はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

文字の大きさ
上 下
32 / 36
3.これから先の話をしよう

13

しおりを挟む




 歌声が聞こえる。身体がリズムを刻み、心が弾む。音が全身に染みわたって、心地よく、幸せな気分になる。この声の持ち主は、そうだ、俺の大好きで、大事な人……。
「……おとさん?」
 目を開けると、目の前に音さんの顔があった。楽しな表情で、鼻歌を奏でている。音さんは俺が起きたことに気づき、ぱちぱちとまばたきした後、微笑んだ。
「おはよう、ハルタ」
「おは……う、……い、ます」
 俺の声は掠れて、全然言葉にならなかった。その理由を考えて、昨晩の記憶を徐々に思い出す。
 意識を飛ばした俺は、あの後目が覚めて、シャワーを浴びることになった。音さんに介抱されていたが、結局浴室でもセックスをして、ベッドに戻ってきて、さらにセックスをしたのだった。全身のあちこちが変に痛く、後孔の違和感も、セックスの激しさを物語っていた。
 こういうことを繰り返していた一年前の俺は、なんて若かったんだろう。我ながらしみじみと思い出に耽った。
「身体、大丈夫?」
「はい、たぶん……」
「あ、水持ってくる」
 音さんが起き上がり、布団も捲れてしまったため、温かさが逃げていく。もう少し一緒にいたい。俺は音さんの腕を掴んだ。音さんは不思議そうに首を傾げたが、すぐに「わかった」と言って、もう一度寝転んだ。音さんが俺を抱き寄せてくれ、二人で布団の中で身を寄せ合う。お互いの肌が触れる感覚に、俺は自分が全裸であることに気づいた。
「まだ時間あるから、もう少し寝たら?」
 そう言った音さんは、俺の背中をとんとんと優しく叩き、また鼻歌を歌い始めた。まるで子供に子守歌を聞かせるようだ。しかし、俺は音さんの鼻歌に聞き惚れてしまい、眠れるわけがなかった。
「なに?寝ないの?」
「そんな素敵な歌聞いて、眠れるわけないじゃないですか」
「それ、すごい誉め言葉」
 音さんははにかみつつも、鼻歌を続けた。聞いたことのないメロディラインが新鮮で、俺は頭の中でベースを奏で、勝手にセッションをしていた。音さんは鼻歌を止めると、ふぅと息を吐き、俺を見た。
「いい曲だろ?」
「はい。新曲ですか?」
「そう、ラブソング」
「珍しいですね」
 OTOの楽曲の中で、ラブソングはあるが、数少ない。作曲コンペ用の曲かもしれないと漠然と想像した。
「早く聞きたいです」
「でも、聞かせるのはハルタだけだから」
「え?」
「これ、ハルタへのラブソング」
「っ、え……?」
「ハルタ、正式にOTOに加入しないか?」
「え、は?えっと、ちょっと待って……」
 次々と突きつけられる音さんの言葉に、俺は混乱した。同時に、目頭が熱くなる。我慢できずに、俺は泣いてしまう。
「ハルタ、え、なんで泣いて……」
「だって……、音さんが……」
「俺が?なに?」
 慌てふためく音さんを横目に、俺はただただ涙を流す。音さんとこうして一緒にいることができるだけでなく、俺のためだけにラブソングを作って歌ってくれたこと、OTOの正式なメンバーに誘ってくれたことが嬉しかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

緋色の蝶々

hamapito
BL
 殺虫剤を持ち歩くほどの虫嫌いである大学生の緋色(ひいろ)は、駅でのケガをきっかけに、昆虫写真家の中谷(なかたに)と同居することに。  大事な人を探すための休暇中だという中谷は苦手な野菜をすすめ、侵入してきた虫を追い出すどころか嬉しそうに追い回す始末。それなのに求められることに弱い緋色は中谷とキスしてしまい――⁉ ※2025.3.23J.GARDEN57にて同人誌として頒布予定(書き下ろしあります)

天使の居場所

すずかけあおい
BL
「お腹空いた」 アルバイト帰りの伊央が深夜の道で出会ったのは、お腹を空かせた天使だった。 ずいぶん俗っぽい天使だな、と思いながらも自宅に連れ帰ると、天使は「お礼」と称して伊央を押し倒し――。 ※ファンタジーではありません。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

Re:asu-リアス-

元森
BL
好きな人はいつの間にか手の届かない海外のスターになっていた―――。 英語が得意な高校2年生瀬谷樹(せや いつき)は、幼馴染を想いながら平凡に生きてきた。 だが、ある日一本の電話により、それは消え去っていく。その相手は幼い頃からの想い人である 人気海外バンドRe:asu・ボーカルの幼馴染の五十嵐明日(いがらし あす)からだった。そして日本に帰ってくる初めてのライブに招待されて…? 会うたびに距離が近くなっていく二人だが、徐々にそれはおかしくなっていき…。 甘えん坊美形海外ボーカリスト×英語が得意な平凡高校生 ※執着攻・ヤンデレ要素が強めの作品です。シリアス気味。攻めが受けに肉体的・精神的に追い詰める描写・性描写が多い&強いなのでご注意ください。 この作品はサイト(http://momimomi777.web.fc2.com/index.html)にも掲載しており、さらに加筆修正を加えたものとなります。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

処理中です...