はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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3.これから先の話をしよう

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「よし、戻るか」
 音さんは缶を掴み立ち上がった。俺も慌てて立ち上がろうとして、足元がふらつく。バランスを取らないとと反射的に思ったところで、腕をぐいっと引っ張り上げられた。
「あぶな」
 音さんが俺の身体を支えてくれていた。
「ライブ前に怪我するなよ」
「すいません、ありがとうございます」
 俺は音さんから離れようとしたが、音さんが腕を離してくれない。不思議に思っていると、音さんの顔が俺に近づいてきた。
「ピアス、やっぱり似合ってる」
 少し掠れた音さんの声に、鼓動がドッと跳ねる。シルバーのピアスは以前音さんがくれたもので、音さんと復縁してからずっと着けている。じりりと耳たぶが熱くなった気がした。
 音さんは微笑んで、俺を見つめている。茶色の瞳は日に透けて、綺麗だ。俺は視線が逸らせない。頬もじわりと熱くなる。このままキスしてしまえたら、と欲望が湧いてしまう。しかし、それは叶わなかった。
「ハルタ、行こう」
 音さんはそれだけ言うと、俺から離れ、俺の腕を解放した。ほっとしたのと、残念に思ったのと、ライブ前に不謹慎だと反省したのと、いろいろな感情が浮かんでは消えていった。
 俺は音さんの後について、ライブハウスへと戻る。鼓動はまだ速く、頬は熱い。







 ライブが始まって、終わった。一瞬だった。
「こんばんは、OTOです」
 音さんが挨拶して、フロアが盛り上がって、一音目がフロアに響き渡り。ライブが始まる。
 緊張、高揚、興奮、熱狂、歓喜。一生懸命、がむしゃらに、ベースを弾いた、音さんと新城さんと視線を交わし、呼吸を合わせ、一緒になって、ギターとベースとドラムの音が重なり、観客の歓声と拍手に包まれ、全てが溶け合って熱気となり、ライブハウスを満たす。ただ、単純に楽しくて、幸せだった。
「ハルタ、最高だった」
 控室に戻ってきて、満面の笑みを浮かべた音さんに抱きしめられたところで、俺は我に返った。音さんによしよしと頭を撫でられ、俺の髪はぐしゃぐしゃになる。汗が額や首筋に流れ、全身に疲労感が襲う。鼓動は速い。何度も呼吸するが、息苦しく、酸素が足りないくらいだ。
「始まる前はどうなるかと思ったけど、よかったよ」
 新城さんは満足そうな表情だった。普段は自分にすら厳しい新城さんが褒めてくれるのは珍しい。
「ありがとうございます」
 俺は呆然としながらお礼を言った。記憶は朧げだが、二人の表情からライブが成功したことを悟る。嬉しいことだが、安堵の方が大きい。
「ハルタ」
 音さんの瞳の奥は熱っぽく、じっと俺を見つめる。音さんに抱きしめられたままだった。その視線の意味するところを悟り、俺はじわりと頬が熱くなった。
「はい、そこまで」
 新城さんの声で、俺は我に帰る。音さんは俺を解放し、ハンズアップした。
「イチャつくなら、さっさとホテルでもどこでも行ってくれ」
 呆れた表情の新城さんに、俺と音さんはバツ悪く顔を見合わせ、どちらからともなく笑いを吹き出した。



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