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2.楽しかった昔の話を少し
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こうして、俺は音さんに出会ってから、すぐに恋に落ちて、転げ落ちるように堕落的な生活をするようになった。
まず、ピアスを開けて、髪の色を明るくした。友達からは驚かれたが、別に気にならなかった。音さんからもらったピアスはシンプルなシルバーのもので、飽きもせずずっとつけていた。
俺は技術を磨くべく、日々ベースの練習にのめりこんだ。音さんの知り合いのベーシストから教わる機会があり、以前より少しマシな演奏ができるようになった。それでも音さんの隣に並ぶには程遠い。
OTOの一員としてステージに立つようになってからは、刺激的で充実して、楽しくて幸せな日々を過ごした。音さんと一緒に音楽を奏で、ライブ後は興奮のままセックスをすることも頻繁だった。
ライブハウスの近くのラブホテルに駆けこむと、すぐに抱き合ってキスをして。もつれながらベッドに倒れこむ。
「ハルタ、今日も最高のライブだった」
「んっ、音さんのギター、かっこよかった、です」
「ありがと」
音さんからのキスで、俺はすぐに蕩けてしまう。音さんは俺の肌を撫でて、舐めて、隅々まで堪能する。俺の身体の気持ちいい所は、音さんに把握されていて、音さんから与えられる全てが快感だった。
「おと、さんっ、あ、すきっ、っああ」
「ハルタ、可愛い」
一晩で何度も身体を重ね、何度も達し、お互い求めあった。
一つ気になっていたのが、音さんが俺のことを『好き』だとは言ってくれないことだった。
音さんの周囲にはいつも人がいて、音さんは輪の中心にいる人物だ。音さんにとって、俺は周囲の人たちのうちの一人であって、ただ音楽とセックスの相性がいい人なのだろう。しかし、音さんは俺を見つけると、パッと表情を明るくして「ハルタ」と呼んでくれる。それだけで、俺は救われたし、それで充分だった。
新城さんは俺たちの関係を知っていたが、何も思ってないようだった。呆れた顔をしていることはよくあった。
「音の音楽の邪魔はするな。音楽の才能を潰すなよ」
だたそれだけ、釘を刺された。新城さんは音さんの音楽の才能に惚れ込んでいる。だからこそ、音楽さえ続けていれば、私生活については文句は言わなかった。それは俺だってそうで、音さんの音楽の邪魔にはならないように弁えていた。
俺の生活はOTOでの音楽活動が中心になり、大学の単位はぎりぎりで、なんとか進級した。
二年になっても、同じような生活は続いた。
OTOは俺がベースを担当してからは、精力的にライブをしていた。これほど長くベーシストとしてOTOに在籍したのは、俺が初めてらしく、界隈で俺はちょっとした有名人になった。
大学が夏休みに入ったタイミングで、音さんと二人で旅行をした。楽器と最小限の機材を持って、路上ライブした。ライブの投げ銭で、酒を飲んで、ラブホテルに泊まって、セックスをした。一週間程度のあてのない旅行だったが、充実していた。不安はあったが、音さんとなら大丈夫だと言う確信があった。
音さんと過ごすようになって半年以上経っていたが、音さんは相変わらず俺のこと好きだとは言ってくれなかった。それだけでなく、俺のことをポチと呼ぶことが増えた。ニックネームのつもりらしいが、音さんにとってペットのような存在だと思うと、なんだか悲しくなった。
秋になって、俺はふと、このままでは駄目だと悟った。理由はたくさんあった。進級の単位が危なかったこと。音さんの音楽の才能が羨ましかったこと。音さんの気持ちがわからなかったこと。友達が就活の話をしていたこと。ポチと呼ばれること。音さんに好きと言われなかったこと。このままだと、音さんも、音さんの音楽も、嫌いになりそうだった。
冬の気配が近づいたある日、俺は音さんに別れを告げた。音さんは驚いた顔をしたが、「わかった」とだけ言い、すんなり別れを受け入れた。引き留めてくれると思ったのは、烏滸がましかっただろうか。せめて理由くらい聞いて欲しかった。
無性に悲しくなり、俺は一晩泣いて、翌朝にはスッキリしていた。ほら、切り替えは早いほうなんだ。音さんのことは忘れて、真っ当に生きていくんだ。
