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3.これから先の話をしよう
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しおりを挟む「むしろまだ好きです」
反射的に、俺の口からは、先ほど飲みこんだ言葉が飛びだしていた。慌てて口を抑えるが、もう遅い。
「いや、違います、えっと、違わないですけど」
「どっちだよ」
音さんはふはっと笑いをこぼした。音さんらしい笑い方に、俺は身体の力が抜ける。俺たちの間の空気が柔らかくなった。
「ハルタ」
優しい声が俺を呼ぶ。俺は音さんを見た。その瞳は真っすぐ俺を見つめる。
「俺だって、ハルタのこと、まだ好きだ」
思わぬ告白に、俺は驚いた。そして、音さんから初めて言われた『好き』という言葉に、正直ときめいてしまった。
「ハルタのこと、本当に好きで、今でも全然諦めてないし、誰にも譲りたくない。そういう自分がダサくて、かっこ悪いから、ハルタにはそういう素振りは見せないようにしてた。だから、ハルタには伝わってなかったかもしれない。それに、あの時作曲コンペに集中してる時期で、ハルタに冷たくした自覚もあった。だから、別れを切り出されたとき、やっぱりって思ったし、俺に引き留める権利はないって思った」
音さんの気持ちを、初めて聞いた気がした。もともと音さんは飄々としていて、どこか掴みどころがなく、いつまでも憧れの人というポジションだった。音さんの本音を聞けたことが、俺は嬉しく、人間くさい一面を可愛らしくも思った。が、同時に、少しムッとした。
「なんで、そういうことを言ってくれなかったんですか?」
至極当たり前な質問だ。音さんの気持ちを聞いていれば、俺たちは今も一緒にいただろう。俺の質問に、音さんは苦い顔をした。
「ごめん。でも、俺がそういうの、苦手なの知ってるだろ」
「知らないですよ」
「うそ、歌詞考えるときに言ったことあるだろ?『ストレートな歌詞が書けない』って」
「え、は?いや、そうですけど……」
OTOで曲作りをしているときに、音さんがそういうことをよくぼやいていたことを思い出す。OTOの曲にはストレートな歌詞の曲もあるが、大半は比喩的で婉曲的表現の曲だ。
「俺的には、ずっと一緒に演奏しているだけで、めちゃくちゃハルタのこと気に入ってるってことなんだけど」
音さんは「わかるだろ?」と言わんばかりに不機嫌そうな表情をした。俺はさらにムッとして、疑問を投げつけた。
「じゃあポチって呼ぶのは?」
「あれは、照れ隠しっていうか……」
「俺はポチって呼ばれるの、嫌です」
「え、それなら言えよ」
「そうですけど……」
「それに、俺がハルタって呼ぶと、すっごい嬉しそうに笑うから、それが可愛くて、他の奴に見せたくなかったし」
「え、うわ、言ってくださいよ、それ」
確かに音さんにハルタと呼ばれるのは好きだ。それが表情に出ていたかと思うと、恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
「ハルタ、もう一度、やり直してくれないか?」
音さんに言い寄られ、顔の熱さが全身に広がる。俺の胸はきゅっと締め付けられた。音さんは捨てられた子犬のような瞳で俺を見てくる。未だに好きなのだから、断る理由はない。真面目に生きることを決めたのに、音さんにはとことん弱いのだ。
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