はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

文字の大きさ
上 下
14 / 36
2.楽しかった昔の話を少し

4 *

しおりを挟む
『ルーデウスよ。お前が大魔帝ニズゼルファに敗れてしまったのは余の責任なのだ』

 俺がニズゼルファに敗れたのは父さんの責任?
 どういう意味だ?

『今さらこんなことを話しても遅いのだが……やはり伝えないわけにはいかぬ。真実を知った上でどう判断するか。それをお前に任せたいと思う』

 そんなひと言から真実の扉が開け放たれた。



 ◇◇◇



『まずはじめに。この世界の歴史にはまだ語られていない部分があるのだ』


「語られていない部分ですと?」

「ヤッザンちょっと黙って! お父さまの話が聞えないじゃん~!」

「す、すみませんっ……」

 泣きはらしていたウェルミィもすっかり泣き止んで今は父さんの話に耳を傾けていた。
 
 『これらすべてはエアリアル帝国の皇族の間だけで語り継がれてきた伝承だ』と前置きした上で父さんはこう続ける。





 太古の昔、この世界にさまざまな種族が誕生した。

 これは俺たちも知ってる歴史だ。
 でも父さんいわく、それよりも前の歴史があったって話だ。
 
 まずはじめに創造主たる神がこの世界を作った。
 
 そして、神はこの世界に自らの分身たる〝半神〟という種族を作り上げる。
 半神は世界に誕生した最初の種族だったようだ。


「ふむ……。そのような種族がおったとは聞いたことがないのぅ」

「うちも初耳だよぉ! 大昔のさらにずっ~と昔にそんな種族が存在したなんて……なんかロマンチックかも♪」

「続きを聞いてみましょう」


 半神は神の分身であるがゆえに無敵の力を有していたみたいだ。
 そこには万物を創造する力も含まれていた。

 やがて。

 半神族は力を使ってこの世界にさまざまな種族を誕生させる。
 どうやらそれが今日の種族の起源ってわけらしい。

 その際にオーブもそれぞれ生み出されたようだ。

 そのあと。
 多くの種族を生み出した半神は退化して亜人族デミヒューマンとなり、そのほかの種族と同列の存在としてこの世界で暮らすようになる。


「なっ……亜人族ですと!?」

「えぇっ!? 亜人族って人族が進化する前の種族じゃん!」

「この話が本当なら人族の祖先は半神ということになりますね」

「にわかに信じられん話じゃ……」

 この話にはこの場にいる全員が驚きの声を上げた。
 もちろん俺も驚きを隠せなかった。

『なぜ半神がこのように多くの種族を生み出したのか、その理由は今のところ明らかとなっていない。だが、それによって各地でさまざまな種族が繁栄し、今日の世界を形成することとなった。すべての歴史は最初の種族である半神からはじまったのだ』

 ウィンドウ上の父さんがいちど言葉を区切ったのを確認すると。
 ヤッザンのおっさんはこんなことを言い出す。

「しかし疑問ですなぁ……。争いの火種となる他の種族をどうして生み出したのでしょう」

「たしかにそうじゃのう。同胞たちだけで暮らせばこの世界はきっと楽園となったはずじゃ。わざわざ亜人族に退化した理由も分からん」

「……たぶん、友だちを作ろうとしたんじゃないかな?」

「友だちですか?」

 不思議そうに訊ねるマキマに向けて俺は言う。

「だってそうじゃん? こんなだだっ広い世界に自分たちの種族しか存在しないなんて寂しすぎるよ。だからきっと仲良くなれる友だちを作りたくていろいろな種族を生み出したんじゃないか?」

 規模は小さいかもしれないけど。
 蒼狼王族サファイアウルフズ、オーガ族、刀鎧始祖族エルダードワーフのみんなと共存する国を作り上げた俺には半神の気持ちがなんとなく分かるような気がした。
  
「さすがお兄さまっ♡ 素敵な考えだよぉ~♪」

「そうですね。なんというかとてもティムさまらしい発想だと思います。わたしもそう信じたいです」

 でも。
 半神にどんな思いがあったのか分からないけど、実際の歴史はそんな夢のようにはいかなかった。


 その後の歴史は周知のとおりだ。
 数えきれないほどの争いを繰り返し、多くの種族が繁栄しては滅んでいく。

 『その過程で亜人族にも変化が生じるようになったのだ』と父さんは語る。

 当然、亜人族が人族に進化することを指してそう言ってるんだって思ったけど。
 どうやらそういうわけじゃないらしい。

『ここから先話す内容はとても繊細な問題を含んでいる。皆どうか驚かないで聞いてほしい』

 父さんはそこでひと呼吸置くとゆっくりとこう続けた。


『実は亜人族が種族進化して生まれたのは人族だけではなかったのだ。亜人族から分裂するようにもうひとつの種族も生まれてしまった。それが……魔族なのだよ』

「ふぇっ、亜人族から魔族も生まれちゃったの!?」

「分裂して人族と魔族が誕生した……と。これが事実だとすれば……」

 じいさんの言葉を先読みするように父さんはこう口にする。

『そうだ。話を聞いて皆も分かったことだろう。人族と魔族はいわば肉親のような存在なのだよ』

 退化したとはいえ亜人族はもともと無敵の力を有していた半神だ。
 
 己の中に眠るその圧倒的な力を前に。
 亜人族の中では、光と闇の心がせめぎ合っていたのかもしれない。

 結果的にそのせめぎ合いが溢れ出る形で人族と魔族は誕生することになる。

(マジかよこの話。肉親って……)

 ひょっとしてスキルと極意エゴイズムが似てるのはそのせいなんじゃないか?
 半神の血を引いてるからお互いこれだけ優れた異能を扱うことができるって……そういうことなのか?


