50 / 50
6.
14
しおりを挟む「観光は明日からだな」
目の前の璃真は、そう言うとあくびをした。
目が覚めてみれば、外はすっかり暗くなっていて、夜20時近く。この時間から観光と言うには、さすがに遅い。シャワーを浴びた後、二人でまどろんでいた結果だったが、俺としては璃真と一緒にいられれば、それ以上何もいらなかった。
璃真と一緒に、アパート近くのコンビニまで行くことにした。自炊してもよかったが、買いに行く方が早いし楽だという判断だ。璃真が料理が下手というのは変わらないらしく、その証拠に冷蔵庫に入ってる食材は卵だけだった。痩せた印象を含めて、食生活が心配になる。
三月の夜は少し肌寒いが、俺も璃真も半袖だった。
コンビニで、俺はミートスパゲッティとカップ麺、璃真はそばとおにぎりを買った。全く京都らしくない選択に、我ながら笑ってしまう。しかし、昼食を抜いていたし、セックスで身体を動かしたし、とりあえずお腹が空いていた。酒とつまみを買うのも忘れずに、重いビニール袋を片手に、アパートへと戻る。
夜は静かで、空は暗い。中心部から離れているせいもあるのだろうが、単純に東京が騒がしいのだと思った。頬を風が撫でる。見上げると、月が綺麗に空に浮かんでいた。
「大和」
気がつくと、璃真は数歩先を歩いて、俺を手招きしていた。俺が駆け寄ると、璃真は「こっち」と来た道とは別の道へ進んだ。
暗い道を進む璃真に、俺は一瞬不安を感じる。以前のストーカーの件があったからだ。しかし、璃真は天真爛漫というように、身軽に歩いていた。トラウマになってない様子に安心した。
「ここでちょっと休憩していこ」
着いたのは、住宅街の中の小さな公園だった。滑り台と砂場、そしてベンチが月明かりに照らされている。
ベンチに並んで腰かけると、璃真は俺が持っていたビニール袋から、缶ビールを二本取り出した。冷えた缶を俺に一つ差し出す。プシュと缶を開ける音が重なって、「乾杯」と言い合い、一口飲んだ。
「あーおいしい」
璃真はふにゃりと笑って、もう一口飲んだ。学生時代はほぼ毎日乾杯をしていたのに、と昔を懐かしむ気持ちが湧いてくる。璃真の笑顔を見ながら、ぐいっと缶を煽り、ビールを流しこむ。ふぅと息を吐いて、空を見上げれば、気分が澄んだような感覚になる。
「天気のいい日に、ここのベンチで、ボーっとするのが最近好きなんだよな」
「それ、おじいさんじゃん」
「確かに」
顔を見合わせて笑った後、缶を持ってない方の手を、どちらからともなく繋いだ。しばらく無言のままビールを飲む。酩酊に流されそうになりながら、俺は聞かなければいけないことを思い出した。
「さっき璃真が泣いてたのって……」
セックスの途中で、璃真が流した涙。その理由を確認しておかなければいけない。璃真は「あぁ」と納得したように頷いた。
「別に、なんてことはないんだけど……」
ちらりと俺を見て、言いづらそうにする。しかし、それに反して、繋いだ手にはぎゅっと力が入る。俺は不安な気持ちを抱きつつも、璃真の言葉をじっと待つ。
「大和が嬉しいこと言ってくれたし、久しぶりに会えて幸せだったし、そんな感じで、泣いただけ」
月明かりに照らされた璃真の頬が、少し赤くなっているのは、ビールのせいだけではないだろう。
惚気のような言葉に、安堵したのと同時に、胸がキュンとした。思わず、繋いだ手を引き寄せ、璃真の手の甲にキスを落とす。真っ直ぐに璃真を見つめて、視線が交わる。
「璃真のこと、離したくない。ずっと一緒にいたい」
「俺だってそうだよ」
「帰りたくない」
「まだ明日も明後日もあるだろ」
「三日だけなんて短い」
「子供みたいに、わがまま言わない」
璃真はふはっと笑って、俺の手を引っ張る。先ほど俺がしたように、今度は璃真が俺の手にキスを落とした。
「三日間、俺のこと、精一杯愛してよ」
璃真のさらりと言い放った言葉に、胸がキュンどころではなく、キュウウウウンとなる。璃真への溢れんばかりの愛おしさに、俺は崩れ落ちそうになる。それを我慢し、思わず俯いた。
「返事は?」
耳元で尋ねられ、俺はすぐに顔を上げる。そこには璃真の楽しそうな笑顔があった。
「もちろん」
「帰ったら、またする?」
「っ、する!」
ふはっと笑った璃真は「その前に、腹ごしらえな」と言い、俺の頬にちゅっとキスをくれた。呆気に取られていると、璃真は立ち上がり、俺の手を引っ張る。
「帰ろっか」
俺は璃真の手を借りて、立ち上がる。その勢いで、璃真の唇に口付けた。璃真は目を丸くして驚いた後、幸せそうに目を細めて笑った。
静かな夜。アパートまで手を繋いで帰る。時々璃真と目をあわせて、微笑みあって、歩調はゆっくりで、でも少し急ぎつつ。夜はまだ続く。
めちゃくちゃイチャラブしているお話でした。
遠距離恋愛中は、すれ違ったり、浮気を疑ったりと、そんなエピソードがあったりしたんですが、それは楽しくないので割愛します。
最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも楽しいひと時を過ごしていただけたのであれば幸いです。
0
お気に入りに追加
70
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
少し遅れてしまいましたが、完結おめでとうございます!
大和くんが時々めちゃくちゃカッコいい(*´艸`*) 璃真先輩が『ずるい』って言うのがよくわかります(*´ω`*)
二人の初々しい感じが可愛かったです。末永く幸せでいて欲しい…
寒い時期となりましたが、作者さまもどうかご自愛くださいませ。そして良いお年を! m(_ _)m
ちか様
いつもコメントありがとうございます。大変励みになっております…!
ピュアな二人の最後までお付き合いいただきありがとうございます。
年下の攻めが時折見せるかっこよさ、たまらないですよね。
ちか様もどうぞご自愛ください。よいお年を!
完結おめでとうございます!
素敵なお話でした。
ピュア感満載です!
大和くんの先輩の名前呼び捨て最高!
たまご様
コメントありがとうございます。嬉しいお言葉ばかりで恐縮です。
ピュア感を感じていただけて何よりです…!
年下からの名前呼び、私も好きなので嬉しいです…!
完結まで読み続けていただき、ありがとうございました😌