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4.てんまつ
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しおりを挟む「くそ」
俺は言葉を吐いて、走り出した。悩んでも解決しない。とにかく駅からアパートまでの道を確認するしかない。俺はいつも通っている道の左右をきょろきょろと見ながら歩く。暗さも相まって視界は悪いが、人影は見えない。念のため、俺は先輩に電話をかけ続ける。呼び出し音しか聞こえず、俺は気が焦る。涼しいはずなのに、汗が止まらず、手の甲で額を拭った。
「璃真先輩」
不安で圧し潰されそうになり、俺は堪らず呼んだ。
「先輩、璃真先輩、いるなら返事してください」
一度声を出してしまうと、止まらない。次々と言葉が飛びだし、静かな街に俺の声が反響する。近所迷惑なんて考えたのは一瞬で、俺は必死に先輩の名前を呼んだ。
「……まとっ……」
微かに聞こえた声に、俺は足を止めた。耳に意識を集中させるが、それ以上声を聞こえることはなかった。気のせいだったのかもしれない。俺は歩き出そうとして、もう一度「璃真先輩」と呼びかけた。
「大和!」
今度ははっきりと聞こえた。先輩の声に、俺は安堵を覚えたが、すぐに不安が大きくなる。先輩がどうなっているか、嫌な想像ばかり浮かんでしまう。俺は声が聞こえた方向へ、耳をすませながら近づいていく。先ほど通り過ぎた路地から、物音が聞こえる気がして、俺は路地へ足を踏み入れた。
「先輩、どこですか」
一軒家やマンションの裏手の路地は狭くて暗い。俺はスマホのライトで辺りを照らして、先輩を探す。路地を進み、そして、建物脇にうごめく人影を見つけた。ライトに照らされた人影はもぞもぞと動き、俺はそれが先輩であることを認識した瞬間、駆けだしていた。
「先輩!」
先輩ともう一人、見たことのない人物がいる。スーツを着た、おそらく男性で、サラリーマンに見える。その男が先輩の腕を掴み、先輩は逃げようともがいている。あのサラリーマンがストーカーなんだろうか、下手に刺激するのはよくない、先輩を助けなければ、サラリーマンがナイフか何か武器持っているかも、早く先輩を助けなければ、俺の大事な先輩を、助けなければ。
頭の中で思考が暴れて、冷静は判断ができるはずがなく、俺は勢いよく男に体当たりした。身体に鈍い衝撃が走り、男は地面へと倒れこむ。俺も勢い余って、地面に手をついた。ざらりとしたアスファルトの感覚に、手のひらが痛い。持っていたスマホは、地面に転がっていったが、気にしている場合じゃない。
「先輩!」
俺は急いで立上がり、先輩の元へ駆け寄る。弾む呼吸を抑えながら「大丈夫ですか?」と尋ねる。
「大和……」
先輩は力なく俺の名前を呼んだ。俺は先輩の状態を頭のてっぺんから足先まで確認する。怯えた表情をし、服装は乱れているが、一見怪我をしている様子はない。俺はホッと胸をなで下ろした。
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