そう思っていたが、音さんへの気持ちは消えることはなかった。
まず、ピアスを開けて、髪の色を明るくした。友達からは驚かれたが、別に気にならなかった。音さんからもらったピアスはシンプルなシルバーのもので、飽きもせずずっとつけていた。
俺は技術を磨くべく、日々ベースの練習にのめりこんだ。音さんの知り合いのベーシストから教わる機会があり、以前より少しマシな演奏ができるようになった。それでも音さんの隣に並ぶには程遠い。
OTOの一員としてステージに立つようになってからは、刺激的で充実して、楽しくて幸せな日々を過ごした。音さんと一緒に音楽を奏で、ライブ後は興奮のままセックスをすることも頻繁だった。
ライブハウスの近くのラブホテルに駆けこむと、すぐに抱き合ってキスをして。もつれながらベッドに倒れこむ。
「ハルタ、今日も最高のライブだった」
「んっ、音さんのギター、かっこよかった、です」
「ありがと」
音さんからのキスで、俺はすぐに蕩けてしまう。音さんは俺の肌を撫でて、舐めて、隅々まで堪能する。俺の身体の気持ちいい所は、音さんに把握されていて、音さんから与えられる全てが快感だった。
「おと、さんっ、あ、すきっ、っああ」
「ハルタ、可愛い」
一晩で何度も身体を重ね、何度も達し、お互い求めあった。
一つ気になっていたのが、音さんが俺のことを『好き』だとは言ってくれないことだった。
音さんの周囲にはいつも人がいて、音さんは輪の中心にいる人物だ。音さんにとって、俺は周囲の人たちのうちの一人であって、ただ音楽とセックスの相性がいい人なのだろう。しかし、音さんは俺を見つけると、パッと表情を明るくして「ハルタ」と呼んでくれる。それだけで、俺は救われたし、それで充分だった。
新城さんは俺たちの関係を知っていたが、何も思ってないようだった。呆れた顔をしていることはよくあった。
「音の音楽の邪魔はするな。音楽の才能を潰すなよ」
だたそれだけ、釘を刺された。新城さんは音さんの音楽の才能に惚れ込んでいる。だからこそ、音楽さえ続けていれば、私生活については文句は言わなかった。それは俺だってそうで、音さんの音楽の邪魔にはならないように弁えていた。
俺の生活はOTOでの音楽活動が中心になり、大学の単位はぎりぎりで、なんとか進級した。
二年になっても、同じような生活は続いた。
OTOは俺がベースを担当してからは、精力的にライブをしていた。これほど長くベーシストとしてOTOに在籍したのは、俺が初めてらしく、界隈で俺はちょっとした有名人になった。
大学が夏休みに入ったタイミングで、音さんと二人で旅行をした。楽器と最小限の機材を持って、路上ライブした。ライブの投げ銭で、酒を飲んで、ラブホテルに泊まって、セックスをした。一週間程度のあてのない旅行だったが、充実していた。不安はあったが、音さんとなら大丈夫だと言う確信があった。
音さんと過ごすようになって半年以上経っていたが、音さんは相変わらず俺のこと好きだとは言ってくれなかった。それだけでなく、俺のことをポチと呼ぶことが増えた。ニックネームのつもりらしいが、音さんにとってペットのような存在だと思うと、なんだか悲しくなった。
秋になって、俺はふと、このままでは駄目だと悟った。理由はたくさんあった。進級の単位が危なかったこと。音さんの音楽の才能が羨ましかったこと。音さんの気持ちがわからなかったこと。友達が就活の話をしていたこと。ポチと呼ばれること。音さんに好きと言われなかったこと。このままだと、音さんも、音さんの音楽も、嫌いになりそうだった。
冬の気配が近づいたある日、俺は音さんに別れを告げた。音さんは驚いた顔をしたが、「わかった」とだけ言い、すんなり別れを受け入れた。引き留めてくれると思ったのは、烏滸がましかっただろうか。せめて理由くらい聞いて欲しかった。
無性に悲しくなり、俺は一晩泣いて、翌朝にはスッキリしていた。ほら、切り替えは早いほうなんだ。音さんのことは忘れて、真っ当に生きていくんだ。
そう思っていたが、音さんへの気持ちは消えることはなかった。
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