はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

文字の大きさ
上 下
14 / 36
2.楽しかった昔の話を少し

4 *

しおりを挟む
 いつものように、患者のこない診療所の待合室でゆったりとコーヒーを飲んでいると、珍しいことに診療所の扉が外から開いた。
 もしかしたら誰かの紹介で、新規の利用者がやってきたのかと思っていたら、洗濯カゴを持ったニュウだったので、

「何でそっから入ってくるのよ?」

 と、いつもは診療所の裏手から入ってくる彼女の行動に珍妙さを感じて言葉を発したが、にんまりと笑顔を浮かべる彼女の背後に立つ二人の少女を見て、思わず飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。

「そ、その……お久しぶりでしゅ」
「……でしゅ?」

 恐らく彼女もまた緊張していたのだろう。ムリもない。あんな別れ方になったのだから。
 そこにいたのは、四日ほど前に【アルトーゴの森】で出会った少女たちだった。確かランテとリリノールと言った。

 噛んだことに思わず声を発してしまうと、カーッと顔を赤らめるランテ。隣に立つリリノールもまた「やっちゃったぁ」というような表情を浮かべている。
 得も言われぬ沈黙がしばらく続く……。

「……ま、まあ入れば?」
「は、はい……」
「お邪魔します」

 と、二人が診療所内へと入って来た。
 ニュウがコーヒーが飲めるか二人に聞いて、紅茶ならばということで、二人に紅茶を淹れるべく診察室の奥へと消えていく。奥には階段があり、そこが生活空間となっていてキッチンなどもあるのだ。
 三人が立ったまま。沈黙が何だか痛い。

(おいぃぃ……早く戻って来てくれぇぇ、ニュウ~!)

 表情には出さずに、できるだけコーヒーカップで顔を隠して祈りを捧げる。
 すると静寂を割ったのは、リリノールだった。

「改めまして、先日は助けて頂きありがとうございました」
「え……あ、いや。別にいいって」
「これ、そのお礼に」

 彼女が手に持っていたのは一つの袋。その中には多分菓子折りであろうものが入っていた。

「別に気を遣わなくて良かったのに」
「すみません。何だか変なお別れ方になってしまったので」
「あ……まあ、そうかな」

 それはリントにも身に覚えがあったので反論はできない。ただ菓子折りはありがたい。甘いものならニュウが好きなので。
 リリノールから袋ごと受け取って「ありがとな」と短く礼を言う。

 流れでチラリとランテの方を見ると、彼女もチラチラとこちらを窺っていた。
 ここは年長者らしく、先にきっかけを作るべきなのかもしれない。

「……あ~っと……前は悪か――」
「ごめんなさいっ!」
「……!?」

 先に謝罪とともに頭を下げられてしまった。

「すっごく不謹慎でした! 本当にごめんなさい!」

 ……何だかホッと胸を撫で下ろせた。張りつめていた緊張が一気に解けたかのように。

「……いいって。オレも言い過ぎたし。悪かったな」
「いいえ。病院内で言うようなことじゃなかった」
「……そうだな。それはこれから気を付けてくれればそれでいいよ」

 こうして謝れる女の子なのだから、きっと今後は間違わないようにしてくれると思うし。

「だからもう気にしなくていい。だから楽にしてくれ」

 そう言葉を投げかけると、「良かったね」とリリノールがランテに言い、ランテもまたホッとしたような顔を見せた。
 そこへタイミングを見計らったようにニュウが、トレイを持って現れる。その上にはカップが二つとお茶菓子の羊かんがあった。

「お待ちどう様なのであります! お二人とも、どうぞごゆっくりしてくださいませ~!」

 そう言って、彼女たちに待合室にある一つだけのテーブルへ誘導し、そこに座らせる。
 リントとニュウもまた、その近くのソファに腰を下ろした。

「あ、そうだニュウ。これもらったぞ」
「? それは何でありますか?」
「ふふ、それはね~、最近国で流行ってるカステラなんだよぉ~」

 リリノールの説明に、獣耳をピンと立てて顔を上気させるニュウ。

「おお、カステラ!? それはとてもおいしそうなのであります!」
「おいしいよぉ~」
「そのようなもの、頂いていいのでありますか!?」
「うん、食べてほしいなぁ~。今開けてみる?」
「いいのでありますか!?」

 リリノールとが袋に入っていた箱を取り出して開ける。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

緋色の蝶々

hamapito
BL
 殺虫剤を持ち歩くほどの虫嫌いである大学生の緋色(ひいろ)は、駅でのケガをきっかけに、昆虫写真家の中谷(なかたに)と同居することに。  大事な人を探すための休暇中だという中谷は苦手な野菜をすすめ、侵入してきた虫を追い出すどころか嬉しそうに追い回す始末。それなのに求められることに弱い緋色は中谷とキスしてしまい――⁉ ※2025.3.23J.GARDEN57にて同人誌として頒布予定(書き下ろしあります)

天使の居場所

すずかけあおい
BL
「お腹空いた」 アルバイト帰りの伊央が深夜の道で出会ったのは、お腹を空かせた天使だった。 ずいぶん俗っぽい天使だな、と思いながらも自宅に連れ帰ると、天使は「お礼」と称して伊央を押し倒し――。 ※ファンタジーではありません。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

Re:asu-リアス-

元森
BL
好きな人はいつの間にか手の届かない海外のスターになっていた―――。 英語が得意な高校2年生瀬谷樹(せや いつき)は、幼馴染を想いながら平凡に生きてきた。 だが、ある日一本の電話により、それは消え去っていく。その相手は幼い頃からの想い人である 人気海外バンドRe:asu・ボーカルの幼馴染の五十嵐明日(いがらし あす)からだった。そして日本に帰ってくる初めてのライブに招待されて…? 会うたびに距離が近くなっていく二人だが、徐々にそれはおかしくなっていき…。 甘えん坊美形海外ボーカリスト×英語が得意な平凡高校生 ※執着攻・ヤンデレ要素が強めの作品です。シリアス気味。攻めが受けに肉体的・精神的に追い詰める描写・性描写が多い&強いなのでご注意ください。 この作品はサイト(http://momimomi777.web.fc2.com/index.html)にも掲載しており、さらに加筆修正を加えたものとなります。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

処理中です...