はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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2.楽しかった昔の話を少し

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「あ、ああっ、おと、さっ、っはぁ、あ」
 滲む視界に、音さんの顔が見える。長い髪が額に落ち、汗で頬に張り付いている。そして、その表情は真剣で、熱っぽい。ステージ上に立っているときの表情に似ている。音さんにこんな表情をさせられるのは、音楽と俺なのだ、と嬉しくて、興奮した。
「いいっ、きもちい、あ、ああっ、おとさんっ」
「ハルタ」
 音さんの少し掠れた声が落ちてきて、背筋がぞくりとした。
「っ、あ、だめっ、ああっ、イく、あっ」
「一緒に、な?」
「うんっ、あ、イ、くっ、ああっ、イくっ」
 勢いよく、ごちゅんと奥に突き入れられ、目の前がチカチカした。背中が反り、息が詰まる。遅れて、全身に快感の波が広がり、思考が蕩ける。
「あっ……っ……」
 快感の波間に揺蕩いながら、酸素を求めて俺は口をはくはくと開けた。音さんは俺に挿れた状態で、ふるりと身震いした。そして、気持ち良さそうに目を細め、ふーっと息を吐く。どうやら射精したようだ。俺は腹の中に、ゴム越しに熱い飛沫を想像して、興奮してしまう。
「こっちは?」
 余韻に浸る間もなく、音さんが俺の性器に触れる。これからされるであろう行為に、俺はゾッとした。待って、と静止する声を発する間もなく、音さんの手が動く。
「ひっ、あ、あっ、あああっ!」
 ずっと待ちわびた性器への刺激、さらに、メスイキした直後の敏感な身体だったため、俺はすぐに射精した。積み重なる快感と射精の開放感に、俺の全身は弛緩して、ベッドに沈み込んだ。
「ほら、暑くなっただろ」
 音さんは楽しそうに笑った。
 笑うと案外子供っぽい顔になるんだ。遠のく意識の中、俺はそう思っていた。




 次に目が覚めたとき、カーテンの外は明るかった。今度は全裸ではなく、見慣れないスウェットを着ていた。少し大きめのスウェットからは音さんの匂いがして、ドキッとする。
 ベッドからゆっくり降りる。床に雑然と置かれた物を踏まないように、慎重になる。足腰は痛いが、なんとか壁伝いに歩いた。
 部屋のドアを開け、音がする方向に足を進める。短い廊下の先のドアを開けると、リビングだった。
「おはよう。目覚めた?」
 音さんがキッチンに立っていた。俺と同じように、スウェット姿で、髪は低い位置で一つに束ねられていた。
「おはよう、ございます」
 俺は挨拶したが、声は掠れていた。昨日のセックスのせいだと、一人恥ずかしくなる。
 見慣れない部屋をきょろりと見回す。キッチン、ダイニングテーブル、テレビ、ソファと家具があり、先ほどの寝室よりは随分綺麗に片付いている。壁の時計が一時を示していて、昼の一時だとわかった。今日は十七時からシンシティでバイトがあることを思いだす。現在地がどこだかわからないが、間に合うように退散しなければならない。
「俺の服って……」
「今洗濯して乾燥させてるところ。俺の服で悪いな」
「あ、いえ、ありがとうございます」
「そこ座って」
 音さんはダイニングテーブルを指さした。二つある椅子のうち、俺は片方に座る。テーブルの上には、ペットボトルのお茶とコップが二個、そしてカップラーメン二個が置いてあった。
「ハルタ、どっちがいい?」
「えっと……」
 スパイシーと書かれた赤のパッケージと、カレー味の黄色いパッケージを見比べる。腹は空いているが、セックスと二日酔いの名残で、いまいち食欲がわかない。
「俺は、どっちでも。音さんが先に選んでください」
「言うと思った」
 音さんはふはっと笑って、俺の対面の椅子に座った。手にはポットを持っている。「俺こっちにする」と言って、音さんが選んだのは、赤のパッケージだった。辛いのが苦手な俺は、密かに安心していた。
 音さんはカップラーメンにお湯を入れ、コップにお茶を注いでくれた。至れり尽くせりで申し訳なくなる。そもそも、昨日声をかけることができたのは、ライブ終わり独特のテンションのおかげだ。冷静になった今、初対面でセックスした相手を前に、俺は何を話せばいいかわからなかった。
「あとでハルタのベース聞かせて」
「え?」
「昨日言ってただろ。俺の演奏聞いてください!って」
 正直記憶がなかった。酔っていた俺は、そう言ったのだろうと、昨夜の俺を呪う。
「これ食べたら、聞かせて」
 嫌だし、恥ずかしいと思ったが、こんな機会はもう訪れない可能性が高い。俺は観念して「はい」と頷いた。


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