はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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3.これから先の話をしよう

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「……わかりました」
 俺が言い終わるやいなや、音さんががばっと抱き着いてくる。
「嬉しい。ありがとう、ハルタ」
 ぎゅううと力強く抱きしめられる。音さんの体温と鼓動が近い。腕の中の心地よさに浸っていたが、二の足は踏まないようにしなければならない。俺は顔をあげ、音さんに訴えた。
「音さんの気持ち、ちゃんと俺に伝えて下さい。あと、ポチって呼ぶの、やめてください」
「わかった」
 俺の不安は拭いきれるわけもなく、音さんに「本当ですか?」と念押しする。
「ほんとだよ、ハルタ。ハルタのこと好きだし、もう絶対離さない」
 音さんは苦手と言うわりに、照れたり恥ずかしがったりせず、俺の目を真っすぐに見つめてくる。こういう時の音さんはズルい。俺のほうが恥ずかしくなって、視線を伏せた。
「ハルタ」
 優しい声が降ってくる。俺の顎に音さんの手が添えられ、上を向かせられた。音さんの顔が近づいてくる。キスされると思い、そっと目を閉じた。が、いつまで経っても、キスの感触はない。不思議に思って目を開けると、音さんは動きを止めていた。
「どうかしました?」
「だって、就活あるって言ってたから」
「ありますけど……?」
「じゃあ、何もしないほうがいいだろ?真面目に生きるって言ってたし」
「それは、そうですけど……」
 音さんの気遣いは嬉しかったが、今は気遣うタイミングではない。と思っていると、ちゅっとキスを落とされる。
「うそだって。ごめん、泣きそうな顔しないで」
「してない、っんん……」
 もう一度キスをされる。先ほどより長く唇が触れ合い、そっと離れていった。
「ハルタ、いい?」
 音さんに熱っぽく囁かれる。久しぶりのキスのせいで、俺の身体は一気に熱くなった。返事の代わりに、俺からキスをする。それが合図になり、音さんは俺を抱き寄せ、何度も角度を変えてキスをくれた。音さんの舌が俺の口内に入ってくる。上顎を撫でられ、舌を絡められ、唇を貪られる。俺たちの荒い息が部屋に落ちた。音さんは俺を床に押し倒した。音さんは自分のTシャツを脱ぎ捨て、俺のTシャツを捲り上げる。
「音さん、ちょっと、ここでは駄目ですって」
 部屋自体は音さんの部屋だが、この防音室については、音さんと新城さんが共同で利用しており、飲食厳禁、整理整頓、と常々新城さんが口にしていた。パソコンや機器が置いてあり、OTOの中枢と言っても過言ではない場所なのだ。それは音さんも重々承知しているはずだ。
「我慢できない」
「待って、新城さんに怒られます」
「ハルタ、今は俺以外の名前を口にしないで」
 音さんは再び俺に口づける。嫉妬を垣間見て、俺は嬉しくなったが、それどころではない。新城さんに怒られることのほうが怖かった。
 俺は音さんの身体を押すが、びくともしない。それに、音さんにキスをされ、音さんの手が俺の身体を撫でると、うまく力が入らなかった。
「おと、さんっ……、だめ……」
「ハルタ、好きだ」
 音さんの切羽詰まった表情と声に、俺はどうしようもなく、胸が高鳴る。一度くらいなら、このまま流されてもいい。そう思った瞬間、ガチャリとドアの開く音がした。俺と音さんは、ドアへと視線を移動させる。
「何やってんの……」
 そこに立っていたのは新城さんだった。


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