はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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1.つまらない今について

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 新城さんのまさかの発言に、俺は驚いた。新城さんは、慎重で計画的なタイプだ。人生設計で、仕事を辞めるという選択をするとは想像していなかった。
 しかし、OTOの活動において、新城さんが宣伝やプロモーションを行い、OTOのマネジメントをしている。さらに、ドラムをメインに、キーボードや打楽器を演奏したりもして、新城さんがいなければOTOは成り立っていないのも確かだ。
「意外?」
「そう、ですね……」
 新城さんはハハッと笑い飛ばして、スッと目を細め、俺を見つめた。
「ハルタに俺の何がわかるの?」
 目の奥が笑っておらず、俺はぞっとした。新城さんは静かに怒るタイプだ。
「うそ、冗談だって」
 パッと表情を和らげた新城さんは、卵焼きを一つ頬張った。俺は詰めていた息をそっと吐いた。
「そうですね、他人が何考えてるかなんて、わからないですよね」
「そうそう。俺はわからなくてもいいし、わかりたくもないから。最低限のコミュニケーションでいい。全部に取り合ってたら、心が疲れちゃうよ」
「なるほど」
「でも、ハルタは音とちゃんと話した方がいいよ。まずは話をしてから、よく考えて」
 急に俺と音さんの話になって、俺は首を傾げた。
「二人の間で、いろいろ聞かされる俺の身になってよ」
 新城さんは苦笑した。俺と音さんが関係を持っていて、別れたことを、もちろん新城さんは知っている。
「音さんから、何か聞いてます?」
「それは俺の口からは言えない。ハルタが自分で聞いて」
「はい……」
「暗い話はそこまでにして、ほら、飲んで食べな。育ち盛りなんだから」
「いや、俺そんな食べないですから」
「遠慮しないで」
 そのあとは、新城さんの就活の話を聞いたり、最近聞いてる音楽の話をしたり、楽しい時間を過ごした。ついついお酒が進み、俺はいつもよりハイペースで酒を消費していた。気がつくと、顔が熱く、頭がぼんやりとしている。飲み過ぎたと思ったが、時すでに遅しだ。
「ハルタ」
 優しく呼ばれて、重い瞼を開けた。そこには音さんがいた。
「あれ、おとさん……?」
「結構飲んだ?」
「かも、しれないです。わかんないです……」
 音さんは困ったようにため息をついた。音さんは居酒屋にいるのに、なぜ素面なんだろう。いつも酔い潰れるのは音さんの方だったのに。あれ、俺は誰と飲んでたんだっけ?
「なんで、音さんは、飲まないんですか?」
「俺は飲まない。ほら、帰るぞ」
 音さんの手が俺の腕を掴む。俺の身体は重くて、立ち上がれない。身体が沈んでいく感覚に、逆らいたくなかった。けれど、このままだと、音さんに置いていかれる。そう思うと、急に寂しくなってきた。
「俺のこと、置いて行ったら、いやです」
 縋るように、音さんの身体に抱きつく。音さんの懐かしい匂いに、俺は安心した。
「置いて行かないから、おいで、ハルタ」
 音さんに抱き抱えられる。俺は抵抗せずに、音さんに身を委ねた。
「帰ろう」
 音さんの声が聞こえる。音さんの体温が近くて、規則的な鼓動が聞こえる。温かくて、安心できる場所。
 そっか、これは夢だ。
 だって、音さんとの関係は終わったんだから。昔の夢を見ているに決まっている。



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