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「観光は明日からだな」
 目の前の璃真は、そう言うとあくびをした。
 目が覚めてみれば、外はすっかり暗くなっていて、夜20時近く。この時間から観光と言うには、さすがに遅い。シャワーを浴びた後、二人でまどろんでいた結果だったが、俺としては璃真と一緒にいられれば、それ以上何もいらなかった。
 璃真と一緒に、アパート近くのコンビニまで行くことにした。自炊してもよかったが、買いに行く方が早いし楽だという判断だ。璃真が料理が下手というのは変わらないらしく、その証拠に冷蔵庫に入ってる食材は卵だけだった。痩せた印象を含めて、食生活が心配になる。
 三月の夜は少し肌寒いが、俺も璃真も半袖だった。
 コンビニで、俺はミートスパゲッティとカップ麺、璃真はそばとおにぎりを買った。全く京都らしくない選択に、我ながら笑ってしまう。しかし、昼食を抜いていたし、セックスで身体を動かしたし、とりあえずお腹が空いていた。酒とつまみを買うのも忘れずに、重いビニール袋を片手に、アパートへと戻る。
 夜は静かで、空は暗い。中心部から離れているせいもあるのだろうが、単純に東京が騒がしいのだと思った。頬を風が撫でる。見上げると、月が綺麗に空に浮かんでいた。
「大和」
 気がつくと、璃真は数歩先を歩いて、俺を手招きしていた。俺が駆け寄ると、璃真は「こっち」と来た道とは別の道へ進んだ。
 暗い道を進む璃真に、俺は一瞬不安を感じる。以前のストーカーの件があったからだ。しかし、璃真は天真爛漫というように、身軽に歩いていた。トラウマになってない様子に安心した。
「ここでちょっと休憩していこ」
 着いたのは、住宅街の中の小さな公園だった。滑り台と砂場、そしてベンチが月明かりに照らされている。
 ベンチに並んで腰かけると、璃真は俺が持っていたビニール袋から、缶ビールを二本取り出した。冷えた缶を俺に一つ差し出す。プシュと缶を開ける音が重なって、「乾杯」と言い合い、一口飲んだ。
「あーおいしい」
 璃真はふにゃりと笑って、もう一口飲んだ。学生時代はほぼ毎日乾杯をしていたのに、と昔を懐かしむ気持ちが湧いてくる。璃真の笑顔を見ながら、ぐいっと缶を煽り、ビールを流しこむ。ふぅと息を吐いて、空を見上げれば、気分が澄んだような感覚になる。
「天気のいい日に、ここのベンチで、ボーっとするのが最近好きなんだよな」
「それ、おじいさんじゃん」
「確かに」
 顔を見合わせて笑った後、缶を持ってない方の手を、どちらからともなく繋いだ。しばらく無言のままビールを飲む。酩酊に流されそうになりながら、俺は聞かなければいけないことを思い出した。
「さっき璃真が泣いてたのって……」
 セックスの途中で、璃真が流した涙。その理由を確認しておかなければいけない。璃真は「あぁ」と納得したように頷いた。
「別に、なんてことはないんだけど……」
 ちらりと俺を見て、言いづらそうにする。しかし、それに反して、繋いだ手にはぎゅっと力が入る。俺は不安な気持ちを抱きつつも、璃真の言葉をじっと待つ。
「大和が嬉しいこと言ってくれたし、久しぶりに会えて幸せだったし、そんな感じで、泣いただけ」
 月明かりに照らされた璃真の頬が、少し赤くなっているのは、ビールのせいだけではないだろう。
 惚気のような言葉に、安堵したのと同時に、胸がキュンとした。思わず、繋いだ手を引き寄せ、璃真の手の甲にキスを落とす。真っ直ぐに璃真を見つめて、視線が交わる。
「璃真のこと、離したくない。ずっと一緒にいたい」
「俺だってそうだよ」
「帰りたくない」
「まだ明日も明後日もあるだろ」
「三日だけなんて短い」
「子供みたいに、わがまま言わない」
 璃真はふはっと笑って、俺の手を引っ張る。先ほど俺がしたように、今度は璃真が俺の手にキスを落とした。
「三日間、俺のこと、精一杯愛してよ」
 璃真のさらりと言い放った言葉に、胸がキュンどころではなく、キュウウウウンとなる。璃真への溢れんばかりの愛おしさに、俺は崩れ落ちそうになる。それを我慢し、思わず俯いた。
「返事は?」
 耳元で尋ねられ、俺はすぐに顔を上げる。そこには璃真の楽しそうな笑顔があった。
「もちろん」
「帰ったら、またする?」
「っ、する!」
 ふはっと笑った璃真は「その前に、腹ごしらえな」と言い、俺の頬にちゅっとキスをくれた。呆気に取られていると、璃真は立ち上がり、俺の手を引っ張る。
「帰ろっか」
 俺は璃真の手を借りて、立ち上がる。その勢いで、璃真の唇に口付けた。璃真は目を丸くして驚いた後、幸せそうに目を細めて笑った。
 静かな夜。アパートまで手を繋いで帰る。時々璃真と目をあわせて、微笑みあって、歩調はゆっくりで、でも少し急ぎつつ。夜はまだ続く。








 めちゃくちゃイチャラブしているお話でした。
 遠距離恋愛中は、すれ違ったり、浮気を疑ったりと、そんなエピソードがあったりしたんですが、それは楽しくないので割愛します。
 
 最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも楽しいひと時を過ごしていただけたのであれば幸いです。



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感想 2

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みんなの感想(2件)

ちか
2022.12.28 ちか

少し遅れてしまいましたが、完結おめでとうございます!
大和くんが時々めちゃくちゃカッコいい(*´艸`*) 璃真先輩が『ずるい』って言うのがよくわかります(*´ω`*)
二人の初々しい感じが可愛かったです。末永く幸せでいて欲しい…

寒い時期となりましたが、作者さまもどうかご自愛くださいませ。そして良いお年を! m(_ _)m

えつこ
2022.12.30 えつこ

ちか様
いつもコメントありがとうございます。大変励みになっております…!

ピュアな二人の最後までお付き合いいただきありがとうございます。
年下の攻めが時折見せるかっこよさ、たまらないですよね。

ちか様もどうぞご自愛ください。よいお年を!


解除
たまご
2022.12.09 たまご

完結おめでとうございます!
素敵なお話でした。
ピュア感満載です!
大和くんの先輩の名前呼び捨て最高!

えつこ
2022.12.10 えつこ

たまご様
コメントありがとうございます。嬉しいお言葉ばかりで恐縮です。

ピュア感を感じていただけて何よりです…!
年下からの名前呼び、私も好きなので嬉しいです…!

完結まで読み続けていただき、ありがとうございました😌

解除

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