、将来のことを、もっと、ちゃんと考えて就職して、OTOのメンバーにふさわしくなったら、OTOに還元できる何かを身につけたら、その時に加入してもいいですか?それまで、音さんが許してくれるなら、OTOでベースは弾き続けます」
 言い終えて、俺はふぅと息を吐いた。音さんをじっと見つめ、答えを待つ。
 今すぐOTOに入っても、今までと何ら変わらない。それだけでなく、就活の逃げ道として堕落してしまう可能性があった。ただベースを弾くだけでなく、OTOの一員として、音楽活動の手助けをしたい。俺はその考えに至った。

「……それで、いいですか?」
 俺は何も言わない音さんに、おずおずと確認する。音さんはしばらく黙ったまま、考える素振りを見せる。
「わかった」
 音さんの不機嫌そうな雰囲気を感じ取り、俺は身構える。しかし、続く言葉は優しいものだった。
「ハルタがそこまで言うなら、ハルタに任せる。ハルタの人生だから」
 俺は音さんの言葉に安堵する。「ありがとうございます」と言うと、「ただし」と返ってきた。
「もしふさわしくならなかったら、その時は覚悟しておいて。それに、俺よりも、新城が厳しいと思うから」
 新城さんの名前を口にすると、音さんは苦い顔をした。確かに、新城さんのほうが厳しい。俺が選んだのは茨の道だ。しかし、覚悟は決めたのだ。
「わかりました。よろしくお願いします」
「あんまり無理するなよ。もしOTOに加入できなくても、俺がハルタを好きな気持ちは変わらないし、ずっと大事にするから」
「俺のこと、あんまり甘やかさないでください」
「ハルタは甘やかしたくなるんだよ」
 音さん俺の頭を撫で、額にキスを落とした。俺の頬はじわり熱くなり、何も言えなくなった。


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