はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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2.楽しかった昔の話を少し

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「ありがとう、ございました……」
 楽しかったが、お世辞にも上手とは言えない出来だった。音さんは真剣な顔つきで俺を見つめている。怒らせてしまったかもしれない。俺は内心びくびくしていた。
「ハルタ」
 名前を呼ばれ、肩がびくつく。怒られると思い、俺は慌てて視線を落とした。
「OTOでベース弾かない?」
「……え?」
 音さんの口から飛び出た言葉に、俺は顔を上げる。音さんの表情は、先ほどまでの真剣なものではなく、嬉しそうな笑顔だった。
「俺が、OTOで、ベースを弾く……?」
 信じられない言葉の羅列に、俺は口に出して確認した。音さんはうんうんと頷く。
「いや、でも、俺、下手ですし」
「まぁそうだけど」
「え?」
「冗談だって」
 ふはっと音さんは笑った。冗談に聞こえないが、それは保留しておく。
「俺はハルタと一緒に演奏して楽しかったけど、ハルタはどうだった?」
「楽しかったです」
「じゃあ問題ないだろ」
「でも、今のベースの人は?」
「サポートだから、全然問題ない」
 昨日のライブを思い出すが、ベースの人は俺よりもはるかに上手だった。その人を押しのけてまで、俺を加入させたい理由がわからない。
「それに、あいつはうまいけど、そもそも俺とそりが合わない。演奏してても楽しくない」
 音さんは顔を顰める。子供のような理由に、俺は思わず笑いを吹き出した。確かに、嫌いな奴とバンド組みたくないのはわかる。
「笑うなよ。相性って大事だろ」
「すいません」
「で?どうする?俺と音楽やる?」
 技術的に不安は残るが、音さんと一緒に演奏できるのは願ってもないことだ。先ほどのセッションは、今まで演奏してきたなかで、一番楽しく、湧きたった。それに、音さんが俺と演奏して楽しかったと言ってくれたことが嬉しかった。こんなチャンスは、逃すべきではない。
「わかりました。俺なんかでよければ、お願いします」
「よし、じゃあ決まり」
 音さんは俺に手を差し出した。俺はその手と音さんの顔を見比べる。音さんは大きく頷いた。
「よろしくお願いします」
 俺は音さんの手を握った。音さんは力強く握り返してくれる。
「あ、でも、『俺なんか』は余計。俺はハルタだから一緒にやりたいと思った。それは忘れないで」
 音さんの言葉は力強い。嬉しく思っていると、気づけば音さんにキスをされていた。
「なんで……」
「さっきの演奏最高だったから、興奮してる」
 そう言って、音さんはもう一度キスをしてきた。俺はそれを拒む理由がない。
「ハルタもだろ?」
 音さんに熱情的に見つめられ、俺は頷いた。確かに、先ほどの演奏は楽しいだけではなく、興奮もした。
「んっ、音さん……」
 何度もキスをされ、俺は壁際に追いつめられる。握手をしていた手は繋ぎ直され、お互いの指が絡んでいた。二人とも楽器を持っているせいで、触れ合えず、もどかしさが募る。このままだと、またセックスをしてしまう。俺は自制心が働いたが、音さんからのキスは止まらない。ふと反対側の壁にかかっている時計が目に入り、俺は声を上げた。



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