はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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3.これから先の話をしよう

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 目を開けると、懐かしい天井があった。
 寝返りをうち、シーツに顔を埋める。大好きな音さんの匂いがして嬉しくなった。匂いに包まれて、もう一度眠ろうと目を閉じたが、徐々に意識が覚醒する。
 慌てて起き上がり、部屋を見渡す。相変わらず雑善と散らかった部屋に、音さんの姿はない。
 昨日、新城さんに就職の相談に乗ってもらったことは覚えていた。確か、いつもより飲みすぎたのだ。どうやってここまで来たか、記憶はない。音さんが来てくれたのは夢だと思っていたが、まさか本当に迎えに来てくれたのだろうか。
 俺のカバンはベッドの横に置いてあった。服は昨日のままだ。カバンからスマホを取り出すと、『9:20』と表示された。スケジュールを呼び出し、今日は大学もバイトもないことを確認し、安堵する。
 寝室からリビングへと移動する。静かなリビングに人気はない。
 もしかして、と俺はリビングの隣の防音室のドアを開けた。部屋の真ん中で、音さんが寝転んでいた。音さんの周りには、楽譜や雑誌が散らばっていて、それに埋もれている。
 防音室で作業をして、そのまま寝るというのは、音さんにとって珍しいことではなかった。昨晩もそうだったのだろう。
「音さん……?」
 俺はしゃがみ込み、音さんの肩をぽんぽんと叩いた。数秒後、音さんはゆっくりと目を開ける。眠そうな瞳に見つめられる。
「ハルタ……、なんで……?」
 のっそりと上半身を起こした音さんは、しばらくボーッとしていた。寝起きが悪いのは、音さんの常だ。
「なんでって、俺こそ聞きたいです。俺なんで音さんの部屋に?」
 音さんは乱れた髪をかきあげ、しばらく目を瞑っていた。そして、ゆっくりと目を開けた。
「昨日、貴史から連絡あって、連れて帰れって言われて……」
「はい」
「迎えに行って、連れて帰ってきた。それだけ」
 音さんは再び目を瞑り、そのまま動かなくなってしまう。このまま帰ることもできたが、音さんを放置するわけにはいかない。
「音さん、寝るならベッドいきましょう」
「んー」
「もう……」
 俺はため息をつく。担いでいくには、音さんの方が大きく、体格差があり無理だ。気の済むまで寝かせるのが一番かも知れない。そう考えていると、どこからかブーブーと振動音が聞こえ始めた。音さんはパチリと目を開け、散らばった床を探り始めた。
「スマホですか?」
「そう」
 俺も床を片付けて、一緒にスマホを探す。楽譜を捲ると、スピーカーの近くに黄色のものを落ちているのを見つけた。ほら、見つけやすい、と一人満足して、スマホを拾った。
 ビビッドな黄色のスマホケースは、音さんっぽくはない。すぐにスマホをどこかにやってしまう音さんのために、俺が買ったものだった。別れて半年も経つのだから、捨てればいいのに。しかし、ピアスやイルカのキーホルダーのことを思えば、人のことを言える俺ではない。


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