 ここでなにか思いついたようにマキマが声を上げる。

「ちょっと待ってください。ということは魔族は遥か以前から存在してたってことではないでしょうか?」

「人族と分裂する形で誕生したのなら、つまりそういうことですぞ」

「じゃあ……今から10年前に突然変異的に出現したっていう話はどういうことなんだ?」

 俺が疑問を口にすると、ブライのじいさんが首を横に振る。
 
「おそらくそれは誤った認識だったんじゃろう」

「……だよね。魔族はもっとずっと前からこの世界に誕生してて、表舞台の歴史に出てこなかったってことなんじゃない?」

 どうやらウェルミィのその予想は当たってたようだ。


 亜人族から分裂進化した魔族はひっそりとこの世界で暮らしてきた。
 
 やがて、魔族の中で力をつけてくる者がいくつか現れるようになる。
 それが魔族の王――魔王だったってわけだ。

『魔王は同胞から知恵を奪い、獰猛なケモノに変える力を持っていたと言われている。それが魔獣モンスターの正体なのだよ』

 そして、魔王たちは頃合いを見計らって獰猛なケモノに変えた同胞――つまりモンスターを世界各地に送り込み、多くの種族を襲撃させた。
 これが『死の大暴乱デスエスケープ』の真実だったようだ。

 そこまで父さんの話を聞いてマキマが異を唱えた。

「でもちょっとおかしいです。どうしてそんな魔族しか知り得ないような事実がエアリアル帝国の伝承に残っていたのでしょうか?」

「たしかにそうだな」

 それは俺も不思議に思ってたところだ。
 こんな話、魔族じゃないと知ることはできないはず。

 すると。

 ふたたびこちらの言葉を読むようにウィンドウ上の父さんはこう切り出す。

『どうして魔族に関するこんな事実が分かるのかと、疑問に思った者もいると思う。もちろんこれには理由がある。これから話すことはエアリアル帝国の秘密とも大きく関わっているからできれば覚悟のある者だけが耳を傾けてほしい』

 その瞬間、地下室に緊張が走った。
 これまでとは一線を画す話をしようとしてるってのが画面越しから伝わってきたからだ。
 
 けれど。
 誰もこの場から出て行こうとはしない。

(そうだよ。ここまで話を聞いたんだ。今さら耳を塞ぐなんてことはできない)

 俺は真実が知りたいんだ。
 そして、その気持ちはこの場にいるみんなも同じようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天使の居場所

すずかけあおい
BL
「お腹空いた」 アルバイト帰りの伊央が深夜の道で出会ったのは、お腹を空かせた天使だった。 ずいぶん俗っぽい天使だな、と思いながらも自宅に連れ帰ると、天使は「お礼」と称して伊央を押し倒し――。 ※ファンタジーではありません。

Re:asu-リアス-

元森
BL
好きな人はいつの間にか手の届かない海外のスターになっていた―――。 英語が得意な高校2年生瀬谷樹(せや いつき)は、幼馴染を想いながら平凡に生きてきた。 だが、ある日一本の電話により、それは消え去っていく。その相手は幼い頃からの想い人である 人気海外バンドRe:asu・ボーカルの幼馴染の五十嵐明日(いがらし あす)からだった。そして日本に帰ってくる初めてのライブに招待されて…? 会うたびに距離が近くなっていく二人だが、徐々にそれはおかしくなっていき…。 甘えん坊美形海外ボーカリスト×英語が得意な平凡高校生 ※執着攻・ヤンデレ要素が強めの作品です。シリアス気味。攻めが受けに肉体的・精神的に追い詰める描写・性描写が多い&強いなのでご注意ください。 この作品はサイト(http://momimomi777.web.fc2.com/index.html)にも掲載しており、さらに加筆修正を加えたものとなります。

緋色の蝶々

hamapito
BL
 殺虫剤を持ち歩くほどの虫嫌いである大学生の緋色(ひいろ)は、駅でのケガをきっかけに、昆虫写真家の中谷(なかたに)と同居することに。  大事な人を探すための休暇中だという中谷は苦手な野菜をすすめ、侵入してきた虫を追い出すどころか嬉しそうに追い回す始末。それなのに求められることに弱い緋色は中谷とキスしてしまい――⁉ ※2025.3.23J.GARDEN57にて同人誌として頒布予定(書き下ろしあります)

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...