はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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2.楽しかった昔の話を少し

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 遠くで話し声が聞こえる。まだ眠っていたいのに。俺は声を無視しようとしたが、意識はすっかり覚醒してしまった。
 観念して目を開けると、見たことのない天井があった。
 俺は上半身を起こして、周囲を見回す。広いベッドに、俺一人だけ。うす暗い部屋は、間接照明に照らされ、ムーディーな雰囲気だ。窓はないため外の様子はわからない。
 ビジネスホテルと思ったが、枕元に置かれているゴムとローション、そしてベッド脇のゴミ箱に使用済のゴムが入っている。そして、自分が全裸であること、さらに、足と腰、尻の違和感があって、俺は何が起こったのかを漠然と悟った。
「ごめん、起こした?」
 男性の声が聞こえ、声のした方を見ると、バスローブ姿の男性が立っていた。その顔に見覚えがあった。確かギターボーカルの、と俺は記憶を辿る。
 昨日先輩に誘われて、OTOのライブを観に行って、パフォーマンスに興奮して、メンバーに声をかけて、居酒屋についていって、酒を飲んで……。記憶が徐々に蘇ってくる。
「すいません、俺もしかして……?その、あなたと……」
「ふはっ、あなたって呼び方」
 男性は笑いを吹き出し、俺に近づいてくる。俺は布団を手繰り寄せて身体を隠したが、逃げ場はない。
「昨日は、あんなに可愛く、音さんって呼んでくれたのに」
 そうだ、OTOの安成音さんだ。ようやく思い出した名前に、俺は満足していたが、気がつけば音さんの顔が近づいていた。動けずにいると、ちゅっと唇をついばまれる。キスの感触に覚えがあり、唇から全身に熱が広がる。音さんに見つめられ、鼓動が跳ねる。昨夜の間に、どうやら俺の身体は音さんの手によって作り替えられたらしい。
「まだ時間あるから、風呂入れば?」
 にこりと笑う音さんに、俺は素直に頷いた。シャワーを浴びてスッキリしたい気持ちはあった。それに、一人になって冷静になれば、昨夜の記憶を思い出せる気がした。
 俺はベッドから降りて、床に足をつけた。そのまま立ち上がろうとしたが、力がはいらず、床にへたり込んでしまう。
「大丈夫?」
「大丈夫、です。たぶん」
 床とベッドに手をつき、もう一度立ち上がろうとするが、できなかった。単純な動作ができなくて、恥ずかしくなる。音さんの視線が痛い。
「ハルタ」
 急に名前を呼ばれたと思ったら、身体がふわりと浮いた。魔法にかかったわけでなく、音さんに抱え上げられたのだとすぐに気づく。
「あの、自分で歩くんで、下ろしてください」
 いわゆるお姫様だっこに、俺は恥ずかしくて、顔が熱くなった。さらに、俺は全裸なわけで、余計に恥ずかしくなる。
「赤くなってるの、可愛い」
 見上げると微笑む音さんが俺を見ていて、鼓動がドキッと跳ねる。俺は俯いて、ただ黙って風呂場まで運ばれるしかできなかった。





注)ハルタは四月生まれ設定のため、この時点で十九歳です。飲酒は二十歳になってから!


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