はきだめで歌うラブソングを君に

えつこ

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1.つまらない今について

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「就活あるんで」
「就活?」
「音さんと違って、俺は真面目に生きるんです」
「ふはっ、真面目って」
 音さんは軽く笑い、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。そして、その指が俺の耳に触れる。左右に一つずつ開いた穴に、今はピアスはない。俺の耳が熱いのか、音さんの指が冷たいのか、その温度差にビクッと肩を揺らしてしまう。
「心配しなくても、ハルタは真面目だろ」
「……何のフォローですか」
 俺は音さんの手を払い除けた。耳に感触が残っていて、それを消したくて、耳を拭った。
「俺で遊ぶのやめてください」
「遊んでないよ。ハルタと話したいから話してるだけ」
「みんなにそう言ってるの、俺知ってますから」
 音さんは人気者だ。常に周りに誰かがいて、楽しそうに話している。いつだって輪の中心にいて、眩しいくらいに輝いている。
 それに、音楽の才能だってある。OTO(おと)というグループで、ギターボーカルを担当し、さらにインディーズバンドやメジャーアーティストに楽曲提供をしている。OTOは音楽プロデュースグループであり、バンドの名前でもあった。その中心的な存在が音さんだ。
 人気者で、音楽の才能があって、見た目は申し分ない。そんな音さんが、去年まで俺と付き合っていたのは、一種の戯れでしかない。
「俺のことなんて、遊びだったくせに」
 俺のちっぽけな不満は、ちょうど声をかけてきた店長の声でかき消されてしまった。
「ハルタ、早めに整列始めて。外に人集まってるから」
「わかりました」
 俺はモップとフロアに置いてあるバケツを手に取った。
「俺、行きますね」
「ライブ終わったら話したい。帰るなよ」
「片付けとかあるから無理です」
「ちょっとくらいいいだろ」
 むっとする音さんをフロアに置いて、俺は出入口へと足を向けた。そこで、ふと気づく。
「ピアス、家に置いてるんで」
 先ほど話題に上がった、音さんからプレゼントされたピアスのことだ。捨てようと思ったが、シンプルなシルバーのデザインが気に入っていた。というのは言い訳で、未練がましく持っているだけだ。
 音さんはパチパチとまばたきし、ふはっと笑った。
「そういうとこだよ」
 楽しげに笑いながら、音さんはフロア横のドアへと姿を消した。
 残された俺は、音さんの言葉の意味を理解しかねて、一人で首を傾げた。




 
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