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5.はじめての
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しおりを挟む年末に向けて、慌ただしい日々が過ぎていく。
恒例のフットサルサークルの飲み会は、他大学との試合の後に開催された。
「りまやま、飲んでるか」
ビールジョッキを持った部長が、大きな身体を揺らしながら近づいてくる。俺はレモンサワー、隣の璃真先輩はサングリアを飲んでいた。
飲み会は立ち飲みのバルで開催されていた。店内には背の高いテーブルがいくつも置いてあり、皆テーブル間を移動しながら飲んでいる。十二月になり冬本番が近づくが、バルの中は暑い。
「飲んでます」
俺はいつもより声を張って答えた。店内はBGMと会話で騒がしく、大きな声で話す必要があった。
「今日の試合、お前ら大活躍だったな。さすがりまやま!」
部長の言う通り、今日の試合では俺と先輩のプレーが冴えたおかげで完全勝利した。
「俺と大和がいれば楽勝だって言っただろ」
先輩は嬉しそうに笑って、俺の肩を小突いた。
「そんなこと言って、今日璃真先輩ノーゴールじゃないですか」
「大和のアシストしてたんだよ」
「先輩、ゴール前弱いですよね」
「大和のくせに生意気」
先輩はむぅとふくれ、俺のレモンサワーを奪いとった。「ちょっと、俺の酒……」と言ったときには、グラスの半分ほど残っていた酒は飲み干されていた。先輩は誇らしげに微笑む。
「新しいの頼むからいいですよ」
俺は呆れながら、テーブルの上のメニュー表を手に取ると、先輩が俺に身体を寄せてきた。先輩も注文するのだろうかと、俺はメニュー表の角度を先輩に見えるように変える。しかし、メニュー表は先輩に奪われ、すっと目線の高さにあがる。
「勃たなくなるから、あんま飲むなよ」
先輩に耳元で囁かれる。思わず俺が先輩を見ると、先輩は情欲を孕んだ視線を俺に向けていた。俺はか一気に顔が熱くなり、背筋がぞくりとする。
実は、この後先輩の部屋に行く約束をしている。部屋に行って何をするかなんて、暗黙の了解だ。極力考えないようにしていたのに、先輩のせいで思い出してしまう。
「じゃあ大和は烏龍茶な」
先輩はメニュー表を下げると、何事もなかったように話し始める。余韻にぼーっとしていると、テーブルの下で先輩に小突かれた。
「そう、ですね。ちょっと飲みすぎたかも」
ははっと取り繕うように笑う。メニュー表の後ろで行われていたやり取りを知らない部長は、「ウーロンハイの間違いだろ」と赤ら顔で笑った。
そのあと、結局俺はウーロンハイを飲むことになったのだが、飲み会の後のことを意識してしまい、どこか上の空だった。
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