先輩、それなら俺が恋人になります!

えつこ

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4.てんまつ

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「先輩、こいつが……?」
「たぶん」
 先輩が移動させた視線の先には、地面に座りこんだ男がいる。俺は先輩の前に移動して、男から先輩を隠すようにした。先輩は俺の意図を理解して、俺の背中にぴたりとくっつく。
 今警察を呼べば、逮捕してもらえるかもしれない。しかし、俺のスマホは少し離れた地面に放置されたままだ。さらに、男の近くにもう一つスマホが落ちているのを見つけた。見慣れたクリーム色のケースに、先輩のスマホだとわかる。もしかして男に奪われていたのかもしれない。
 このまま先輩と逃げてしまいたいが、同じことが繰り返されるのは阻止しなければならない。俺は覚悟を決めた。
「先輩、離れててください」
 背中を振り返り、優しく声をかける。先輩は不安げな表情で「嫌だ」と首を振った。俺の服を掴んだ先輩の手は震えている。
「大丈夫です。すぐ終わらせますから。早く帰りましょう」
 俺は先輩の目をまっすぐ見つめ、ゆっくりと言い聞かせる。先輩の瞳は揺れ、一度瞬きした後、ゆっくりと頷いた。
 先輩を下がらせ、地面に落ちた自分のスマホと先輩のスマホを回収してから、男へと近づく。反撃してくるかと身構えるが、それどころか、男は俺のことを怖がり、座ったまま後退る。「ごめんなさい」とか細い声を出しながら、男は後退り、ついにその背中は建物の壁に当たった。
 俺は自分のスマホを操作して、ボイスレコーダーをオンにした。そして、男の前にしゃがみこみ、その胸ぐらを掴み上げた。黒のマスクをしているため、顔はわからなかったが、三十代くらいに見える。
「あんた、あの人に何した?何する気だった?」
 想像した以上に低い声が飛びだして、自分でも驚く。男はびくりと肩を震わせて、ふるふると首を横に振った。
「な、なにも、っ、ただ、話したかった……だけで……」
「は?」
 俺は男を睨みつけ、胸ぐらを掴んだ手をぐいっと引っ張った。男の眉は下がり、泣きそうな表情になる。
「ひぃ……、すいません、顔が見たくて、普段、なにしてるのかなって……、それで……」
「それで?」
「お店からつけてきて、使ってる駅がわかったから、この辺りでうろうろしてただけです」
 店というのは、あのコンセプトカフェのことだろう。ストーカーの正体はカフェの客、という想像通りの結果に、俺はため息をついた。
「今日だけじゃないよな?」
「はい、何度も……。ちょっとでもいいから会いたくて……、だって、お店じゃ会わせてもらえなくて、俺はルリちゃんに一目でいいから、会いたくて……」
 男の言葉に、俺は先輩を振り返る。先輩は心当たりがある様子で、小さく頷いた。


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