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第二章:夏
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しおりを挟む「四季展のチケットです。来られる予定でしょう?」
吉野原流の夏の四季展は来週に迫っていた。秀悟はまだ前売り券を買っていないが、もちろん行く予定だ。
「ありがとうございます。必ず観に行きます」
「ぜひ。お待ちしております」
「あの、それと……」
椿のことを知りたい秀悟は、食い気味に話を繋げた。このまま静夏に帰られては困る。
「その、……椿くんのことですが……」
おそるおそる秀悟は尋ねる。馬鹿馬鹿しいが、本当に夢だったかもしれないという一抹の不安があった。すぐにそれは杞憂だとわかる。
「椿くんなら、元気にしていますよ」
「それなら、よかったです」
秀悟はほっと胸を撫で下ろした。しかし、新たな疑問が生まれる。それならなぜ連絡がなかったのだろう。友達になるという話はなくなってしまったのだろうか。疑問をぶつけたかった秀悟だが、ちらりと静夏に視線を投げるだけに留めた。
秀悟の視線の意味を察した静夏は、秀悟が椿との関係を続けたいことを察する。これなら、二人の関係をもう少し進めることはできそうだ。
「七村さん、連絡せずに申し訳ありませんでした」
まず謝罪した静夏は、さらに言葉を続ける。
「七村さんが良ければ、まだ友達を続けてもらいたいんですが、どうでしょうか?」
静夏の言葉に、秀悟は「もちろん」と即答した。想定外の反応の速さに、静夏は驚いて目を丸くする。
「えっと、椿くんが嫌でなければ、お願いします……」
静夏の反応に、秀悟は慌てて言葉を付け足した。自分が必死であることに、秀悟は少し恥ずかしくなる。
「今月は難しいので、早くても来月になると思います」
椿はそろそろ発情期を迎える予定だ。静夏はそれを鑑みて、二人が会うのは早くても八月以降と考えていた。
「近々連絡します」
静夏はそれだけ言い残し、軽く頭を下げ、店外へと出ていった。
秀悟は静夏の背中を見送り、ふぅと息を吐いた。まず椿と静夏が存在していることに安堵した。夢ではなかったという実感がじわじわと湧いてくる。そして再び椿と会えると思うと、秀悟の頬は自然と緩んだ。
「七村、どうした。にやにやして」
秀悟に声をかけたのは井上だった。井上は新製品のポップと什器が入った段ボール箱を抱えていた。
突然のことで驚いた秀悟は肩をびくつかせ、慌てて表情を引き締める。秀悟は井上から後ずさりながら、「何でもないです」と言い、足早に事務所へと戻った。
残された井上は「変な奴」と零しながら、段ボール箱を抱え直した。
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